ラベル 砂浜 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 砂浜 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2025年7月12日土曜日

聖地巡礼シリーズ「松川浦」

 

 函館福井と続けてきた、主に端脚類のタイプ産地を廻るこのシリーズ(?)。今回は環境省のモニタリングサイト1000の調査協力で、福島県の松川浦に行ってきました。サンプルの同定協力はしたことがありますが、現場は初です。





松川浦の端脚類相

 松川浦は言わずと知れたヨコエビ聖地の一つではあるものの、継続して端脚類研究の拠点になっているわけではなく、何より32年前に採られた手法がプランクトンネット採集であったため、親しみやすい潮間帯のファウナはあまり語られていないのが実情だったりします。


過去の調査結果
文献 Hirayama and Takeuchi (1993) 環境省 (2013) 富川 (2013)
出現種 Pontogeneia stocki, Atylus matsukawaensis, Synchelidium longisegmentum, Dulichia biarticulata, Gitanopsis oozekii, Stenothoe dentirama, Lepidepecreum gurjanovae, Eogammarus possjeticus, Tiron spiniferus, Allorchestes angusta, Ampithoe lacertosa, Aoroides columbiae, Corophium acherusicum, Ericthonius pugnax, Gammaropsis japonicus, Guernea ezoensis, Jassa aff. falcata, Synchelidium lenorostralum, Melita shimizui Ampithoidae gen. sp., Grandidierella japonica, Corophiidae gen. sp., Melita shimizui, Melita setiflagella, Ampithoe sp.
Ampithoe lacertosaAmpithoe valida, Hyale sp., Melita shimizui, Talitridae gen. sp.

 属位変更はなんとかなるとして、後に日本個体群が別種として記載されたブラブラソコエビAoroides columbiae(→A. curvipesなどは解釈に注意が必要です。Jassa aff. falcataは順当にいけばフトヒゲカマキリヨコエビJ. slatterlyと推定されますが、他の近似種や未記載種の可能性もあります。
 富川 (2013) の各種は0.5mm目合いの篩にかけて採取されたもので、モニ1000の定量調査に近い手法で行われています。Hyale sp.は恐らくフサゲモクズPtilohyale barbicornis、Talitridae gen. sp.は広義のヒメハマトビムシであろうと思います。


 今回の調査結果はいずれ然るべき媒体でアウトプットされるはずですが、本稿ではフィールドの雰囲気だけお伝えします。比較対象が関東の干潟になってしまうのはご了承ください。



松川浦北部前浜的干潟

 砂州から内側へ突き出た遊歩道の周辺が、調査地になっています。遊歩道の左手には転石帯、右手にはヨシ原が広がっています。転石帯側は、遊歩道根元の少し引っ込んだエントリーポイントから澪筋を越えると、いつの間にか流れのある川へ至ります。ヨシ原側は、汀線方向へ進むにつれカキ礁が卓越します。基質は全体的に有機物の多い砂泥で、転石帯にはパッチ状に底無し沼的なゾーンがあります。


 今回はアオサやオゴノリの繁茂はみられず、干出面はホソウミニナとマツカワウラカワザンショウに被覆されています。深さのある場所では流れの中にアマモの群落が散見されます。


 アマモ葉上やカキ殻表面にはホンダワラ類の付着が散見されました。
 端脚類はアマモ葉上で最も充実しており、表在底生グレーザー・植物基質寄りの自由生活ジェネラリスト・遊泳グレーザーの3者が最も優占していました。いずれの基質においても、造管濾過食者はかなり少ない、むしろほとんどいない印象です。




松川浦南部河口的干潟

 最奥部に開口した細い水路周辺に形成されている、典型的な内湾の富栄養泥干潟です。表層に触れるだけで還元化した黒い部分がのぞくシルトの底質に、転石やカキ殻が散らばっています。一歩進めるごとに足をとられ、ケフサイソガニ類が横っ飛びします。膝をついてじっとしていると、いつの間にか大量のヤマトオサガニに取り囲まれます。

 造管懸濁物食者が高密度に棲息し、漂着物のような多少柔軟性のある基質の周囲には硬質基質寄りの自由生活ジェネラリストが見えますが、際立って端脚類の多様性が高い箇所はみられません。


 潮上帯において、打ち上げ物は陸由来の植物質が卓越し、転石帯とともに、関東の同様の環境から推測できる代表的な属ないし種の構成となっています。 



おまけ:松川浦北部河口

 ここはモニ1000の対象ではありませんが、かなり特色のあるポイントです。


 松川浦に注ぐ最も大きな川の河口部です。ヨシ原が発達しており、深みにはわずかなカキ殻などの硬質基質にオゴノリやアオサが付着しています。底質は基本的に石英や珪岩などが卓越する明色の砂泥で、場所により陸上植物砕屑物が多く混入したり、ヨシ原が幅広く残っている場所ではシルト・クレイ分が増えて底なし沼化しています。泥干潟おなじみのカニがひしめいています。

 甘めかつ基質の多様性が低い環境で、大型藻類上や堆積物中には植物基質寄りの自由生活ジェネラリスト,遊泳性グレーザー,表在底生グレーザー,硬質基質寄りの自由生活ジェネラリストが優占していました。顔ぶれは三番瀬や小櫃川河口に似ています。潮上帯転石下にはフナムシ属が優占し、ヨコエビは僅少でした。



 今回は、定量調査を補完しリストを充実させる意味合いで定性調査専任での参加でした。結論からいうと劇的な種数増には至りませんでしたが、フィールドの感じは何となく掴めてきたので是非ともリベンジしたいところです。もし松川浦という海域のインベントリを行う場合、燈火採集や硬質基質の要素が加われば、科~種の数はもう少し増やせそうです。もはや干潟のモニ1000ではありませんが。



