ラベル Caprelloidea の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル Caprelloidea の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2025年9月1日月曜日

書籍紹介『水の中の小さな美しい生き物たち』(9月度活動報告)

 またヨコエビが採り上げられた書物が出版されました。

 


仲村康秀・山崎博史・田中隼人(編) 2025.『カラー図解 水の中の小さな美しい生き物たち―小型ベントス・プランクトン百科―』.朝倉書店,東京.384pp. ISBN:978-4-254-17195-2(以下、仲村ほか, 2025)


 出版社は異なりますが『小学館の図鑑NEO POCKET プランクトン』の系譜のように思えます。ボリュームが充実し、ベントス要素が強化された感じでしょうか。なお、ページ数は2倍ちょっと、価格は10倍になっています。



仲村ほか (2025) を読む

 解説のないものも入れて、掲載端脚類は以下の通りです。この他に、表紙に姿があるリザリアライダーの話題も紹介されています。

  • Orientomaera decipiens(フトベニスンナリヨコエビ)
  • Ptilohyale barbicornis(フサゲモクズ)
  • Monocorophium cf. uenoi(ウエノドロクダムシと比定される種)
  • Pontogeneia sp.(アゴナガヨコエビ属の一種)
  • Caprella penantis(マルエラワレカラ)
  • Simorhynchotus antennarius
  • Vibilia robusta(マルヘラウミノミ)
  • Oxycephalus clausi(オオトガリズキンウミノミ)
  • Melita rylovae フトメリタヨコエビ
  • Grandidierella japonica ニホンドロソコエビ
  • Podocerus setouchiensis セトウチドロノミ
  • Sunamphitoe tea コブシヒゲナガ
  • Leucothoe nagatai ツバサヨコエビ
  • Jassa morinoi モリノカマキリヨコエビ
  • Caprella californica sensu lato トゲワレカラモドキ
  • Caprella andreae ウミガメワレカラ
  • Caprella monoceros モノワレカラ
  • Themisto japonica ニホンウミノミ
  • Phronima atlantica アシナガタルマワシ
  • Lestrigonus schizogeneios サンメスクラゲノミ

※仲村ほか (2025) に明示の無い和名は()内に示しています。


 なかなかボリュームがあります。

 だいたいが筆者のKDM先生が撮られた写真のように見受けられます。先生の主な研究テーマである藻場の生態系と端脚類に関するコラムもあり、エンジニア生物や物質循環といった観点から端脚類を見ることもできる構成となっています。KDM研における最新の分類学的知見を反映して「ウエノドロクダムシ」の同定に慎重になっている、といったライブ感があるのもポイント高いです。


 白眉はなんといってもヨコエビからクラゲノミまで揃い踏みしているところにありますが、驚愕したのは、堂々と旧3亜目体制に基づいている点。海外の文献では Lowry and Myers (2017) に基づく現在の6亜目体制を追認する動きが一般的となっている印象がありますが、日本人研究者は亜目を省略するなど距離をとる雰囲気がありました。「国内では不人気」という言い方もできるかもしれませんが、それを形にしたのは非常に画期的です。

 新知見を採用しないというと時代に取り残されている感じもしますが、6亜目体制は「形態に忠実であることを謳っている一方で例外を意図的に無視しており、自己矛盾している」「かといって系統を反映させる気はない(遺伝的知見との整合性を意図したような例外の扱いではない)」「形態的な明朗性・系統反映のポリシー・過去の慣例の全てを犠牲にしたわりに直感的に分かりにくく、使い勝手が良い場面が特にない」といった問題があります。Lowry and Myers (2017) は大量の分類群について形態マトリクスを作成して議論を試みた労作であることは間違いないのですが、このように中途半端な改変を行うより、「尾肢の先端に棘状刺毛があるグループとそうでないグループを発見した」というような発表に留めておいたほうが、論文として評価は高かったのではと思います。端脚類全体を網羅する下目・小目といった新概念を提唱しつつ、結局所属不明科を残したままというのも片手落ちの感があります。そろそろ10年になりますが、特に優れた点の無い体系のため安定して使い続けられる保障がないという判断から、採用に慎重になっている人がいるものと、個人的には理解しています。

 こういった分類のややこしさについても、仲村ほか (2025) は論文を引いて示しています。


 仲村ほか (2025) の印象を一言で表すとすれば「本棚にベンプラ大会」。タイトルからすると「生物ルッキズムを含んだ写真集」のように思えますが、写真はカットの物量こそあれど思いの外小さく、種や話題のチョイスの渋さ・ガチ感が光ります。前述のような分類学の議論をはじめ、ベントス・プランクトン学会大会で聴かれるお馴染みのテーマや学術的な課題が、当然のように並べられています。細菌の項で培地の写真が並んでいるのにはドン引きしました(誉め言葉)。マニアックな生物に対して、その珍奇さよりここに収録されるべき学術的意義に立脚して選定・解説しているのが、プランクトン学会とベントス学会が全面バックアップしているだけのことはあるなと、思いました。375ページに上る大著でありながら、水圏生物の花形である魚類が4ページしかないというのも特徴的だと思います。

 ただ、解説は非常に平易な文章に仕上がっており、文字数もそれほど多くありません。「写真をパラパラ見る」用途として問題はないかと思います。これだけ幅広い生物群を、「小さく美しい」というテーマに沿って網羅的に平等に扱おうと試みた書籍の例はあまりないものと思われます。『深海生物生態図鑑』のようにグラビアの美麗さや物量で押してくるタイプではないのですが、微生物やメイオベントス群集といった、ともすれば味気ない専門書の中の住人であった生物を、ビジュアル図鑑の世界へ招き入れたというのは、大きな出来事のように思えます。中学生から大学まで、生物分類や水棲生物研究全般に興味のある学生には、興味をそそるだけでなく基礎知識の勉強にもなる一冊でしょう。

 『小学館の図鑑NEO POCKET プランクトン』のコスパの良さが異常なので、こちらのほうがエッセンスだけ摂取したい方にはお勧めできるかもしれません。ただ、当然のことながら 仲村ほか (2025) において情報量は格段に増えていますし、学名の併記や参考文献もしっかり押さえられており、実用性を付与されているのは間違いありません。


 ちなみに、「ウミガメワレカラ」という和名が学名と明確に対応された出版物は初めてだと思います(和名の初出は青木・畑中, 2019)。そういった文脈でも参照され続ける文献と思われます。


 最後に、仲村ほか (2025) における端脚類の掲載箇所を詳細にご教示いただいた朝倉書店公式ツイッターアカウント様に、この場をお借りして篤く御礼申し上げます。



<参考文献>

青木優和 (著)・畑中富美子 (イラスト) 2019.『われから: かいそうの もりにすむ ちいさな いきもの』. 仮説社, 東京.39pp. ISBN-10:4773502967

藤原義弘・土田真二・ドゥーグル・J・リンズィー(写真・文)2025.『深海生物生態図鑑』.あかね書房,東京.143 pp. ISBN:978-4-251-09347-9 

Lowry, J. K.; Myers, A. A. 2017. A phylogeny and classification of the Amphipoda with the establishment of the new order Ingolfiellida (Crustacea: Peracarida). Zootaxa, 4265 (1): 1–89.

