岸和田から始まった「チリモン(ちりめんじゃこモンスター)」の公認妹?弟?分の「ワカモン(ワカメモンスター)」が開発されたとのことで、覗いてみました。
岩手県大船渡市の碁石海岸インフォメーションセンターが現場です。
到着早々、さっそくワカモンをゴッチャ。この地域ではワカメに混じる雑多な甲殻類を「シャムシャラリン」と呼ぶらしく(※小田嶋ほか 2014くらいしか文献が無い)、それがイコール「ワカモン」ということになります。ちりめんじゃこのようにゴッチャゴチャの状態のワカモンを、匙で好みの量だけ掬います。珍種が入っていることを祈りつつ。
端脚界隈には堪らない光景です。 |
ワカメモンスターは出来たばかりのプログラムで、これが初回。しかもチリモン系列としては東北初の出店とのことです。しかし地元博物館のスペックの高さ故か、チリモンのノウハウがしっかり活かされているためか、道具や資料は洗練されていて進行はスムーズです。
オープニングではワカモンの背景の説明。チリモンからワカモンが着想され形になった経緯について、なかなか興味深いお話を聞けました。地域の産業たるワカメが選ばれた理由や、イベントとして成立させる道筋。環境教育プログラムの設計や運営といった観点からもものすごく勉強になります。これが500円ですから実質無料です。
その後、ほとんど分類群の予備知識の無い状態でまず直感でワカモンを仕分けてみます。ヨコエビおじさんは端脚ソーティング経験者ですが、ワレカラは専門外。事前にワカモンの画像を見て該当しそうな種の分類ができる資料を用意して臨みましたが、肉眼では細かい節の様子などは判別困難。結局雰囲気でソートしていきます。
支給されたピンセットが重くワカモンを破損しそうだったので、私物のピンセットを使用(このへんから目をつけられるようになります)。
そして種類の解説。
ところどころ気になる表現はあるものの、最新学説の不安定さに影響されない丁度いい塩梅のラインです。
ワカモンが優れているところは、体積比でカマキリヨコエビ属九割、ワレカラ九分、残りがその他といった感じで、基本的にワレカラの探索や観察に集中できることです。ワレカラは端脚類の中でも日本における解明度は極めて高く、要点を押さえれば種の同定が可能です。その内訳は、ぱっと見たところマルエラワレカラRタイプが八割、イバラワレカラが一割で、これも絶妙です。イバラのトゲトゲ感はルーペで見ればマルエラからの識別は容易で、絶妙なレアリティは探索意欲を掻き立てます。また、同じ種類でもより大きな個体や完品を探すといった楽しみ方ができるので参加者側のやり込み要素は無限で、逆に構成種が少ないため答え合わせ側の整備がしやすく、恐らく準備次第では腕1本から種の類推も可能と思います。
カマキリヨコエビに関しては完全に雑魚ですが、thunbed maleの造形や模様など楽しめる部分も多いのではないでしょうか。
ここから再度時間をかけてソーティング。机間指導を交えたレア種の紹介と、適宜顕微鏡での観察に入っていきます。
最後は気に入ったワカモンをレジンに封入してお土産を作ってフィニッシュ。時期が時期だけにあまり自由研究にコミットする感じではありませんでしたが、顕微鏡写真を配布したり標本としてまとめる手法が確立すれば、自由研究用の夏の定番メニューになりそうです。
生態の再現をテーマとしました |
概ね予想通り、新しいコンテンツながらチリモンから引き継いだ安定感があります。あっという間に二時間を駆け抜けました。講師の古澤学芸員の専門は地質とのことですが、いきなりこんなマイナー分類群に取り組まれているあたり、只者とは思えません。
予想外だったのは、端脚類の保存状態の良さ。色こそ変わってますが、体表の刺状剛毛はわりと残っていて種の同定ができそうです(それなのに※Conlan et al. 2021 のキーが流れなかったのでアレの公算大と思われます)。どうやら水揚げ後に釜茹でした時にワカメから外れた屑を干したものらしく、古澤さんいわく茹でることで組織が固定されたのではないか、とのこと。
ヨコエビを「ヨコエビ」でまとめて細かい分類を回避するスタイルは、この手のイベントではつきものですが、せっかく属が限定されているので、何とは言わなくとも生態特性の情報やワカメやその他の漁業資源との関わりなんかを掘り下げてもいいような気がしました。カマキリヨコエビ属はワカメ葉状部を食べるとの報告もあるので(※桐山ほか 2000)。
午前午後ともに定員割れのようでヨコエビとかワレカラの弱さに悔しく思う部分もありつつ、これから地域に愛されまた出張するようなイベントになればと思います。徳島とか横浜とかどうでしょう。
※関連する文献の情報は後で追加します
【補遺】<参考文献>
— 桐山隆哉・永谷浩・藤井明彦 2000. 島原半島沿岸の養殖ワカメに発生した魚類の食害が疑われる葉状部欠損減少.Bulletin of Nagasaki Prefectural Institute of Fisheries, 26: 17–22.
— 小田嶋祐希,ほか. 2014. 博物館から海を発信!!~大船渡の生態系を子供たちへ~. 平成26年度Let'sびぎんプロジェクト 活動報告. [web publication]