2019年9月3日火曜日

山口さんち(8,9月度活動報告)


 この夏はウシロマエソコエビを求め,あちこち遠征をしてきました(和歌山愛知など).前回の伊勢湾遠征を「この夏最後」と考えていましたが,せっかくなのでここでもう一息と仕切り直し,未踏の地,山口へと足を伸ばしました.



サイト1


 崩れず,照り過ぎず.天候は申し分ありません.

 やばい.めっちゃ広い.

山口県某所.


 淡い色の,石英優占の粗砂がメインの砂浜です. 

 瀬戸内といえば,自然海岸を求めてさまよった岡山の調査が記憶に新しいところ.山口ではあっさりたどり着きました.岡山のロケハン難易度に比べてだいぶハードルが低いように思います.

 少し知多半島に似ていて,遠浅で海草が根付いた良さげな砂浜ですね.


 そんなに変わった生き物はいません.







 何かしらのヤドカリと何かしらのトウガタガイとカブトガニ…














 カブトガニ?!










 マジかよ.





 博物館の収蔵庫とかで見たことありますが,こうして野外で死骸を見つけたのは初めてです.ちっこい子供とかでも動揺は不可避なところ,いきなり大人でしかも2杯.こわすぎ.

 岡山遠征の折,「笠岡のカブトガニは天然記念物」という記憶が強く脳裏に刻まれており,非常にビビりました.でも,どうやら山口県下では天然記念物になってないらしく,ビビる必要はなかったようです.それにしても,この干潟のどこかに生きたカブトガニがいるとでも…? 


 とりあえずいつもの通り,汀線へと向かいます.


※カブトガニは地域によって天然記念物の指定を受けており,採集など「現状を変更する行為」には許可が必要です.また,長崎県のように,独自に条例を制定して捕獲を禁じている場合もあります.


これは何かしらの背骨.



 ひたすらに LNO を繰り出しますが


マルソコエビ(Urothoe).




クチバシソコエビ(Oedicerotidae).




ドロソコエビ(Grandidierella).





 掘るとオフェリアが多く,あとは何かしらのハゼとワタリガニ.たまにウミナナフシ,稀にクーマ.

 採れない.





 仕方がないので固着物に打撃を.

ユンボソコエビ属(Aoroides).


ドロクダムシ科(Corophiidae).


 驚きのヨコエビリティの低さ.


 砂の中のマルソコエビ密度はなかなかのものですが,磯的環境について特に見処はないようです.

 例のごとくタイムリミットが近づいてきたため潮上決戦に移行します.


 
ヒメハマトビムシの近似種(Platorchestia pacifica).


ニホンスナハマトビムシ(Sinorchstia nipponensis
第1尾肢の外肢に棘状剛毛があります.


 
 ヒゲナガハマトビムシみのある孔は見つかりませんでしたが,分布はしていてもおかしくない.課題とします.





 

サイト2


 未明.28時半.天気は雨.




山口県某所.


 夜に偵察したところパリピが活発に活動していましたが,さすがにこの時間,この空模様,誰もいません.

 打ち上げ物はかなり綺麗にされているようです.


 

 粗砂の浜が続き,リゾートみは感じますが,ヨコエビリティは感じられません.暗いせいもあってなかなか良いポイントがわかりません.

 浜の外れの雰囲気はやや磯っぽく,砂浜の凹凸にもヨコエビリティが感じられてきました.

 おもむろにLNOを繰り出すと


ヒサシソコエビ(Phoxocephalidae). 


 そっちか!


 潜砂性の優占種がヒサシソコエビに寄っているのは,和歌山に似ています.

 ならばもう一声,と周囲を探索したものの,上げ潮により敢えなく撤退.もっと早く始めるべきでした.



 さて,5時半を過ぎたあたりから,浜辺に人が集まりはじめました.
 近づくにつれ,釣り人であることと,ゴミ拾いをしている様子が見えました.



 釣り師のおじさんによると,ここらは6時から9時までの3時間だけ釣りが可能で,それにも幾つか条件があるそうです.
 その一つがゴミ拾いで,釣りが終わった時点で袋一杯にゴミを拾っていないと,ルール違反になるとのことです.ゴミの基準も「土に還らないもの」に限定しているとのこと.
 確かに,腐ったような打ち上げ海草/海藻は除去しているように見えましたが,良い感じにくたびれた植物体はわりと残されており,ニホンスナハマトビムシが見られました.汀線際の新鮮な打ち上げ物のまわりには,Platorchestiaと思われる微小なハマトビの子供たち.なかなか良い状態です.
 そして何より,この釣りルールを全面的に管理・運営しているのが市だというので,その実行力に驚きました.ぜひ全国で発展させてほしい.そして我々も参加できる枠組みになればいいな…


 「パアン」という花火が2回,浜に響くと,汀線に控えていた釣り人たちはめいめいに針を沈めていきました.


これはうまく撮れなかったゴンズイ玉.




 総括.

 ウシロマエソコエビを探る旅は,これにて一旦終わりです.2勝を収めましたが,いずれも細かく生息地を教えて頂いた場所で,自力のGoogleロケハンで突き止めた生息地は皆無です.

 敗因の1つは,アクセサビリティを重視しているため訪れる干潟が限られる点かと.生息情報があるエリアの中で,電車やバスで行きやすい場所を優先しているため,そこが必ずしも生息密度が高いとは限らない可能性.

 もう1つは採集方法の難点.約1mmメッシュの洗濯ネットを使っていますが,粒径が大きい場所ではヨコエビといっしょに砂粒が篩に残り,あまり意味をなしません.また,潮下帯で篩を使う場合,砂を採って持ち上げた時に逃げてしまう可能性がある.潮下帯へのアプローチが甘い中で,土地のヨコエビリティを受け止めきれているだろうか.あと,もしかすると網やバットを黒くすれば視認性が向上するのかもしれない.

 採集スタイルについては,まだ改善の余地があると思います.九州遠征を経て,改めてレンタカー採集の素晴らしさを認識しました.ホテルや宅配便センターとの連携により,大きな荷物を別送して採集に臨むこともできるはず.

 あとはロケハンの眼を養うため,失敗を重ねつつ,何度か同じ場所にアタックして知見を深めながら次の干潟へ行く,という心掛けも大切かもしれません.












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