山崎博史・仲村康秀・田中隼人(指導・執筆) 2024. 『小学館の図鑑NEO POCKET プランクトン クラゲ・ミジンコ・小さな水の生物』.小学館,東京.176pp. ISBN:9784092172975


2025年7月26日土曜日

書籍紹介『茨城の磯の動物ガイド』

 

 6月に図鑑的な文献が出版されたようです。


—茨城の海産動物研究会(編)2025.『茨城の磯の動物ガイド』.ミュージアムパーク茨城県自然博物館.(以下、茨城の海産動物研究会,2025)



 ネットには情報ないですね。博物館の報告書に匂わせ記述があるほか、Facebookにこういった投稿があるくらい。一般の書店に出回っているものではなさそうですが、恐らく日本財団の支援により作成した限定的な部数をミュージアムショップのような限られた場で頒布しているっぽいです。ただISBNは取得されていますし、オマケ冊子のようなものではないです。


 掲載端脚類は以下の通りです。

  • ヨツデヒゲナガ Ampithoe tarasovi
  • タイヘイヨウヒメハマトビムシ Platorchestia pacifica
  • マルエラワレカラ Caprella penantis


 ヨツデヒゲナガは線画が挙げられているのは第3尾肢のみでオス第2咬脚の形状はわかりませんが、掲載写真の個体は体色的には恐らくAmpithoe changbaensis(和名未提唱)と思います。Shin et al. (2010) でも混同されていた歴史がありよく似た種ではありますが、いちおう色彩と外骨格形態 (Shin and Coleman, 2021) および色彩と遺伝子 (Sotka et al., 2016) の対応がとれています。この外骨格形状と遺伝子が対応しない可能性もありますし、真のA. tarasoviが茨城に分布する可能性も十分にありますが、久保島 (1989) もA. tarasoviとしてA. changbaensisを掲載している経緯があり、また井上 (2012) の"A. tarasovi"がどちらを指すか不明なため、現時点では「真のA. tarasoviは未記録」「現時点での定義に基づくA. changbaensisはいる」という判断が適当と思われます。Ampithoe lacertosa種群あるいはtarasovi種群と呼ぶべき一団は形態での種同定が難しく、日本にはまだ種として記載されうる個体群が北海道とかにいるようです。

 タイヘイヨウヒメハマトビムシに関しては、日本全国にわたって本種の形態差異をレビューした Morino (2024) の著者その方が執筆を担当しているため、この手の図鑑ではまずみられない高精度での検討が行われているものと考えてよいでしょう。ただ、載っているのは引きの生体写真だけで、このビジュアルだけで同定できる種ではないため、絵合わせしてよいということではありません。

 マルエラワレカラはRタイプとされるもののようです。


 茨城の海産動物研究会(2025)は前身となるテキストのようなものがあったようで、それを冊子体にまとめたもののようです。地域のファウナをまとめた書籍は非常に貴重で、手探りでフィールドに出るよりも関心を深めるのに役立ちます。茨城の磯には金色のやつとかその他諸々大量に面白いヨコエビがいますので、これから類書が出る折には更なる充実が図られることが望まれます。



<参考文献>

— 茨城の海産動物研究会(編)2025.『茨城の磯の動物ガイド』.ミュージアムパーク茨城県自然博物館,坂東市.111pp. ISBN978-4-902959-87-1 C3045

井上久夫 2012. 茨城県の海産小型甲殻類 III. ヨコエビ相(端脚目,ヨコエビ亜目).茨城生物32:9–16.

— 久保島康子 1989.日本におけるAmpithoe属(Ampithoidae)の分類学的研究.茨城大学大学院理学研究科修士論文.

Morino H. 2024. Variations in the characters of Platorchestia pacifica and Demaorchestia joi (Amphipoda Talitridae, Talitrinae) with revised diagnoses based on specimens from Japan. Diversity, 16(31). 

Shin M.-H.; Hong J. S.; Kim W. 2010. Redescriptions of two ampithoid amphipods, Ampithoe lacertosa and A. tarasovi (Crustacea: Amphipoda), from Korea. The Korean Journal of Systematic Zoology, 26: 295–305.

Shin M.-.H; Coleman, C. O. 2021. A new species of Ampithoe (Amphipoda, Ampithoidae) from Korea, with a redescription of A. tarasovi. ZooKeys, 1079: 129–143.

Sotka, E. E.; Bell, T.;  Hughes, L. E.; Lowry, J. K.; Poore, A. G. B. 2016. A molecular phylogeny of marine amphipods in the herbivorous family Ampithoidae. Zoologica Scripta, 46: 85–95.


2025年7月20日日曜日

書籍紹介『海のちいさないきもの図鑑』(7月度活動報告)

 

 博ふぇすに行ってまいりました。

 今までありそうでなかったワレカラのトートバッグをはじめ、クジラジラミのブローチなど端脚類グッズは年々充実してきています。


 そして端脚類が載った書籍がまた出たそうなので購入しました。




 むせきつい屋さん(著) ・ 広瀬雅人(監修) 2025.『海のちいさないきもの図鑑』.西東社,東京.176pp. (以下、むせきつい屋さん,2025)です。

 箔押しの装丁が豪華です。本邦海産無脊椎動物学もとうとうここまできました。


むせきつい屋さん(2025)を読む

 所謂「子供むけ生物学の本」カテゴリのものと思います。

 ただだいぶ内容はしっかりしていて、水生生物の生態区分やウミエラの骨片の類型、軟体動物の系統関係やウミウシの近似種まで、大学の研究室レベルの知見がてんこ盛りされています。それも単なる豆知識というより、それぞれの生き物の有り様を理解するためのアプローチとして、生物学の文脈の中に位置づけられている味わいを感じます。かわいくない参考文献群からも、著者が堅実に研究をされていたことが伺えます。悪く言えば教科書的かもしれませんが、ホホベニモウミウシの盗葉緑体やプラニザ幼生の体色決定などここ数年の間に学会発表されてコンセンサスになりつあるような、教科書の水準を上回るアツアツの話題が惜しげも無く投入されており、それにも関わらず、首尾一貫したポップな絵柄と平易な文体によって「分かり易さ」を諦めている部分がどこにもないのは驚くばかりです。

 独立の項としてコケムシが入ってないところから、良好な師弟関係が伺えますね。詳しい裏話はわかりませんが、こういう場面で教え子に寄り添って一肌脱いでくれる恩師というのは本当にありがたいものです。


 さて、項が設けられている端脚類は次の通りです。

  • カイコウオオソコエビ
  • オオタルマワシ
  • ワレカラ


 カイコウオオソコエビについて、示されている食性が植物に偏ってますが腐肉もかなり貪食するものと考えてよいでしょう (Jamieson and Weston. 2023)。また、体組織に脂質を多く含む理由を飢餓への耐性としていますが、個人的には、恐らくこれと同じくらい重要なのは浮力の確保だと思います。脂質を蓄える深海性ヨコエビにおいて意義は一律でなく、個別の種において意味合いは違うのかもしれませんが。

 オオタルマワシの和名の由来はあっさりとしています。和名を提唱した入江 (1960)に示されているような(いないような)理由に、忠実な記述だと思います。エイリアンというニックネームについてもあっさりしていて、世の中の議論はもうこのくらいふわっとした認識でよい気がします。それっぽい理由を捻り出すとたぶんドツボに嵌まります。というか、ネット上には話を作っている人が多くて辟易してしまいます。


 このような細部は全体の構成に影響を与えませんが、並べてみると、項ごとに濃度や厚みが違う気がします。特にウミクワガタは情報量こそ定型に収めてありますが、生活環やその特性について厳選して詰め込んだ感じがします。