おまけ:蒲生干潟

 環境省やWIJとは関係なく、地元で連綿と継承されてきた定量調査に同行しました。

過去の調査結果
文献 松政・栗原 (1988) Aikins and Kikuchi (2002) 近藤 (2017)
出現種 Grandidierella japonica, Corophium uenoi, Kamaka sp., Melita sp. Corophium uenoi, Grandidierella japonica, Eogammarus possjecticus, Melita setiflagella Monocorophium insidiosum, Grandidierella japonica


 なんと蒲生干潟には「カマカが出る」んですね。
 これはヨコエビストにとって垂涎ものなのですが(平たくいうと、この形態的にも系統的にも特異な科は生息地が限定的かつ体サイズが微小なため、おいそれとはお目にかかれないのです)、今回はダメでした。分布や生息環境を踏まえると、恐らくモリノカマカKamaka morinoiであろうと思います。宮城県のRDBにも掲載されていることですし。
 ウエノドロクダムシMonocorophium uenoiとトンガリドロクダムシM. insidiosumの是非についてここで掘り下げることは避けますが、これら文献における記述内容と今回の実地調査の結果を総合的に判断して、この地においてモノドロクダムシ属の形態種は2種いると解釈して差し支えないものと思います。


 水門を挟んで七北田川河口に接続した潟湖で、堤防の外側に陸上植生からヨシ原の連続性が維持されている奇跡的な場所です。奥部はきめ細かなシルト・クレイで、下るにつれ砂が卓越してきます。ヨシ原を縫い水門へ続く本流は、地盤高が下がるにつれて陸上植物の砕屑物が混ざった砂質からカキ殻の混じる富栄養砂泥へ変容します。本流は水門に近づくにつれ深さを増し、貧酸素化が顕著で三番瀬の澪筋を彷彿とさせます。



 潮廻りの関係か、植物基質寄りの自由生活ジェネラリストが大量に遊泳していて驚きました。底質中には造管性懸濁物食者がパッチ状に分布しており、潮上帯は海浜性種しか得られませんでした。

 調査範囲外だったため手を伸ばしていませんが、潟湖に加えて蒲生干潟の一部とされている七北田川河口の砂浜も、潟湖とはだいぶ様子がかなり違うのでなかなか面白そうです。

 


 東北の干潟をベントスの専門家と一緒にがっつり回るという経験は、かなり貴重でした。ベントス研究拠点としての東北大の将来が心配される中、石巻専修大の底力を目の当たりにしました。



<参考文献>

Aikins, S.; Kikuchi, E. 2002. Grazing pressure by amphipods on microalgae in Gamo Lagoon, Japan. Marine Ecology Progress Series245: 171–179.

Hirayama A.; Takeuchi I. 1993. New species and new Japanese records of the Gammaridea (Crustacea: Amphipoda) from Matsukawa-ura Inlet, Fukushima Prefecture, Japan. Publications of the Seto Marine Biological Laboratory, 36(3):141–178.

環境省 2013. 平成24年度 モニタリングサイト1000 磯・干潟・アマモ場・藻場 調査報告書.

— 近藤智彦 2017. 東北地方太平洋沖地震と津波攪乱後の蒲生干潟 (宮城県) における底生生物の群集動態と優占種の生活史戦略(学位論文).

松政正俊・栗原康 1988. 宮城県蒲生潟における底生小型甲殻類の分布と環境要因.日本ベントス研究会誌33/34:33–41.

富川光 2013. 東日本大震災による津波が松川浦(福島県相馬市)の生物多様性に与えた影響の評価と環境回復に関する研究. 公益財団法人ソルト・サイエンス研究財団平成25年度助成研究報告書. pp.123–132.


2024年5月30日木曜日

LNO敗れる(5月度活動報告)

 

 今回はボウズかました話です。


【I海水浴場】

 例の未記載種の新鮮なサンプルが必要になりました。ヨコエビネットワークの情報に基づくと、今ここにいるはずです。


セーリングのサークルとかが活動しているようですね。


 なんというか…

 場違い感が…


 凝灰岩砕屑物を主体とすると思われる砂地をLNO法(ランドリーネットオペレーション)でガサゴソすると、よく分からない細いタナイスが大量に採れますが、ヨコエビは全くといっていいほど採れません。

 さすがに来た甲斐がなさすぎるため、ウミウチワ Padina をガサってみます。


コウライヒゲナガ Ampithoe koreana


カマキリヨコエビ科

 その他諸々。同定できそうな状態のサンプルも採れました。機会があればファウナの記述もできそう。

 しかし、目的のヨコエビは得られず。



【S海水浴場】

 ここにはいないそうですが、この近さで分布してないのは不自然なのと、昨日採れてない場所でまた採れなかった場合の精神的ダメージは計り知れないため、味変します。


ツバサゴカイ Chaetopterus のものと思われる棲管が大量に。
樋之口ほか(2024)には記載がなかったような。


 かなり遠浅ですね。

 火山岩質の黒っぽい細砂のリップルマークの畝の間に、河川から供給される凝灰岩系の淡色の粗砂が溜まっている感じです。


ドロソコエビ属 Grandidierella


 樋之口ほか(2024) にもニッポンドロソコエビの報告はありますが、学名の authorship と年との間にカンマがないのは気になるポイントですね。

 あとはクチバシソコエビ科 Oedicerotidae が大量に。今のところ属までは落としてません。
 せっかくなので検索表を載せておきます。


世界のクチバシソコエビ科の属までの二又式検索表 

(Barnard and Karaman 1991, Bousfield and Chevier 1996 に基づく)

