2024年5月30日木曜日

LNO敗れる(5月度活動報告)

 

 今回はボウズかました話です。


【I海水浴場】

 例の未記載種の新鮮なサンプルが必要になりました。ヨコエビネットワークの情報に基づくと、今ここにいるはずです。


セーリングのサークルとかが活動しているようですね。


 なんというか…

 場違い感が…


 凝灰岩砕屑物を主体とすると思われる砂地をLNO法(ランドリーネットオペレーション)でガサゴソすると、よく分からない細いタナイスが大量に採れますが、ヨコエビは全くといっていいほど採れません。

 さすがに来た甲斐がなさすぎるため、ウミウチワ Padina をガサってみます。


コウライヒゲナガ Ampithoe koreana


カマキリヨコエビ科

 その他諸々。同定できそうな状態のサンプルも採れました。機会があればファウナの記述もできそう。

 しかし、目的のヨコエビは得られず。



【S海水浴場】

 ここにはいないそうですが、この近さで分布してないのは不自然なのと、昨日採れてない場所でまた採れなかった場合の精神的ダメージは計り知れないため、味変します。


ツバサゴカイ Chaetopterus のものと思われる棲管が大量に。
樋之口ほか(2024)には記載がなかったような。


 かなり遠浅ですね。

 火山岩質の黒っぽい細砂のリップルマークの畝の間に、河川から供給される凝灰岩系の淡色の粗砂が溜まっている感じです。


ドロソコエビ属 Grandidierella


 樋之口ほか(2024) にもニッポンドロソコエビの報告はありますが、学名の authorship と年との間にカンマがないのは気になるポイントですね。

 あとはクチバシソコエビ科 Oedicerotidae が大量に。今のところ属までは落としてません。
 せっかくなので検索表を載せておきます。


世界のクチバシソコエビ科の属までの二又式検索表 

(Barnard and Karaman 1991, Bousfield and Chevier 1996 に基づく)