 著者は北里大の卒業生で、主に三陸海岸など浅海のベントスに直に触れてきた来歴の持ち主なので、その時に得た豊富な知識や経験が作品に反映されていると思います。過去に書籍紹介したこの本も、その研究の成果の一つです。むせきつい屋さん(2025)の出版にあたり様々な意向が働いたような気がしますが、生き物との付き合いの長さの違いがムラに繋がっているように見えます。

 とはいえ、むせきつい屋さん(2025)は150ページ超フルカラーというハイボリュームをたった一人で、テンションを落とさず、たぶんそれほど時間をかけずに仕上げた、恐るべき書物といえると思います。熊坂長範からウルトラマン、タコ焼きから茶釜狸、ゾエアからオエー鳥まで縦横無尽に描けるイラストレーターでありつつ、生物学研究の最先端を子供むけにサマライズできるのは、控えめに言っても働きすぎです。

 個人的に白眉と思ったのは、各生物の体サイズ比較。名前や生態にちなんだり、あるいはひねったり、単にサイズが近いモノを選んだり、心地良く軽妙に題材を選んでいるのが最高ですね。


 小学生以上から余裕で理解できる構成です。子供向けとして読んでもよいですが、生物学の知識を得る本として大人も驚きをもって読むことができるのは間違いないです。元々アクセサリーやイラストボードといったグッズを提供するブランドだったこともあり、色使いが絶妙なイラスト本としても楽しめると思います。



<参考文献>

— 入江春彦 1960.In:内田清之助 等(著)『原色動物大圖鑑Ⅳ』.北隆館,東京.

むせきつい屋さん(著) ・ 広瀬雅人(監修) 2025.『海のちいさないきもの図鑑』.西東社,東京.176pp. ISBN:9784791634453

Jamieson, A. J.; Weston, J. N. J. 2023. Amphipoda from depths exceeding 6,000 meters revisited 60 years on. Journal of Crustacean Biology, 43: 1–28.


2025年7月12日土曜日

聖地巡礼シリーズ「松川浦」

 

 函館福井と続けてきた、主に端脚類のタイプ産地を廻るこのシリーズ(?)。今回は環境省のモニタリングサイト1000の調査協力で、福島県の松川浦に行ってきました。サンプルの同定協力はしたことがありますが、現場は初です。





松川浦の端脚類相

 松川浦は言わずと知れたヨコエビ聖地の一つではあるものの、継続して端脚類研究の拠点になっているわけではなく、何より32年前に採られた手法がプランクトンネット採集であったため、親しみやすい潮間帯のファウナはあまり語られていないのが実情だったりします。


過去の調査結果
文献 Hirayama and Takeuchi (1993) 環境省 (2013) 富川 (2013)
出現種 Pontogeneia stocki, Atylus matsukawaensis, Synchelidium longisegmentum, Dulichia biarticulata, Gitanopsis oozekii, Stenothoe dentirama, Lepidepecreum gurjanovae, Eogammarus possjeticus, Tiron spiniferus, Allorchestes angusta, Ampithoe lacertosa, Aoroides columbiae, Corophium acherusicum, Ericthonius pugnax, Gammaropsis japonicus, Guernea ezoensis, Jassa aff. falcata, Synchelidium lenorostralum, Melita shimizui Ampithoidae gen. sp., Grandidierella japonica, Corophiidae gen. sp., Melita shimizui, Melita setiflagella, Ampithoe sp.
Ampithoe lacertosaAmpithoe valida, Hyale sp., Melita shimizui, Talitridae gen. sp.

 属位変更はなんとかなるとして、後に日本個体群が別種として記載されたブラブラソコエビAoroides columbiae(→A. curvipesなどは解釈に注意が必要です。Jassa aff. falcataは順当にいけばフトヒゲカマキリヨコエビJ. slatterlyと推定されますが、他の近似種や未記載種の可能性もあります。
 富川 (2013) の各種は0.5mm目合いの篩にかけて採取されたもので、モニ1000の定量調査に近い手法で行われています。Hyale sp.は恐らくフサゲモクズPtilohyale barbicornis、Talitridae gen. sp.は広義のヒメハマトビムシであろうと思います。


 今回の調査結果はいずれ然るべき媒体でアウトプットされるはずですが、本稿ではフィールドの雰囲気だけお伝えします。比較対象が関東の干潟になってしまうのはご了承ください。



松川浦北部前浜的干潟

 砂州から内側へ突き出た遊歩道の周辺が、調査地になっています。遊歩道の左手には転石帯、右手にはヨシ原が広がっています。転石帯側は、遊歩道根元の少し引っ込んだエントリーポイントから澪筋を越えると、いつの間にか流れのある川へ至ります。ヨシ原側は、汀線方向へ進むにつれカキ礁が卓越します。基質は全体的に有機物の多い砂泥で、転石帯にはパッチ状に底無し沼的なゾーンがあります。


 今回はアオサやオゴノリの繁茂はみられず、干出面はホソウミニナとマツカワウラカワザンショウに被覆されています。深さのある場所では流れの中にアマモの群落が散見されます。


 アマモ葉上やカキ殻表面にはホンダワラ類の付着が散見されました。
 端脚類はアマモ葉上で最も充実しており、表在底生グレーザー・植物基質寄りの自由生活ジェネラリスト・遊泳グレーザーの3者が最も優占していました。いずれの基質においても、造管濾過食者はかなり少ない、むしろほとんどいない印象です。




松川浦南部河口的干潟

 最奥部に開口した細い水路周辺に形成されている、典型的な内湾の富栄養泥干潟です。表層に触れるだけで還元化した黒い部分がのぞくシルトの底質に、転石やカキ殻が散らばっています。一歩進めるごとに足をとられ、ケフサイソガニ類が横っ飛びします。膝をついてじっとしていると、いつの間にか大量のヤマトオサガニに取り囲まれます。

 造管懸濁物食者が高密度に棲息し、漂着物のような多少柔軟性のある基質の周囲には硬質基質寄りの自由生活ジェネラリストが見えますが、際立って端脚類の多様性が高い箇所はみられません。


 潮上帯において、打ち上げ物は陸由来の植物質が卓越し、転石帯とともに、関東の同様の環境から推測できる代表的な属ないし種の構成となっています。 



おまけ:松川浦北部河口

 ここはモニ1000の対象ではありませんが、かなり特色のあるポイントです。


 松川浦に注ぐ最も大きな川の河口部です。ヨシ原が発達しており、深みにはわずかなカキ殻などの硬質基質にオゴノリやアオサが付着しています。底質は基本的に石英や珪岩などが卓越する明色の砂泥で、場所により陸上植物砕屑物が多く混入したり、ヨシ原が幅広く残っている場所ではシルト・クレイ分が増えて底なし沼化しています。泥干潟おなじみのカニがひしめいています。

 甘めかつ基質の多様性が低い環境で、大型藻類上や堆積物中には植物基質寄りの自由生活ジェネラリスト,遊泳性グレーザー,表在底生グレーザー,硬質基質寄りの自由生活ジェネラリストが優占していました。顔ぶれは三番瀬や小櫃川河口に似ています。潮上帯転石下にはフナムシ属が優占し、ヨコエビは僅少でした。



 今回は、定量調査を補完しリストを充実させる意味合いで定性調査専任での参加でした。結論からいうと劇的な種数増には至りませんでしたが、フィールドの感じは何となく掴めてきたので是非ともリベンジしたいところです。もし松川浦という海域のインベントリを行う場合、燈火採集や硬質基質の要素が加われば、科~種の数はもう少し増やせそうです。もはや干潟のモニ1000ではありませんが。