1. 大顎臼歯部は粉砕形 … 20
— 大顎臼歯部は粉砕形でない … 2
2. 第2咬脚ははさみ形 … 3
— 第2咬脚は亜はさみ形 ... 6
3. 第3,4胸脚の指節は縮退する … 4
— 第3,4胸脚の指節は通常形 … 5
4. 第7胸脚の基節は後縁端部に葉状突起を具える … アメリカサンパツソコエビ属 Americhelidium
 第7胸脚の基節は後縁端部に葉状突起を欠く … サンパツソコエビ属 Synchelidium 
5. 第2咬脚の前節の半分までがはさみ形となる … Chitonomandibulum
— 第2咬脚の前節の1/3未満までがはさみ形となる … ムカシサンパツソコエビ属 Eochelidium 
6. 第1咬脚の前節は延伸せず、延伸する第2咬脚の前節より明らかに短い … 7
— 第1咬脚と第2咬脚の前節はおおむね同長 … 8
7. 第1咬脚は transeverse … Monoculodopsis
—  第1咬脚は亜はさみ形 … Hartmanodes
8. 第1,2咬脚は腕節に葉状突起を具える … 10
— 第1,2咬脚は腕節に明瞭な葉状突起を欠く … 9
9. 第1触角柄部第1節は歯状突起を具える … Cornudilla 
 第1触角柄部第1節は歯状突起を欠く … Aborolobatea 
10. 大顎髭を欠く;第1,2咬脚は発達しない … Machaironyx 
— 大顎髭を具える;第1,2咬脚は強壮 … 11
11. 第1咬脚の腕節の葉状突起は短い/前節をほとんど覆うことはない … 12
— 第1,2咬脚の腕節の葉状突起は長く前節を覆う … 13
12. 腕節の葉状突起は、第1,2咬脚において互いにほぼ同長 … Oediceros 
— 腕節の葉状突起は、第2咬脚より第1咬脚のほうが遥かに短い … Paroediceros 
13. 大顎髭の第3節は第2節とほぼ同長 … 14
— 大顎髭の第3節は第2節より短い … 15
14. 頭頂を具える;第3,4胸脚は長節側面に剛毛列を具える … Finoculodes 
— 頭頂を欠く;第3,4胸脚は長節側面に剛毛列を欠く … Arrhinopsis 
15. 第1,2咬脚の腕節は前縁が伸長し前節とほぼ同長となる、腕節の葉状突起は短く前節の掌縁に届かない … 16
— 第1,2咬脚の腕節は前縁が短い/不明瞭、腕節の葉状突起は伸長して前節の掌縁に達するか、あるいはこれを越える… 17
16. 第1,2咬脚の掌縁は指節と同長、後角は鈍角 … Imbachoculodes 
 第1,2咬脚の掌縁は指節より短い、後角は不明瞭 … Hongkongvena 
17. 顎脚の外板は顎脚髭第1節の端部に達する;第1,2咬脚の腕節の後縁端部に葉状突起を欠く;第3,4胸脚の指節は前節より長い … Sinoediceros 
— 顎脚の外板は顎脚髭第1節の端部を越える;第1,2咬脚の腕節の後縁端部に葉状突起が伸長する;第3,4胸脚の指節は前節より明瞭に短い … 18
18. 第1触角柄部第1節は剛毛を欠く;大顎切歯部は歯状突起がよく発達する;尾節後縁は弯入しない … 19
— 第1触角柄部第1節は剛毛を具える;大顎切歯部は歯状突起を欠く;尾節後縁は弯入する … Perioculopsis 
19. 第1,2咬脚の腕節の前縁は前節長の約20%の長さ ... カンフーソコエビ属 Perioculodes 
— 第1,2咬脚の腕節の前縁は短い … Orthomanus 
20. 第2咬脚ははさみ形 … ハサミソコエビ属 Pontocrates
— 第2咬脚は亜はさみ形 … 21
21. 第1咬脚の掌縁は transverse … Carolobatea 
—  第1咬脚は強壮あるいは掌縁は鈍角 … 22
22. 大顎切歯部の歯状突起はよく発達する… 29
— 大顎切歯部の歯状突起は発達しない … 23
23. 第1咬脚は第2咬脚より大きい;第1触角柄部第1,3節は同長 … Monoculopsis
— 第1咬脚は第2咬脚より短い;第1触角柄部第3節は第1節より短い … 24
24. 第3あるいは第4底節板後部は弯入する … 25
— 第3および第4底節板後部は弯入しない … 27
25. 第1触角柄部第2節は第1節より短い … 26
— 第1触角柄部第2節は第1節と同長 … Arrhis 
26. 頭頂は尖り、第1触角柄部第1節の半分に届かない … Aceroides 
— 頭頂は伸長し、第1触角柄部第1節端部に到達する ... Rostroculodes
27. 第1,2咬脚は退化的;複眼は背面に円形を形作る  … Gulbarentsia
— 第1,2咬脚は退化的;複眼は背面に円形を形作らない、あるいは複眼を欠く ... 28
28. 複眼は縮退するかこれを欠く;大顎髭第2節は直線的 … ツッパリソコエビ属 Bathymedon
— 複眼はよく発達する;大顎髭第2節は湾曲する … Westwoodilla 
29. 第2尾節副肢先端は、第3尾肢柄部の端部に届く;第3尾肢は長大 … Halicreion
— 第2尾節副肢先端は、第3尾肢柄部の端部を明瞭に越える;第3尾肢は通常形 … 30
30. 第2咬脚の前節は第1咬脚の前節より短く、細長い … リクスイクチバシソコエビ属 Limnoculodes 
— 第2咬脚の前節は第1咬脚の前節より長いか、あるいは同長 … 31
31. 第5胸脚の長節後縁は伸長し腕節を覆う … 32
— 第5胸脚の長節は腕節を覆う突起を欠く … 33
32. 第5胸脚の長節は後縁端部に、腕節へ覆いかぶさる葉状突起を具え … Parexoediceros 
— 第5胸脚の長節は端部に突出部を欠く … Kroyera
33. 胸節背面に多数の隆起をもつ … 34
— 胸節背面に突起を欠く … 35
34. 複眼は大きく頭部背面で相接し、頭頂内へは入り込まない … Acanthostepheia
— 複眼は小さく頭頂内に収まる、あるいはこれを欠く ... Oediceroides
35. 左右の複眼は完全に癒合し、頭部の背面に位置する  … 36
— 複眼は癒合しない、あるいは癒合しても頭頂内に収まる、あるいはこれを欠く … 40
36.  第4底節板の葉状突起は発達が弱く鈍い;尾節板は後縁に切れ込みをもたず全縁  … 37
— 第4底節板は鋭く尖る葉状突起を具える;尾節板は後縁に切れ込みを具える … Paroediceroides 
37. 第1,2咬脚の腕節後縁端部の葉状突起は小さい …  Paraperioculodes 
— 第1,2咬脚の腕節後縁端部の葉状突起は、前節の掌縁後角に達する … 38
38. 第1咬脚の腕節は大きく、細長い … Pacifoculodes
— 第1咬脚の腕節は小さく、幅広い … 39
39. 第3,4胸脚の長節は腕節より長いか同長;第7胸脚の基節後角の葉状突起は不明瞭か、あるいはこれを欠く … Deflexilodes
— 第3,4胸脚の長節は腕節より長い;第7胸脚の基節は、座節を越える明瞭な葉状突起を後角に具える … Ameroculodes 
40. 第4底節板の後角は大きく鈍い葉状突起を具える … Oedicerina 
— 第4底節板の後角は大きな突出部を欠くか、あるいは大きく尖った葉状突起を具える … 41
41. 第2小顎の外板は強壮な棘状剛毛を具える … Anoediceros(一部)
— 第2小顎の外板は剛毛を欠く … 42
42. 第1触角は短く痕跡的/全長は第2触角柄部第5節を越えない;第2触角柄部は伸長し、湾曲した長剛毛を具える … 43
— 第1触角全長は第2触角柄部第5節を明らかに越える;第2触角柄部は湾曲した長剛毛を欠く … 45
43. 頭頂はよく発達する;第4底節板の後角は丸みを帯び葉状突起は不明瞭 ... Oediceroides
— 頭頂は痕跡的;第4底節板の後角は尖る … 44
44. 第1触角の柄部第1,2節は伸長する;第2触角の柄部は長剛毛を欠く;第2小顎の外板は剛毛を具える;第4底節板の葉状突起の突出は弱い … Anoediceros(一部)
— 第1触角の柄部第1,2節は短い;第2触角の柄部は長剛毛を具える;第2小顎の外板は剛毛を欠く;第4底節板は拡張する … Oediceropsis
45. 第1触角の柄部第3節は第1節より短い … クチバシソコエビ属 Monoculodes
— 第1触角の柄部第3節は第1節と同長 … 46
46. 第1,2咬脚の腕節葉状突起は前節に覆いかぶさる … Monoculopsis
— 第1,2咬脚の腕節葉状突起は前節に覆いかぶさらない … 47
47. 頭頂は前方へ伸長する … Paramonoculopsis 
 — 頭頂は伸長しない … Lopiceros