1. 大顎臼歯部は粉砕形 … 20
— 大顎臼歯部は粉砕形でない … 2
2. 第2咬脚ははさみ形 … 3
— 第2咬脚は亜はさみ形 ... 6
3. 第3,4胸脚の指節は縮退する … 4
— 第3,4胸脚の指節は通常形 … 5
4. 第7胸脚の基節は後縁端部に葉状突起を具える … アメリカサンパツソコエビ属 Americhelidium
 第7胸脚の基節は後縁端部に葉状突起を欠く … サンパツソコエビ属 Synchelidium 
5. 第2咬脚の前節の半分までがはさみ形となる … Chitonomandibulum
— 第2咬脚の前節の1/3未満までがはさみ形となる … ムカシサンパツソコエビ属 Eochelidium 
6. 第1咬脚の前節は延伸せず、延伸する第2咬脚の前節より明らかに短い … 7
— 第1咬脚と第2咬脚の前節はおおむね同長 … 8
7. 第1咬脚は transeverse … Monoculodopsis
—  第1咬脚は亜はさみ形 … Hartmanodes
8. 第1,2咬脚は腕節に葉状突起を具える … 10
— 第1,2咬脚は腕節に明瞭な葉状突起を欠く … 9
9. 第1触角柄部第1節は歯状突起を具える … Cornudilla 
 第1触角柄部第1節は歯状突起を欠く … Aborolobatea 
10. 大顎髭を欠く;第1,2咬脚は発達しない … Machaironyx 
— 大顎髭を具える;第1,2咬脚は強壮 … 11
11. 第1咬脚の腕節の葉状突起は短い/前節をほとんど覆うことはない … 12
— 第1,2咬脚の腕節の葉状突起は長く前節を覆う … 13
12. 腕節の葉状突起は、第1,2咬脚において互いにほぼ同長 … Oediceros 
— 腕節の葉状突起は、第2咬脚より第1咬脚のほうが遥かに短い … Paroediceros 
13. 大顎髭の第3節は第2節とほぼ同長 … 14
— 大顎髭の第3節は第2節より短い … 15
14. 頭頂を具える;第3,4胸脚は長節側面に剛毛列を具える … Finoculodes 
— 頭頂を欠く;第3,4胸脚は長節側面に剛毛列を欠く … Arrhinopsis 
15. 第1,2咬脚の腕節は前縁が伸長し前節とほぼ同長となる、腕節の葉状突起は短く前節の掌縁に届かない … 16
— 第1,2咬脚の腕節は前縁が短い/不明瞭、腕節の葉状突起は伸長して前節の掌縁に達するか、あるいはこれを越える… 17
16. 第1,2咬脚の掌縁は指節と同長、後角は鈍角 … Imbachoculodes 
 第1,2咬脚の掌縁は指節より短い、後角は不明瞭 … Hongkongvena 
17. 顎脚の外板は顎脚髭第1節の端部に達する;第1,2咬脚の腕節の後縁端部に葉状突起を欠く;第3,4胸脚の指節は前節より長い … Sinoediceros 
— 顎脚の外板は顎脚髭第1節の端部を越える;第1,2咬脚の腕節の後縁端部に葉状突起が伸長する;第3,4胸脚の指節は前節より明瞭に短い … 18
18. 第1触角柄部第1節は剛毛を欠く;大顎切歯部は歯状突起がよく発達する;尾節後縁は弯入しない … 19
— 第1触角柄部第1節は剛毛を具える;大顎切歯部は歯状突起を欠く;尾節後縁は弯入する … Perioculopsis 
19. 第1,2咬脚の腕節の前縁は前節長の約20%の長さ ... カンフーソコエビ属 Perioculodes 
— 第1,2咬脚の腕節の前縁は短い … Orthomanus 
20. 第2咬脚ははさみ形 … ハサミソコエビ属 Pontocrates
— 第2咬脚は亜はさみ形 … 21
21. 第1咬脚の掌縁は transverse … Carolobatea 
—  第1咬脚は強壮あるいは掌縁は鈍角 … 22
22. 大顎切歯部の歯状突起はよく発達する… 29
— 大顎切歯部の歯状突起は発達しない … 23
23. 第1咬脚は第2咬脚より大きい;第1触角柄部第1,3節は同長 … Monoculopsis
— 第1咬脚は第2咬脚より短い;第1触角柄部第3節は第1節より短い … 24
24. 第3あるいは第4底節板後部は弯入する … 25
— 第3および第4底節板後部は弯入しない … 27
25. 第1触角柄部第2節は第1節より短い … 26
— 第1触角柄部第2節は第1節と同長 … Arrhis 
26. 頭頂は尖り、第1触角柄部第1節の半分に届かない … Aceroides 
— 頭頂は伸長し、第1触角柄部第1節端部に到達する ... Rostroculodes
27. 第1,2咬脚は退化的;複眼は背面に円形を形作る  … Gulbarentsia
— 第1,2咬脚は退化的;複眼は背面に円形を形作らない、あるいは複眼を欠く ... 28
28. 複眼は縮退するかこれを欠く;大顎髭第2節は直線的 … ツッパリソコエビ属 Bathymedon
— 複眼はよく発達する;大顎髭第2節は湾曲する … Westwoodilla 
29. 第2尾節副肢先端は、第3尾肢柄部の端部に届く;第3尾肢は長大 … Halicreion
— 第2尾節副肢先端は、第3尾肢柄部の端部を明瞭に越える;第3尾肢は通常形 … 30
30. 第2咬脚の前節は第1咬脚の前節より短く、細長い … リクスイクチバシソコエビ属 Limnoculodes 
— 第2咬脚の前節は第1咬脚の前節より長いか、あるいは同長 … 31
31. 第5胸脚の長節後縁は伸長し腕節を覆う … 32
— 第5胸脚の長節は腕節を覆う突起を欠く … 33
32. 第5胸脚の長節は後縁端部に、腕節へ覆いかぶさる葉状突起を具え … Parexoediceros 
— 第5胸脚の長節は端部に突出部を欠く … Kroyera
33. 胸節背面に多数の隆起をもつ … 34
— 胸節背面に突起を欠く … 35
34. 複眼は大きく頭部背面で相接し、頭頂内へは入り込まない … Acanthostepheia
— 複眼は小さく頭頂内に収まる、あるいはこれを欠く ... Oediceroides
35. 左右の複眼は完全に癒合し、頭部の背面に位置する  … 36
— 複眼は癒合しない、あるいは癒合しても頭頂内に収まる、あるいはこれを欠く … 40
36.  第4底節板の葉状突起は発達が弱く鈍い;尾節板は後縁に切れ込みをもたず全縁  … 37
— 第4底節板は鋭く尖る葉状突起を具える;尾節板は後縁に切れ込みを具える … Paroediceroides 
37. 第1,2咬脚の腕節後縁端部の葉状突起は小さい …  Paraperioculodes 
— 第1,2咬脚の腕節後縁端部の葉状突起は、前節の掌縁後角に達する … 38
38. 第1咬脚の腕節は大きく、細長い … Pacifoculodes
— 第1咬脚の腕節は小さく、幅広い … 39
39. 第3,4胸脚の長節は腕節より長いか同長;第7胸脚の基節後角の葉状突起は不明瞭か、あるいはこれを欠く … Deflexilodes
— 第3,4胸脚の長節は腕節より長い;第7胸脚の基節は、座節を越える明瞭な葉状突起を後角に具える … Ameroculodes 
40. 第4底節板の後角は大きく鈍い葉状突起を具える … Oedicerina 
— 第4底節板の後角は大きな突出部を欠くか、あるいは大きく尖った葉状突起を具える … 41
41. 第2小顎の外板は強壮な棘状剛毛を具える … Anoediceros(一部)
— 第2小顎の外板は剛毛を欠く … 42
42. 第1触角は短く痕跡的/全長は第2触角柄部第5節を越えない;第2触角柄部は伸長し、湾曲した長剛毛を具える … 43
— 第1触角全長は第2触角柄部第5節を明らかに越える;第2触角柄部は湾曲した長剛毛を欠く … 45
43. 頭頂はよく発達する;第4底節板の後角は丸みを帯び葉状突起は不明瞭 ... Oediceroides
— 頭頂は痕跡的;第4底節板の後角は尖る … 44
44. 第1触角の柄部第1,2節は伸長する;第2触角の柄部は長剛毛を欠く;第2小顎の外板は剛毛を具える;第4底節板の葉状突起の突出は弱い … Anoediceros(一部)
— 第1触角の柄部第1,2節は短い;第2触角の柄部は長剛毛を具える;第2小顎の外板は剛毛を欠く;第4底節板は拡張する … Oediceropsis
45. 第1触角の柄部第3節は第1節より短い … クチバシソコエビ属 Monoculodes
— 第1触角の柄部第3節は第1節と同長 … 46
46. 第1,2咬脚の腕節葉状突起は前節に覆いかぶさる … Monoculopsis
— 第1,2咬脚の腕節葉状突起は前節に覆いかぶさらない … 47
47. 頭頂は前方へ伸長する … Paramonoculopsis 
 — 頭頂は伸長しない … Lopiceros