おまけ:蒲生干潟

 環境省やWIJとは関係なく、地元で連綿と継承されてきた定量調査に同行しました。

過去の調査結果
文献 松政・栗原 (1988) Aikins and Kikuchi (2002) 近藤 (2017)
出現種 Grandidierella japonica, Corophium uenoi, Kamaka sp., Melita sp. Corophium uenoi, Grandidierella japonica, Eogammarus possjecticus, Melita setiflagella Monocorophium insidiosum, Grandidierella japonica


 なんと蒲生干潟には「カマカが出る」んですね。
 これはヨコエビストにとって垂涎ものなのですが(平たくいうと、この形態的にも系統的にも特異な科は生息地が限定的かつ体サイズが微小なため、おいそれとはお目にかかれないのです)、今回はダメでした。分布や生息環境を踏まえると、恐らくモリノカマカKamaka morinoiであろうと思います。宮城県のRDBにも掲載されていることですし。
 ウエノドロクダムシMonocorophium uenoiとトンガリドロクダムシM. insidiosumの是非についてここで掘り下げることは避けますが、これら文献における記述内容と今回の実地調査の結果を総合的に判断して、この地においてモノドロクダムシ属の形態種は2種いると解釈して差し支えないものと思います。


 水門を挟んで七北田川河口に接続した潟湖で、堤防の外側に陸上植生からヨシ原の連続性が維持されている奇跡的な場所です。奥部はきめ細かなシルト・クレイで、下るにつれ砂が卓越してきます。ヨシ原を縫い水門へ続く本流は、地盤高が下がるにつれて陸上植物の砕屑物が混ざった砂質からカキ殻の混じる富栄養砂泥へ変容します。本流は水門に近づくにつれ深さを増し、貧酸素化が顕著で三番瀬の澪筋を彷彿とさせます。



 潮廻りの関係か、植物基質寄りの自由生活ジェネラリストが大量に遊泳していて驚きました。底質中には造管性懸濁物食者がパッチ状に分布しており、潮上帯は海浜性種しか得られませんでした。

 調査範囲外だったため手を伸ばしていませんが、潟湖に加えて蒲生干潟の一部とされている七北田川河口の砂浜も、潟湖とはだいぶ様子がかなり違うのでなかなか面白そうです。

 


 東北の干潟をベントスの専門家と一緒にがっつり回るという経験は、かなり貴重でした。ベントス研究拠点としての東北大の将来が心配される中、石巻専修大の底力を目の当たりにしました。



<参考文献>

Aikins, S.; Kikuchi, E. 2002. Grazing pressure by amphipods on microalgae in Gamo Lagoon, Japan. Marine Ecology Progress Series245: 171–179.

Hirayama A.; Takeuchi I. 1993. New species and new Japanese records of the Gammaridea (Crustacea: Amphipoda) from Matsukawa-ura Inlet, Fukushima Prefecture, Japan. Publications of the Seto Marine Biological Laboratory, 36(3):141–178.

環境省 2013. 平成24年度 モニタリングサイト1000 磯・干潟・アマモ場・藻場 調査報告書.

— 近藤智彦 2017. 東北地方太平洋沖地震と津波攪乱後の蒲生干潟 (宮城県) における底生生物の群集動態と優占種の生活史戦略(学位論文).

松政正俊・栗原康 1988. 宮城県蒲生潟における底生小型甲殻類の分布と環境要因.日本ベントス研究会誌33/34:33–41.

富川光 2013. 東日本大震災による津波が松川浦(福島県相馬市)の生物多様性に与えた影響の評価と環境回復に関する研究. 公益財団法人ソルト・サイエンス研究財団平成25年度助成研究報告書. pp.123–132.


2025年1月22日水曜日

書籍紹介『深海生物生態図鑑』(1月度活動報告)

 

 美しい写真が満載の書籍が出ました。



— 藤原義弘・土田真二・ドゥーグル・J・リンズィー(写真・文)2025.『深海生物生態図鑑』.あかね書房,東京.143 pp. ISBN:978-4-251-09347-9 

(以下,藤原ほか2025)


藤原ほか(2025)を読む

 さっそくですが、掲載されている端脚目は以下の通りです。

  • テンロウヨコエビ属の一種 Eusirus cuspidatus
  • ワレカラ属の一種 Caprella ungulina
  • ホテイヨコエビ科の一種 Cyproideidae gen. sp.
  • フトヒゲソコエビ上科の一種 Lysianassoidea (fam. gen. sp.)
  • テングウミノミ科の一種 Platyscelidae gen. sp.


 私はこのうち「フトヒゲソコエビ上科の一種」の同定に協力したのですが、こうして見ると学名の表記に難ありですね(括弧に補足しました)。申し訳ない。誰でも言えるような結果に落ちていますが、ちゃんと見るところは見た上で、全球を視野に手順に沿って検討しています。咬脚の形状などを総合的に判断してタカラソコエビ科かツノアゲソコエビ科のどちらかだと思いましたが、私の力量では写真同定には至りませんでした。機会があればいつか実物を確認して結論を出せればと思ってはいます。

 というか、こんな重厚な趣の本の本文中に同定責任者として載ることになるとは、思ってもみませんでした(巻末にちょろっと名前が出ればいいかなくらいのつもりでした)。個人的には、あらゆる出版物に正確なヨコエビの記述されること以外に興味はないつもりでいたのですが、さすがに少しビビりました。


 テンロウヨコエビ属が「海の掃除屋」と紹介されていますが、個人的にこの属をはじめとするテンロウヨコエビ科のかなりの部分は、死骸を食べる「スカベンジャー」よりも他の小さな生物を捕まえる「プレデター」という紹介が合っているではと思っています。確定的なことは何もいえませんが、Lörz et al. (2018) にそういった記述があるほか、同じ科のリュウグウヨコエビ属の一種 Rhachotropis abyssalis (Lörz et al. 2023)、ドゥルシベラ・カマンチャカ Dulcibella camanchaca なんか (Weston et al. 2024) は捕食性と推定されています。また、テンロウヨコエビ属は藤原ほか(2025)にもあるように咬脚がボクサーのような特殊な形状になっていて、これは可動域からみて、咬脚を突き出すのと同時に腕節の接続部が滑らかに動くことで、指節と前節を素早く閉じるような機構になっているのではと思います。この動きは捕食と関係しそうです。ただし、科は違いますが魚と思われる組織に混じって木屑や多毛類のような断片が消化管内から発見されている深海性ヨコエビもいる (Barnard, 1961) ので、死骸に集まるヨコエビの食性は実際のところかなり流動的なのだろうとも思います。

 ワレカラ属の一種は Takeuchi et al. (1989) で再記載されたりしており、界隈では少し名の知れた種かもしれません。本文中にあるように、複眼など生態写真ならではの情報が含まれているのは貴重です。


 見たところ藤原ほか(2025)に掲載された端脚目は全て固定前の写真のように見え、他の分類群も(詳しくないので推測ですが)多くが生時あるいは絶命して間もない個体を使用しているように見えます。「深海生物図鑑カレンダー」の定期購入者であればどこかで見たことのある写真もあるかもしれませんが、ハードカバーに厚口ページの堅牢製本で全面グラビアカラー印刷、これだけしっかり作られた大判の写真集で定価¥6,000-ですから、当方としてはものすごくお買い得に思えます(このサイズ感の学術図鑑だと2万はしそう)(比較対象がおかしい)

 「生態」図鑑と銘打ちつつ、ヨコエビの生態についてこれといった見解が示されていない部分は、読者によっては消化不良となりそうです。が、実際のところ学術研究がそこまで進んでないのでどうにも仕方ないです。一般層としてはやはり「何を食べているか」みたいな部分は生態情報として真っ先に興味の対象となる部分かと思うので、近縁種の情報からこのへんをもう少し引っ張ってきてもよかったかもしれません。もちろん科や属の中でも食性の幅はあるので、どこまで適用できるかは慎重になるべきとは思いますが。

 JAMSTECの研究者による執筆なので、最後に海洋汚染問題とそれに対して海洋研究が果たす役割や、一般読者が深海生物にアクセスできる方法なんかを紹介しています。ページを幾度も繰りながら深海生物の生き様に想いを馳せるのも一興、この本を入り口に深海生物推しの深みにはまっていくのもまた一興、といった造りになっています。



<参考文献>

Barnard, J. L. 1961. Gammaridean Amphipoda from depths of 400–6000 meters. Galathea Report, 5: 23–128.