 クチバシソコエビも科としては 樋之口ほか(2024) に記録があります。

 なお、今回は上記グループ以外に文献記録がないと思われる属も見つかったので、K大での解析をお願いする予定です(丸投げ)。

 この地でもLNO法で採集を試みましたが、よりサンプルの損傷を防ぎ効率的に採捕する方法を編み出しました。これはヨコエビネットワークで共有していきたいと思います。

 東からの風が止まず、上げ潮はかなり食い気味に訪れました。潮上決戦にもつれこむことにします。


第7胸脚の長節,腕節の太さからすると、 
 タイヘイヨウヒメハマトビムシ Platorchestia pacifica 
 のような気がします。

 あまり大きな個体は採れませんでした。

 海岸に設置された環境学習施設のスタッフによると、ここの「干潟生物」の定義は厳密な干潟の定義に対して忠実に設定され、「潮間帯砂地のもののみ」に限定しているとのことで、ハマトビの類は「干潟生物ではない」という位置づけのようです。ただ 樋之口ほか(2024) は周辺の湿地のファウナも含んでいるようで、ハマトビの類もしっかり分類ができれば今後改訂版に掲載される可能性はあるかと思います。


 やはり狙ったヨコエビが採れなかったことには忸怩たる思いがありますが、久々に未踏の地で干潟を堪能できて良かったです。いるはずのヨコエビを採集できないという事態は回避していきたいので、採集方法や微環境選定など見直す精度の向上を図りたいと思います。



<参考文献>

— Barnard, J. L.; Karaman, G. S. 1991. The Families and Genera of Marine Gammaridean Amphipoa (Except Marine Gammaroids). Records of Australian Museum supplment 13, part 1,2, 866p. <part 1> <part2>

Bousfield, E. L.; Chevrier, A. 1996. The Amphipod Family Oedicerotidae on the Pacific Coast of North America. 1. The Monoculodes & Synchelidium Generic Complexes: Systematics and Distributional Ecology. Amphipacifica, 2(2): 75–148.