 クチバシソコエビも科としては 樋之口ほか(2024) に記録があります。

 なお、今回は上記グループ以外に文献記録がないと思われる属も見つかったので、K大での解析をお願いする予定です(丸投げ)。

 この地でもLNO法で採集を試みましたが、よりサンプルの損傷を防ぎ効率的に採捕する方法を編み出しました。これはヨコエビネットワークで共有していきたいと思います。

 東からの風が止まず、上げ潮はかなり食い気味に訪れました。潮上決戦にもつれこむことにします。


第7胸脚の長節,腕節の太さからすると、 
 タイヘイヨウヒメハマトビムシ Platorchestia pacifica 
 のような気がします。

 あまり大きな個体は採れませんでした。

 海岸に設置された環境学習施設のスタッフによると、ここの「干潟生物」の定義は厳密な干潟の定義に対して忠実に設定され、「潮間帯砂地のもののみ」に限定しているとのことで、ハマトビの類は「干潟生物ではない」という位置づけのようです。ただ 樋之口ほか(2024) は周辺の湿地のファウナも含んでいるようで、ハマトビの類もしっかり分類ができれば今後改訂版に掲載される可能性はあるかと思います。


 やはり狙ったヨコエビが採れなかったことには忸怩たる思いがありますが、久々に未踏の地で干潟を堪能できて良かったです。いるはずのヨコエビを採集できないという事態は回避していきたいので、採集方法や微環境選定など見直す精度の向上を図りたいと思います。



<参考文献>

— Barnard, J. L.; Karaman, G. S. 1991. The Families and Genera of Marine Gammaridean Amphipoa (Except Marine Gammaroids). Records of Australian Museum supplment 13, part 1,2, 866p. <part 1> <part2>

Bousfield, E. L.; Chevrier, A. 1996. The Amphipod Family Oedicerotidae on the Pacific Coast of North America. 1. The Monoculodes & Synchelidium Generic Complexes: Systematics and Distributional Ecology. Amphipacifica, 2(2): 75–148.

樋之口蓉子・田島奏一朗・是枝伶旺・本村浩之 (編著) 2024. 『改訂版錦江湾奥干潟の生き物図鑑』. 特定非営利活動法人くすの木自然館, 姶良市. ISBN978-4-600-01440-7