Lörz​, A.-N.; Jażdżewska, A. M.; Brandt, A. 2018. A new predator connecting the abyssal with the hadal in the Kuril-Kamchatka Trench, NW Pacific. PeerJ, 6: e4887. 

Lörz, A. N.; Schwentner, M.; Bober, S.; Jażdżewska, A. M. 2023. Multi-ocean distribution of a brooding predator in the abyssal benthos. Scientidic Report, 13: 15867.

Takeuchi I.; Takeda M.; Takeshita K. 1989. Redescription of the Bathyal Caprellid, Caprella ungulina MAYER, 1903 (Crustacea, Amphipoda) from the North Pacific. Bulletin of The National Science Museum Series A (Zoology), 15(1): 19–28. 

Weston, J. N. J.; González, C. E.; Escribano, R.; Ulloa, O. 2024. A new large predator (Amphipoda, Eusiridae) hidden at hadal depths of the Atacama Trench. Systematics and Biodiversity, 22:1, 2416430. 

2024年6月30日日曜日

書籍紹介『小学館の図鑑NEO POCKET プランクトン』(6月度活動報告その2)

 

 書籍紹介です。

 SNSで話題となっていた『小学館の図鑑NEO POCKET プランクトン クラゲ・ミジンコ・小さな水の生物(以下、山崎ほか 2024)が、6月25日に発売されました。

 端脚類界隈ではプランクトニックな役割はウミノミ・クラゲノミ・タルマワシなんかに任せている関係で、まずヨコエビは載っていない想定でしたが、タナイスなど底生生物も本邦トップクラスの専門家が監修を行った上でしっかり掲載しているとのことで、ヨコエビも多少の期待ができるかもしれないと考え、おそるおそる購入しました。

 それにしても…安すぎんか?小学館大丈夫か。

 ただ所詮は子供向けの簡易図鑑ですからね。端脚類コーナーが半ページくらいあって、種同定が半分以上合ってれば、まぁ、大手出版社の一般向け書籍としては及第点ではないでしょうか。過去の学習図鑑は惨憺たるものですから。

 前フリはここまでにして。



 山崎ほか (2024) の掲載端脚類は以下の通りです。

  • ニホンウミノミ
  • オオトガリズキンウミノミ
  • オリタタミヒゲ類
  • オナガズキン
  • ツノウミノミ
  • アシナガタルマワシ
  • タルマワシモドキ
  • オオタルマワシ
  • アリアケドロクダムシ
  • フトベニスンナリヨコエビ
  • チゴケスベヨコエビ
  • ニホンドロソコエビ
  • トゲワレカラ
  • ヒヌマヨコエビ
  • モズミヨコエビ
  • マルエラワレカラ


 プランクトンの話題がメインではありますが、ベントスの生息地の説明にもわずかに底生端脚類(アリアケドロクダムシやトゲワレカラ)が登場しています。また、大きさ比較のコーナーでアシナガタルマワシが、チリモンのコーナーにはトガリズキンウミノミが紹介されています。

 それにしても…

 ヨコエビの種の選定が絶妙、かつ同定精度の高さが尋常ではありません。写真で確認できる形質を見る限り、おかしな点は見当たりません。

 エンカウント率が高い浅海普通種を多く収録して実用性に軸足を置きつつ、咬脚など写真同定の余地のある形態形質が発達している種をメインに据えて正確性・検証可能性を担保し、なおかつこれらにこだわらず話題の種もしっかりフォローしています。何が起きたのかと思ったら、K大のK先生が協力されているとのこと。納得の仕上がり。


 結論。

 山崎ほか (2024) は海洋ベントスを扱った一般向け写真図鑑のニュースタンダードと言えるのではないでしょうか。他の分類群の精度は分かりませんが、ヨコエビのクオリティが相当高いことから考えると、全体にわたって細かく注意が払われた、かなりの労作であることが窺えます。1冊1,100円はさすがに安すぎるのではないでしょうか。特にヤバいと思ったのは巻末付近にある系統樹。スーパーグループの概念に基づいていて、監修に名を連ねている錚々たるメンバーの本気度が伝わってきます。

 残念な点を挙げるとすれば、学名の併記がないようです。こういった一般的図鑑の仕様上仕方ないですが、分類体系が確定的とはとても言えない分類群をこれだけふんだんに扱っているので、良い写真を載せながらも結局何を示しているのか分からなくなる展開は予想されます。この点では、一般向け写真図鑑の分野でいえば、丸山 (2022) に分があるように思えます(陸棲ヨコエビの掲載あり)

 何はともあれ、こういった専門家の膨大な知識や技術を子供に惜しげもなく伝える図鑑が低価格で出回ることは、非常に良いことです。各社がこういった方面に参入し、名作が生み出され続けることを願います。



<参考文献>

丸山宗利(総監修)2022.『学研の図鑑 LIVE(ライブ)昆虫 新版』.学習研究社,東京.316pp. ISBN978-4-05-205176-0

山崎博史・仲村康秀・田中隼人(指導・執筆) 2024. 『小学館の図鑑NEO POCKET プランクトン クラゲ・ミジンコ・小さな水の生物』.小学館,東京.176pp. ISBN9784092172975


<補遺>

  • (I-vii-2024)タナイスを担当された角井先生が、掲載種の学名を別途補完されたようです。これに倣って以下の通り端脚類の学名を補完します。
  • ニホンウミノミ Themisto japonica
  • オオトガリズキンウミノミ Oxycephalus clausi 
  • オリタタミヒゲ類 Platysceloidea fam. gen. sp.
  • オナガズキン Rhabdosoma whitei
  • ツノウミノミ Phrosina semilunata
  • アシナガタルマワシ Phronima atlantica 
  • タルマワシモドキ Phronimella elongata
  • オオタルマワシ Phronima sedentaria
  • アリアケドロクダムシ Monocorophium acherusicum
  • フトベニスンナリヨコエビ Orientomaera decipiens 
  • チゴケスベヨコエビ Postodius sanguineus 
  • ニホンドロソコエビ Grandidierella japonica
  • トゲワレカラ Caprella scaura
  • ヒヌマヨコエビ Jesogammarus (Jesogammarus) hinumensis
  • モズミヨコエビ Ampithoe valida
  • マルエラワレカラ Caprella penantis(Sタイプ)

2024年6月29日土曜日

まんが王国はヨコエビ王国たるか(6月度活動報告)

 

 日本動物分類学会大会に参加しました。

 論文化されていない未発表の内容も含まれるため、発表についてこの場で言及することは避けますが、第n回全日本端脚振興協会懇親会(仮称)や、第n回日本端脚類評議会和名問題対策チームミーティング(仮称)、サシ飲みなどが併催され、盛況を極めました。牛骨ラーメンと猛者エビとらっきょううまい。