樋之口蓉子・田島奏一朗・是枝伶旺・本村浩之 (編著) 2024. 『改訂版錦江湾奥干潟の生き物図鑑』. 特定非営利活動法人くすの木自然館, 姶良市. ISBN978-4-600-01440-7


2023年10月2日月曜日

アスワメクラヨコエビ(2023年10月度活動報告その1)

 

 福井の博物館でヨコエビを見れるとのことなので、ついでに採集もしようと出かけていきました。



<F県M海岸採集>

 

なかなか良さげな海岸ですね。

 打ち上げ海藻と松林。ちょっと岡山に似ている感じもします。この引っ込んだ砂浜と植生の感じ、犬島南岸ぽい。ということは、狭義のヒメハマトビムシ(広義のDemaorhestia joi)(※補遺)もワンチャンあるか…?


 堤防には特に何もありません。アオノリ的なサムシングをガサガサするとエビ(十脚)。


 砂を掬ってみると粒径は粗め。まずい。ナミノリソコエビ狙いでしたが、これはボウズの公算大です。ヒサシソコエビやクチバシソコエビならあるいは…


 ダメだ。全く採れない。


 打ち上げ物を徐にめくってみます。 

 信じがたい。何もいない。

 小雨パラつくハマトビ日和じゃぁないのか?


 潮間帯上部はヨシの枯死体が優占し、汀線際はホンダワラ類やらミルやらが見られますが、かなりオオカナダモの割合が多く、陸域からの供給が多いものと考えられます。

 砂浜で拾った褐藻なんかをガサガサしてみても、何も出ません。ヨコエビだけしか視認できない変態知覚を有しているわけではなく、ゴカイ、巻き貝、メガロパ、コペなどもいません。あらかた波に洗われて、元々付いていた表在ベントスは落ちてしまうのでしょう。


 熱海の経験を思い出して堤防近くのヨシをめくってみると。


 おるやん。



 検索表からするとニホンヒメハマトビムシですが、オスの第7胸脚は肥大化しません。第1尾肢の棘数や触角の太さからすると、オカトビ系ということはなさそう。あまり大きな個体が採れなかったので、胸脚の発達が弱いだけか、あるいは…


 あとは最後の希望をかけて、堤防に挟まった諸々の藻屑を漁ります。


?フサゲモクズ Ptilohyale cf. barbicornis

 オスが採れたのは良いものの、成熟してないようであまり形態形質がはっきりしません。なお、フサゲモクズは潮間帯上部に棲息する本邦最普通種です。

 そういうことか。

 硬質基質のクラックや付着物の隙間に細々と暮らすフサゲモクズだけがこの海岸に棲めるヨコエビであって、攪乱の大きい砂浜は潜砂性種にとって良い環境ではないようです。





<福井市自然史博物館>

 こちらの記事で、22日までアスワメクラヨコエビ (Shintani et al. 2023) の展示をしてるとのことだったので、のぞいてみました。

 年内に新種記載されたばかりの生物を生体展示というのがそもそもしょっちゅうあることではないのですが、それが洞窟性の小型甲殻類となると相当レアな試みだと思います。


博物館はほぼ山頂のような場所にあります。



 どうやら、昆虫展の一角でやってるみたいです。


 これは…



おるおる。

 アスワメクラヨコエビ Pseudocrangonyx asuwaensis と初対面。

 洞窟性種なので、この時期に室内展示するため常に冷却を要するVIP待遇となっております。

 折しも本日、共同通信はじめ産経新聞などで報道がありましたが、食性については推測の域を出ませんね。富川先生から以前お伺いした話からすると、バクテリア食という線が濃厚な気がします。

 「新種認定」とか、ところどころ表現が気になるものの、かなり「真面目に騒いでる」感じが伝わってきます。

 発見場所である足羽山というのは、沖積平野に頭を出している「氷河時代の削り残し」で、ここに産する地下性動物というのは他と隔離されて独自の歴史を歩んできたものと考えられ、大変貴重な存在といえます。そういった足羽山の洞窟生態系の特異性がこの博物館の1つのテーマになっていて、今回もそれに沿った構成になっていました。


 それにしても…



 (アスワ)メクラヨコエビに言及したパネルだらけです。

 それに限らず、足羽山で量的に優占するのか、陸棲ヨコエビも他博物館に比べるとかなり扱いが良い雰囲気。


常設展の土壌動物コーナーにオカトビがいます。パネルの属位は古いようです。

 あと、入り口で売っていた図録、何気なくパラパラしていたら、半分以上にヨコエビが載っていて思わず爆買いしてしまった。




 もうこれは、福井は恐竜王国,蕎麦王国に次いで「ヨコエビ王国」でもあると言っても過言ではないのでは(過言です)。


 慌ただしい初福井でしたが、ヨコエビ収率が悪かったことを除けばかなりの充実度でした。ここまでヨコエビを堪能できる博物館があるとは(しかも海産はノータッチ)。福井のヨコエビリティの全貌を把握するには至りませんでしたが、いくらなんでも潮間帯~潮上帯で10種を切ることはないのではと思います。ご縁があれば調査してみたいとこではあります。


 

<補遺>

 “ヒメハマトビムシ“に対応する学名は Demaorhestia joi とされていますが(=狭義のヒメハマトビムシ)、「真の D. joi」といえる大陸個体群に対して、約20年にわたり同種とされていた台湾個体群が D. pseudojoi という別種にされました (Lowry and Myers 2022) 。これら2つの個体群と同種と考えられていた日本個体群について十分な検討は行われておらず、厳密にはどっちつかずという状況です。大陸と同種か、台湾と同種か、あるいは全く別の種か、はたまたこれらは結局同種なのか…。

 日本個体群が過去に D. joi と同定された経緯は間違いなくあり、現状それを覆せる証拠もないことから、消極的に踏襲しているという意味での「広義の D. joi」です。ただ、積極的に支持する証拠もまたありません。



<参考文献>

 Lowry, J. K.; Myers, A. A. 2022. Platorchestiinae subfam. nov. (Amphipoda, Senticaudata, Talitridae) with the description of three new genera and four new species. Zootaxa5100(1): 1–53.

— Shintani A.; Umemura S.; Nakano T.; Tomikawa K. 2023. A new species of the genus Pseudocrangonyx (Crustacea: Amphipoda: Pseudocrangonyctidae) from subterranean waters of Japan. Zootaxa, 5301(3): 383–396. 

2023年9月6日水曜日

北のベンプラ(9月度活動報告)

 

 ベントス学会・プランクトン学会合同大会に参加しました。とっておきのネタが無かったわけでもないのですが、色々あって今回も聴講生です。すいません。


 平日から函館というハードめのスケジュールですが、仕事をかなぐり捨ててやってきました。




 ちょっと天気が悪いですね。

 函館は、私と関係が浅くない某ヨコエビのタイプ産地でもあるため、どうしてもついでの採集を試みたいところ。



<朝採れヨコエビ>

 初日シンポジウムは午後スタートのため、朝イチで海辺を散策します。あいにくの雨です。

 砂浜には漁師さんがいます。漁師さんの仕事場にお邪魔させて頂くという意識は絶対に忘れてはいけないと思います。





 割と簡単に獲れる。

 

ナミノリソコエビ Haustorioides japonicus

 日本から初めて記載されたナミノリソコエビ科です (Kamihira 1977) 。

 夏季個体群なので小ぶりですね。それでも同時期のウスゲナミノリよりだいぶデカい印象です。


 あとは謎のハマトビムシ。ちょっとまだ細部を見れてませんが、成熟オスは採れてないっぽいので結局分からんかもです。




<聖地巡礼>

 夜の干潮を狙い、真の聖地に向かいます。



 波当たりが強い。

 湾の外にあたるためか、朝のポイントより遙かに激しいことになっています。

 いつものように胴長で腰高まで浸かると間違いなく波に飲まれてヨコエビの餌ですので、今日は脛の二割を超えないよう動きます。


 砂浜には照明を設置(誑かす砂上の月光ハマトビキャッチャー)。LEDでも集まることは和歌山で確認済み。北海道の「ヒメハマトビムシ」は恐らく全て未記載なので、この機会に姿を拝みたいところ。




 しかし、この暗がりでも分かる、ヒゲナガハマトビの気配。灯りを付けると20ミリ級の巨躯が次々現れます。カッコいいヨコエビではありますが、呼んでない…


ヒゲナガハマトビムシ属の何か Trinorchestia sp.


 ヒゲナガハマトビの種分類は混沌としており、既存の同定形質の設定に無理があるため、タイプシリーズを見るしか解決手段はありません。1種にまとまるのか、はたまたとんでもない種多様性が内包されているのか。ペンディング案件のため3、4個体だけ持ち帰らせてもらいます。


 波打ち際ではなんとかナミノリソコエビを少数確保。粒径はかなりムラがあり、生息適地の微環境を探るのにコツがいりそうです。暗いと猶更。


 

<全日本端脚類交流会道南分科会>

 学会大会後の恒例のやつです。

 北大における潮間帯のフィールドといえば厚岸のイメージが強いですが、西側にもサイトがあり、こういったホームページで紹介されています。

 端脚類交流会で時々「カットシ」という言葉が出てきて、北海道にもケット・シー(アイルランド伝承の猫の妖精)がいるのかと思ったのですが、これは「葛登支(かっとし)」という地名で、今まで呑んでた学生さんたちは実は例のホームページを管理しているメンバーだったのでした。


 さて、特に頼まれてはいませんが、所感を述べたいと思います。

  • スンナリヨコエビ科の1種 Maeridae sp.:良好な写真のため属までの同定に支障はないと思います。Ariyama (2018, 2019a, 2019b, 2020) Ariyama et al. (2020)あたりをおさえると、すんなりいくかと思います。
  • フトヒゲソコエビ科の1種? Lysianassidae cf. sp.:Dactylopleustinae亜科にみえます。
  • チョビヒゲモクズ Hyale pumila Hiwatari & Kajihara, 1981:評判の芳しい論文ではありませんがさすがに20年も経つので、Bousfield and Hendrycks (2002) を参照したほうがいい気がします。この体系については本ブログでも取りあげました
  • ニッポンモバヨコエビ Ampithoe lacertosa Bate, 1858:概ね正しいと思いますが、ヨツデヒゲナガも採れる可能性があるので、近似種の整理は性別や成長度合いに左右されない複数形質をピックアップして、密に検証した方がよさそうです。
  • フサゲヒゲナガ?Ampithoe cf. zachsi Gurjanova, 1938:触角に毛が多いヒゲナガヨコエビ属には、フサゲヒゲナガのほかコウライヒケナガや Ampithoe shimizuensis なども候補になります。フサゲヒゲナガの原記載は咬脚がまだ変身を残しているように見えて仕方がないので、これも多角的な検討が必要です。
  • ヒゲナガヨコエビ科の1種 Ampithoidae sp.:わたしもこの類は不案内ですが、オオアシソコエビ属 Pareurystheus のようです。

 なお、近年のヒゲナガヨコエビ科を理解する上では Peat (2007) や Peat and Ahyong (2016) などが重要です(注:最新の処遇ではありませんが大枠として)


 あと、サンプルももらいました。


ヒゲナガヨコエビを頂きました。
こんなんなんぼあってもええですからね。
(メスのため同定困難、モズミっぽいが本州と模様が異なる)


 かなり端脚の発表が多く、また多くの若手に会うことができました。ベントスそしてヨコエビの未来は明るい。

 プランクトンの発表も聴く機会があり、大変美味しい学会でした。皆様お疲れ様でした。



〈参考文献〉

— Ariyama H. 2018.  Species of the Maera-clade collected from Japan. Part 1: genera Maeropsis Chevreux, 1919 and Orientomaera gen. nov. (Crustacea: Amphipoda: Maeridae). Zootaxa4433(2).