日本端脚審議会和名分科会(仮称)報告

 このたび、本邦に産しないヨコエビの分類群に対して個別の和名は提唱せず、学名のカタカナ表記揺れへの配慮を行うという今後の方針が示されました。属では以下のような先例があります。

  • タリトルス Talitrus (朝日新聞社 1974)
  • ニファルグス Niphargus (朝日新聞社 1974)
  • アカントガンマルス Acanthogammarus (山本 2016;富川 2023)
  • ディケロガマルス Dikerogammarus(環境省 2020)
  • アマリリス Amaryllis(大森 2021)
  • オルケスティア Orchestia(大森 2021)
  • ヒヤレラ Hyalella (大森 2021)
  • プリンカクセリア Princaxelia(石井 2022;富川 2023)
  • ヒアレラ Hyalella (広島大学 2023;富川 2023)
  • ディオペドス Dyopedos(富川 2023)
  • ミゾタルサ Myzotarsa(富川 2023)
  • パキスケスィス Pachyschesis(富川 2023)
  • ガリャエウィア Garjajewia(富川 2023)

 ラテン語をバックグラウンドとする学名に画一的な読みを与えカタカナで表記するのは言語学的に難しい部分がありそうですが、幸い日本はローマ字に親しんでいるので、古典式に近い読みを無理なく直感的に発音できる素地はある気がします。

 現状既に Hyalella属 については「ヒアレラ」(広島大学 2023;富川 2023)と「ヒヤレラ」(大森 2021)という異なる読みがあてられており、今後はこういった差異の調整が必要となってくるものと思われます。

 また、過去に日本から報告されていた種が移動してしまい、和名提唱後に本邦既知種が不在になったグループというのもあります。移動先の分類群が、新設されたり本邦初記録だったりすれば和名を移植すれば事足りますが、既に和名があった場合、元の分類群に和名が取り残される感じになります。厳密には和名を廃してカタカナ読みを当て直すべきですが、分類というものはコロコロ変わるので、また戻ってきたり、別の種が報告されたりする可能性もあり、都度改めて和名を提唱するというのは無用な混乱に繋がる気がします。この辺をどう扱うかは更なる議論が必要かもしれません。

  • シンヨコエビ科 Neoniphargidae:コジマチカヨコエビ Eoniphargus kojimai が含まれていたが、後の研究で ナギサヨコエビ科 Mesogammaridae へ移されたため、本邦未知科となった。
  • カワリヒゲナガヨコエビ属 Pleonexes:コウライヒゲナガ Ampithoe koreana が含められていたが、後の研究でヒゲナガヨコエビ属へ移されたため、本邦未知属となった。

 なお、本邦に自然分布しないと判明しているグループ(フロリダマミズヨコエビ、ツメオカトビムシなど)にも和名は提唱されています。将来的に日本への侵入・定着が起これば、ディケロガマルスなどにも和名が提唱される可能性があります。



T県F海岸

 学会は午後からなので、午前は採集を行うことにします。潮回りは気にせず、ハマトビムシを狙う感じです。

 

とても細かな白砂です。
どうやら花崗岩の風化砕屑物が形成している砂浜のようです。


Trinorchestia sp.
恐らく今日本で一番種同定が困難、
というか不可能なハマトビムシでしょう。
完璧な標本が手元にあっても無理です。
詳細はこちら


メスばかりでよくわかりませんがおそらくヒメハマトビムシ属Platorchestia?
背中に見たことの無いバッテンがついてます。

 なかなか巡り会えずボウズの予感に打ち震えましたが、汀線際の濡れている漂着物の周りにいました。房総や熱海のパターンを思い出します。しかし、ヒゲナガハマトビムシとヒメハマトビムシが混ざっているのはあまり見た覚えがありません。

 他のハマトビムシは採れず。バスの本数がヤバいので撤収。





T県U海水浴場

 学会後に最干潮となるので、夕方から採集を行うことにします。といっても日本海側で小潮なので、ちょっと出れば御の字です。

 天気も微妙な感じで駐車場に若干の余裕が感じられましたが、展望台には人が多く、ヨコエビスト一行はかなり浮き気味…。



 小潮でしたが、引く範囲でも様々なタイプの基質を見られる、変化に富む海岸でした。少し歩いただけでヨコエビ相ががらりと変わる、なかなかポテンシャルの高い自然海岸といえます。


Ampithoe changbaensis は褐藻についていました。
近々和名を提唱したいです。


コウライヒゲナガ Ampithoe koreana
磯的環境の緑藻上だとよく見かけます。


ユンボソコエビ属 Aoroides
なぜか状態よく採れました。


何らかの カマキリヨコエビ属 Jassa


Parhyalella属が結構採れました。
本属の日本における分布情報は文献として出版されたことはないはず。
ちなみに江ノ島で採れた本属は未記載種だったので、
ここのも怪しいです。


日本海沿いだけどオス第7胸脚の太さからすると
タイヘイヨウヒメハマトビムシ Platorchestia cf. pacifica と思われる。
未記載だとしても驚きはない。 


ニホンスナハマトビムシ Sinorchestia nipponensis でした。

 10科13属くらいは採れました。大潮の時はさぞかし、といったところ。ヨコエビ王国の資格あり、と言ってよいでしょう。



あとこれなに…?



<参考文献・サイト>

朝日新聞社 [編] 1974. 週刊世界動物百科 (181). 朝日新聞社.

広島大学 2023.【研究成果】ペルー北部の温泉から新種ヨコエビ発見. (プレスリリース)

石井英雄 2022.『深海の生き物超大全』.彩図社,東京.359 pp. [ISBN: 9784801305861]

大森信 2021. 『エビとカニの博物誌―世界の切手になった甲殻類』. 築地書館, 東京. 208pp. ISBN978-4-8067-1622-8 

環境省 2020. 報道発表資料「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律施行令の一部を改正する政令」の閣議決定 について. (2020年09月11日)

富川光 2023. 『ヨコエビはなぜ「横」になるのか』. 広島大学出版会, 東広島. 198pp. ISBN:978-4-903068-59-6

山本充孝 2016. (280)極寒 バイカル湖の生き物. 2016年12月10日 00時44分 (10月17日 13時23分更新). 中日新聞.

2024年4月8日月曜日

ヨコエビがいない(4月度活動報告その2)

 

 科博に行ってきました。


企画展「知られざる海生無脊椎動物の世界」


 3月半ばから開催されているこの展示、チラシからも口コミからも端脚類の噂は聞こえてこない。海産無脊椎マイナー分類群の権化・ヨコエビがまさかハブられているというのか?(権化なのか?)行ってみないとわからないので、現場を確認してみたわけです。


…おや、いません。
 
絶妙なバランス感覚の上に成立しているこの解説。
たしかに”脚”は1節あたり一対だが、”肢”は二対ある。






フクロエビ上目の親戚を表敬訪問。



ヨコエビいました。




 どうやら寄生虫の話題の中の挿絵として登場する以上の役割はないらしいです。ヨコエビ上科っぽい。おそらく鉤頭虫の生活環を意識しているのでしょう。



最後に真理が書かれていた。



 今回一番の目玉は、やはりこのアリアケカワゴカイのシンタイプでしょう。1個体のみの展示ではありますが、十分すぎる。ラベルは本物か、あるいは本物を忠実に複製したもののようです。それにしてもすごい。
 児島湾というのは、埋め立てにより土地を獲得してきた岡山市の成り立ちを端的に表している場所です。湾奥は完全に底質が死んでいて、塩分なんかも昔とはだいぶ違っているのだろうなと思います。現地を訪れた時のことを思い出しながら展示を見ていました。



この冊子、展示内容がぎゅっとまとまってるのに無料です。
正気とは思えないぜ(誉め言葉)。


 展示の中にもありましたが、門の数でいうとむしろ「非海産」「脊椎動物」という動物のカテゴリのほうがマイナーで、「海産無脊椎動物」のほうが遥かに多様で基盤的なんですよね。そういった生物の見方を提案する、ありそうでなかった展示だと思います。
 膨大な数の門を扱う関係で、節足動物門のごく一角を成すに過ぎない我らが端脚目の存在感が薄まっているのは必然といえましょう。ちょっと残念な気持ちもありましたが。


 さて、件のヨコエビ(が含まれる)イラストの右下に注目してほしいのですが、提供は目黒寄生虫館の倉持館長ですよね。ということは、目黒寄生虫館に元図があるってコト…?