— Ariyama H. 2019a. Species of the Maera-clade collected from Japan. Part 2: genera Austromaera Lowry & Springthorpe, 2005 and Quadrimaera Krapp-Schickel & Ruffo, 2000 (Crustacea: Amphipoda: Maeridae). Zootaxa, 4554(2).

— Ariyama H. 2019b. Two species of Ceradocus collected from coastal areas in Japan, with description of a new species (Crustacea: Amphipoda: Maeridae). Zootaxa4658(2): 297–316.

— Ariyama H. 2020. Species of the Maera-clade collected from Japan. Part 3: genera Maera Leach, 1814, Meximaera Barnard, 1969 and Orientomaera Ariyama, 2018 (addendum), with a key to Japanese species of the clade (Crustacea: Amphipoda: Maeridae). Zootaxa4743(4): 451–479.

— Ariyama H.; Kodama M.; Tomikawa K. 2020. Species of the Maera-clade collected from Japan. Part 4: addenda to genera Maera Leach, 1814 and Quadrimaera Krapp-Schickel & Ruffo, 2000, with revised keys to Japanese species of the clade (Crustacea: Amphipoda: Maeridae). Zootaxa4885(3): 336–352.

— Bousfield, E. L.; Hendrycks, E. A. 2002. The talitroidean amphipod Family Hyalidae revised, with emphasis on the North Pacific Fauna: Systematics and distributional ecology. Amphipacifica, 3(3): 7–134.

— Kamihira Y. 1977. A new species of sand-burrowing marine amphipods from Hokkaido, Japan. Bulletin of the Faculty of Fisheries, Hokkaido University, 28(1): 1–5. pls.I–V.

— Peat, R. A. 2007. A review of the Australian species of Ampithoe Leach, 1814 (Crustacea:  Amphipoda:  Ampithoidae)  with  descriptions  of  seventeen new species. Zootaxa1566: 1-95.

— Peat, R. A.; Ahyong, S. T. 2016. Phylogenetic analysis of the family Ampithoidae Stebbing, 1899 (Crustacea: Amphipoda), with a synopsis of the genera. Journal of Crustacean Biology36(4): 456–474 . 


2019年9月3日火曜日

山口さんち(8,9月度活動報告)


 この夏はウシロマエソコエビを求め,あちこち遠征をしてきました(和歌山愛知など).前回の伊勢湾遠征を「この夏最後」と考えていましたが,せっかくなのでここでもう一息と仕切り直し,未踏の地,山口へと足を伸ばしました.



サイト1


 崩れず,照り過ぎず.天候は申し分ありません.

 やばい.めっちゃ広い.

山口県某所.


 淡い色の,石英優占の粗砂がメインの砂浜です. 

 瀬戸内といえば,自然海岸を求めてさまよった岡山の調査が記憶に新しいところ.山口ではあっさりたどり着きました.岡山のロケハン難易度に比べてだいぶハードルが低いように思います.

 少し知多半島に似ていて,遠浅で海草が根付いた良さげな砂浜ですね.


 そんなに変わった生き物はいません.







 何かしらのヤドカリと何かしらのトウガタガイとカブトガニ…














 カブトガニ?!










 マジかよ.





 博物館の収蔵庫とかで見たことありますが,こうして野外で死骸を見つけたのは初めてです.ちっこい子供とかでも動揺は不可避なところ,いきなり大人でしかも2杯.こわすぎ.

 岡山遠征の折,「笠岡のカブトガニは天然記念物」という記憶が強く脳裏に刻まれており,非常にビビりました.でも,どうやら山口県下では天然記念物になってないらしく,ビビる必要はなかったようです.それにしても,この干潟のどこかに生きたカブトガニがいるとでも…? 


 とりあえずいつもの通り,汀線へと向かいます.


※カブトガニは地域によって天然記念物の指定を受けており,採集など「現状を変更する行為」には許可が必要です.また,長崎県のように,独自に条例を制定して捕獲を禁じている場合もあります.


これは何かしらの背骨.



 ひたすらに LNO を繰り出しますが


マルソコエビ(Urothoe).




クチバシソコエビ(Oedicerotidae).




ドロソコエビ(Grandidierella).





 掘るとオフェリアが多く,あとは何かしらのハゼとワタリガニ.たまにウミナナフシ,稀にクーマ.

 採れない.





 仕方がないので固着物に打撃を.

ユンボソコエビ属(Aoroides).


ドロクダムシ科(Corophiidae).


 驚きのヨコエビリティの低さ.


 砂の中のマルソコエビ密度はなかなかのものですが,磯的環境について特に見処はないようです.

 例のごとくタイムリミットが近づいてきたため潮上決戦に移行します.


 
ヒメハマトビムシの近似種(Platorchestia pacifica).


ニホンスナハマトビムシ(Sinorchstia nipponensis
第1尾肢の外肢に棘状剛毛があります.


 
 ヒゲナガハマトビムシみのある孔は見つかりませんでしたが,分布はしていてもおかしくない.課題とします.





 

サイト2


 未明.28時半.天気は雨.




山口県某所.


 夜に偵察したところパリピが活発に活動していましたが,さすがにこの時間,この空模様,誰もいません.

 打ち上げ物はかなり綺麗にされているようです.


 

 粗砂の浜が続き,リゾートみは感じますが,ヨコエビリティは感じられません.暗いせいもあってなかなか良いポイントがわかりません.

 浜の外れの雰囲気はやや磯っぽく,砂浜の凹凸にもヨコエビリティが感じられてきました.