ざっと15年ぶりですかね。


 2012年頃に2階の大リニューアルをしたみたいですね。その後も展示内容はこまめに更新されていて、昔訪れた時とはだいぶ違うようです。
 子細に覚えていたわけではないけど、確かに目新しい感じが。

 あの図は、ありませんね。
 昔はあったのかもしれませんが、何しろ当時はヨコエビに従事する前なので、気づくことはなかったでしょう。


クジラジラミを表敬訪問。


 相変わらず無料でやってるとのことで、展示室に人が溢れているというのに売店からスタッフがすぐ居なくなったり、管理の手がちゃんと回っていないようです。あまりにひどいと思ったので、つい感情的になり、募金箱に1000円を突っ込んでしまいました。
 

 まぁ、こういう時もあります。
 

2024年1月21日日曜日

原画展(1月度活動報告)

  広島大学でヨコエビの展示があるとの情報を掴み、日帰りで突撃してみました。


広島大学です。

 その道では知らぬ者のいないヨコエビのメッカで、毎年何本も記載論文が出ています。


広島大学中央図書館です。


地域・国際交流プラザです。

 この「ヨコエビの系統分類学的研究とその成果の書籍化」は、去年出版された『ヨコエビはなぜ横になるのか』に関連する展示で、著者の富川先生が担当されているそうです。


 基本的には、書籍やネット記事や一般向け講演の内容がコンパクトにまとめられ、ポスター化されていますが、「書籍化による研究内容の周知の意義」といった新しい切り口です。

 学生さん手作りと思われる世界地図にヨコエビの写真が貼り付けられているのはなかなかかわいかったです。

 標本はジンベエドロノミPodocerus jinbe,オオエゾヨコエビJesogammarus jesoensis,アケボノツノアゲソコエビAnonyx eous,ヒゲナガハマトビムシTrinorchestia trinitatis,ヒロメオキソコエビEurythenes aequilatusの5種で、うち2種が富川先生が関わって記載されたものになります(Narahara-Nakano, Nakano, & Tomikawa, 2017; Tomikawa, Yanagisawa, Higashiji, Yano, & Vader 2019)。ヒロメオキソコエビのインパクトは抜群。


ヒゲナガハマトビムシは…よくわかりませんでした。
trinitatis/longiramus問題についてはこちら

 また、シツコヨコエビJesogammarus acalceolusParonesimoides calceolus,アカツカメクラヨコエビPseudocrangonyx akatsukaiの直筆原画と原記載論文(Tomikawa & Nakano 2018; Tomikawa & Kimura 2021; Tomikawa, Watanabe Kayama, Tanaka, & Ohara 2022)、そして”例のパンダメリタ”の直筆原画の展示。ほとんどホワイトを入れず一気に全身図を描ききる技が工芸品や絵画の職人そのものです。

 

 「原画展」というとマンガでは一般的でしょうか。一方、分類に携わる人間として、記載論文に使われたスケッチの実物を見られるというのは、その実物の貴重さのみならず、テクニックの一端を見られるという実利があります。私は記憶の限り一発で線画の墨入れをできたためしがないのですが、手直しするには余計な時間がかかるので、一発で仕上げるというのは芸術的なスキルだけでなく、効率的な記載図の生産という部分を考えずにはいられませんでした。


 展示は1月いっぱいまでとのこと。無料で誰でも見れます。



<参考文献>

Narahara-Nakano Y.; Nakano T.; Tomikawa K. 2018. Deep-sea amphipod genus Eurythenes from Japan, with a description of a new Eurythenes species from off Hokkaido (Crustacea: Amphipoda: Lysianassoidea). Marine Biodiversity, 48(1): 603–620.

富川光 2023. 『ヨコエビはなぜ「横」になるのか』. 広島大学出版会, 東広島. 198pp. ISBN:978-4-903068-59-6

Tomikawa K.; Kimura N. 2021. On the Brink of Extinction: A new freshwater amphipod Jesogammarus acalceolus (Anisogammaridae) from Japan. Zookeys, 1065: 81–100.

Tomikawa K.; Nakano T. 2018. Two new subterranean species of Pseudocrangonyx Akatsuka & Komai, 1922 (Amphipoda: Crangonyctoidea: Pseudocrangonyctidae), with an insight into groundwater faunal relationships in western Japan. Journal of Crustacean Biology, ruy031.

Tomikawa K.; Watanabe Kayama H.; Tanaka K.; Ohara Y. 2022. Discovery of a new species of Paronesimoides (Crustacea: Amphipoda: Tryphosidae) from a cold seep of Mariana Trench. Journal of Natural History, 56(5–8): 463–474.

Tomikawa K.; Yanagisawa M.; Higashiji T.; Yano N.; Vader, W. 2019. A new species of Podocerus (Crustacea: Amphipoda: Podoceridae) associated with the Whale Shark Rhincodon typus. Species Diversity, 24: 209–216. 

2023年11月18日土曜日

文化端脚類学 in 博クリ(11月度活動報告その3)

 

 来年で10年になるという、博物学ひいては蒐集趣味をテーマとした物販交流イベント「博物ふぇすてぃばる」。だいたい夏にやってるらしいのですが、冬には「博物クリスマス」という冬季版が例年開かれているらしく、そこにヨコエビにまつわる品を扱うブースがあると聞きつけ、出かけていきました。


 観光客でごった返す浅草。

 6階で小型動物の即売会があるみたいで、ハシゴする人もいるんだろうなと思いつつ、7階の会場へ向かいます。


 先週のデザフェスと比べてしまうと、だいぶこぢんまりとした会場で、端から端まで全部見れるので見落とし感がないのは嬉しいですね。デザフェス会場で見かけたのと同じ出展者さんのブースも4,5つありました。


 まずお目当てのヨコエビです。

 メンダコのベルの分銅として、ヨコエビがあしらわれているとのこと。メンダコの餌としてはやはりヨコエビがメジャーですね。




 いやもうデザインもそうだけど、音がめちゃくちゃいい。特に気に入った真鍮の大きめサイズを購入しました。

 華やかかつ軽やかで、良いレストランに入ったようなワクワク感を鳴らすたびに味わえる感じ。



 博物画(実物)を扱っているブースを発見。何せよ必要な資料はPDFで手に入る世の中で、已むに已まれず古い原書を取り寄せたこともありつつ、ロマン的なものも感じてきました。前から興味はあったのですが、検索できないのが不便でなかなか手が出ませんでした。今回は商品のボリュームがちょうどよく、また分類群ごとにまとめてくれていたので、わりとスムーズに探せました。

 本命の博物画の中に端脚類はありませんでしたが…

 脇に「タバコのトレーディングカード」という箱が。

 その時まですっかり忘れていたのですが、実に95年前のイギリスでタバコのオマケとして実際に流通してた「トレーディングカード」に、フクロエビ上目があしらわれたものがあったような。

 ソーティングする時なみの集中力で探します。


 おいおい。


 ワレカラさんだ!ほんとにあった!