 おもむろにLNOを繰り出すと


ヒサシソコエビ(Phoxocephalidae). 


 そっちか!


 潜砂性の優占種がヒサシソコエビに寄っているのは,和歌山に似ています.

 ならばもう一声,と周囲を探索したものの,上げ潮により敢えなく撤退.もっと早く始めるべきでした.



 さて,5時半を過ぎたあたりから,浜辺に人が集まりはじめました.
 近づくにつれ,釣り人であることと,ゴミ拾いをしている様子が見えました.



 釣り師のおじさんによると,ここらは6時から9時までの3時間だけ釣りが可能で,それにも幾つか条件があるそうです.
 その一つがゴミ拾いで,釣りが終わった時点で袋一杯にゴミを拾っていないと,ルール違反になるとのことです.ゴミの基準も「土に還らないもの」に限定しているとのこと.
 確かに,腐ったような打ち上げ海草/海藻は除去しているように見えましたが,良い感じにくたびれた植物体はわりと残されており,ニホンスナハマトビムシが見られました.汀線際の新鮮な打ち上げ物のまわりには,Platorchestiaと思われる微小なハマトビの子供たち.なかなか良い状態です.
 そして何より,この釣りルールを全面的に管理・運営しているのが市だというので,その実行力に驚きました.ぜひ全国で発展させてほしい.そして我々も参加できる枠組みになればいいな…


 「パアン」という花火が2回,浜に響くと,汀線に控えていた釣り人たちはめいめいに針を沈めていきました.


これはうまく撮れなかったゴンズイ玉.




 総括.

 ウシロマエソコエビを探る旅は,これにて一旦終わりです.2勝を収めましたが,いずれも細かく生息地を教えて頂いた場所で,自力のGoogleロケハンで突き止めた生息地は皆無です.

 敗因の1つは,アクセサビリティを重視しているため訪れる干潟が限られる点かと.生息情報があるエリアの中で,電車やバスで行きやすい場所を優先しているため,そこが必ずしも生息密度が高いとは限らない可能性.

 もう1つは採集方法の難点.約1mmメッシュの洗濯ネットを使っていますが,粒径が大きい場所ではヨコエビといっしょに砂粒が篩に残り,あまり意味をなしません.また,潮下帯で篩を使う場合,砂を採って持ち上げた時に逃げてしまう可能性がある.潮下帯へのアプローチが甘い中で,土地のヨコエビリティを受け止めきれているだろうか.あと,もしかすると網やバットを黒くすれば視認性が向上するのかもしれない.

 採集スタイルについては,まだ改善の余地があると思います.九州遠征を経て,改めてレンタカー採集の素晴らしさを認識しました.ホテルや宅配便センターとの連携により,大きな荷物を別送して採集に臨むこともできるはず.

 あとはロケハンの眼を養うため,失敗を重ねつつ,何度か同じ場所にアタックして知見を深めながら次の干潟へ行く,という心掛けも大切かもしれません.












2019年8月13日火曜日

東海サマー(8月度活動報告)


 ウシロマエソコエビを探して,近畿や東海を放浪しています.

 もう潮が引かなくなるので,夏の最後のチャンスを伊勢湾に賭けました.

 運命的な出会いがきっと待ってる・・・?



東海地方某所.


 事前に仕入れていた情報では,このへんで採れるとのこと.

 粒が粗い.


 クリークが校庭の砂利のような粗砂で満ちています.あまり見たことのない湿地です.




 岸から一定距離は砂利のような礫のような,潜砂性種狙いの身として扱いにくい底質が続いています.しかしヤドカリはいっぱい.



 ワンドを越えるごとに粒径が変わり,1mm 以下になるところもあります.なるほどこういう感じのフィールドなんだな…




 ワンドの間にはかなりの密度のアマモ場が.打ち上げ物を見ても海藻は少なく,バイオマスにおいてアマモがかなりの部分を占めているようです.

ドロソコ(Grandidierella).

 どこにでもいますね.

 二枚貝を採りに来ている人が多いようです.飽きるほどのマテと,マルスダレガイ科っぽい稚貝が見られました.
 チョロチョロと砂の上をハゼが滑り,スナモグリやワタリガニの子供,クーマ,オフェリア,チロリ,スピオ,スゴカイイソメ,ツバサゴカイなど,少し掘っただけでも砂の中のメンバーは厚いです.顔を出したスゴカイは初めて見た(さすがに撮影はできず).




 しかし,潜砂性ヨコエビは増えず.上げ潮に転じたためガサりに移ります.



ところどころ硬い石や人工物があり,アオサが付いています.



 

ヒゲナガヨコエビ(Ampithoe).




ポシェットトゲオヨコエビ(Eogammarus possjeticus).



メリタ(Melita)とイソヨコエビ(Elasmopus).




 ここまでの所要時間,およそ2時間半.驚くべき歩留まりの悪さ.

 日差しもきついので,潮上決戦で〆めます.


打ち上げられているのはほぼアマモ.  誰も掃除していない感じがGOOD.


 めっちゃおる.

 過去にないくらいのヒメハマ活性です.大人が多い.
 これ夜間に灯火を焚いたら楽しいやろなぁ.ついでにEHT法もぶちきまして…


 やはり海草の打ち上げが続いていることがハマトビリティには重要ということでしょうか.しかし,得られたのはPlatorchestia pacifica





 総括.

 事前情報を得ていながら,目的の成果を得ることができませんでした.伊勢湾はもう少し攻めたいところなので,この自然海岸のヨコエビリティをどうモノにするかが課題です.
 それにしても,ドロソコも,モズミんも,ポシェットタソも,P. pacifica も,本当にどこにでもいるのが驚きです.