 第2咬脚と背中に剛毛が多いですね。

 簡単に調べてみたくなりました。ここはどこのご家庭にもある「イギリスの磯生物のハンドブック」でも開いて確認してみましょうかね。



 形態が完全に一致するものは載ってませんが、この中では何となく、Caprella acanthifera がモデルになってる気がしますね。


 端脚類に関してはこんな感じです。

 新旧の文化端脚類的産物を同時に味わえる貴重な場でした。ぜひ今後もアンテナを張っていきたいと思います。



<参考文献>

— Hayward, P. J. 2022. 『Rock pools』. Naturalists' Handbooks 35. Pelagic Publishing, London. ISBN978-1-78427-359-0

2023年11月11日土曜日

文化端脚類学 in デザフェス(11月度活動報告その2)

 

 今やアジア最大級のアートイベントになったという「デザインフェスタ(デザフェス)」に、端脚類モチーフの作品を出展するブースがあると嗅ぎつけ、偵察に出かけました。


いつぶりかの国際展示場

 開場からやや遅らせて到着しましたが、すごい人手です。これだけの人の目に端脚類が触れる可能性があるかと思うと、滾りますね(?)。


 予め目星のブースを選定して移動コースを想定していましたが、実際に会場へ足を踏み入れると人の流れが凄まじく、マークしてなかったブースに魅力的な品があったり、公式HPに記載されていない作家さんの出展を見つけたり、やはり計画通りにはいきませんでした。


捕獲結果(ごく一部)。


 端脚類をモチーフにした品を扱うブースはやはり当初の見立て通りでしたが、等脚類など他の甲殻類については他のブースでもぽつぽつと見つけました。


「かすみそう」さんの消しゴムはんこ(ワレカラほか)。
印影が美しいのもそうなんですが、
削り跡に迷いがなく活き活きとしていますね。


「むせきつい屋さん」さんのクリアファイル(ヨコエビとワレカラ)。
かなりかわいいですが体制はわりと正確ですね。



 マニアックな生物として扱われている状況は変わっていないようですが、そもそもこういった場に上げられる機会すら今までほとんどなかったわけで、かなりの躍進と思えます。

 これまで、ワレカラの革製キーホルダーアカントガンマルスの革製ポーチとか、ダイダラボッチのネクタイピンとか、雑貨が販売されていた経緯がありますが、安定した流通には至っていないようです。今後も繰り返しモチーフとして使われていくとありがたいですね。

 

2023年7月27日木曜日

端脚グルメ情報(7月度活動報告)

 

 ヨコエビの話をするとよく出てくる「それって食えんの?」という質問。結論から言うと、食えなくはないものの、一般的な食材となりえない要素がいろいろある感じです。以下、国内の例を挙げてみます。


古典から

— 茅原定 1833.『茅窗漫録』中巻.

 四国ではワレカラを酒の肴にするとのこと。ただ、調理法は不明です。


 また、山形県などの地域で食用にされていたという記録もあるようです(サイカルJournal)が、原典を見つけることはできませんでした。一方、クジラジラミについては食用にならんと一蹴している文献もあるとのこと(小山田是清 1829. 『勇魚取絵詞』)



救荒食

— 原徹一・早川孝太郎 1944. 『戦時国民栄養問題』. 霞ケ関書房.

 非常時の代替食糧として検討されたことがあるようです。このあたりは前述の伝統食がヒントになってるのかもしれません。



プレミア

— のりのふくい磯音ニュース「少し変わり種の海苔の話/えび等級というナゾの海苔」(2020/11/5)

 「エビ入りの海苔はプレミア」という話は海苔業界の方から聞いていたのですが、こうしてネット記事になっている例はあまり多くない気がします。



現代の冒険者たち

東京湾のヨコエビガイドブック Open edition ver. 2.0 (2021/3/22)

 水槽に湧いていたフトメリタをレンチンして醤油味にしたものです。エビの香りがしてうまいですが、肉はほぼ感じません。


— 原人のCatch & Eat「【キチ○イ回】ワレカラを食う!」 (2016/4/4)

 玉ねぎや三つ葉?と一緒にワレカラをかき揚げにすると、香りが立って美味いようです。


TW釣りetc.「ヨコエビを食ってみた」(2019/5/30)

 これは有名な記事ですね。ヒゲナガハマトビムシを脱糞させて塩茹でにて齧ったはいいものの、汚いモノを食べてる気がして完食できなかったとのことです。確かに…



そもそも食べて大丈夫?

 端脚類は固い殻を持ち、何かに隠れたり、泳いで逃げたり、トゲを生やしたり、あるいは多産でカバーしたりと、ケミカル方面以外の戦略を発達させているためか、毒を持ってるという注意喚起はあまり見かけません。

 ワレカラにおいて咬脚に"poison tooth"と呼ばれる器官があり、どうやら水中で格闘する時に相手に毒の一撃を加えるもののようです。捕食された後に効かせることを想定したものではないにせよ、食べ方によっては口などに刺さるかもしれません。

 また、海産物にコンタミしがちな端脚類にはアレルギーの表示義務はありません塩見一雄 2009. 「えび」,「かに」のアレルギー表示の義務化. 日本水産学会誌75(3): 495–499.が、がっつりアレルゲンが含まれています (Motoyama et al. 2007. Allergenicity and allergens of amphipods found in nori (dried laver). Food Additives & Contaminants, 24(9).) ので、えびかにアレルギー持ちの方は忌避すべき食材です。混入については「えびかにが棲息する海域で採取」などとやんわり示唆するメーカーが多いので、事前に確認すべきでしょう。

 さらに、生態系において分解者の役割を果たすヨコエビは、生物濃縮により有害な化学物資を溜め込んでいる可能性があります (一例:Curtis et al. 2019. Effects of temperature, salinity, and sediment organic carbon on methylmercury bioaccumulation in an estuarine amphipod. Science of The Total Environment, 687(15): 907–916. )。そういった面を考えると、無理して食べるべき食材でもないような気はします。


2023年6月17日土曜日

ちっちゃな科学館(6月度活動報告その2)

 

 端脚類の展示があるらしいと聞きつけると、どこへでも現れます。


 神奈川県の「相模川ふれあい科学館 アクアリウムさがみはら」にて開かれている特別企画展「ちっちゃないきもの展」にワレカラが展示されていると聞き及び、またもや仕事をサボって訪れました。


水面に浮かんでいるかのようです






確かにいる


 相模川の感潮域にワレカラがいるかはわかりません。地形を見る限り護岸化がかなり進んでいて、大きな藻類が生える場所がないので、見つけるのは難しそうです。水槽の底にマット状の藻が広がっていて、ちょっと本来の生息環境でないのではと思う部分もありましたが、かなり開発強度の高い磯環境の再現なのだと思います。 科学館側の観察記録も充実しています。


 常設展にも海の生き物が充実していて、ヨコエビの姿こそ見えませんが、相模川の上流から最下流までの自然環境の変遷と、人との関わりを知ることができます。