2012年12月8日土曜日

2012年を振り返って

また更新に穴を空けております。
「月1回更新」と言っていたのは誰だったでしょうか?
ねぇ 覚えているかな ? 
覚えてますとも!

まずはご報告から。


学会に行ってきました

10月、日本プランクトン学会・日本ベントス学会合同大会2012 Joint meetings of the Plankton Society of Japan and the Japanese Association of Benthologyに参加しました。
※発表は行っていません。


こちらが会場になりま~す


東邦大学理学部のⅤ号館って、設備も新しいし、建物が綺麗だよね。ああいうところで勉強できてうらやましいって、他の学科の人からも人気らしいよ(ステマ)


仕事があったので、学会には1日しか参加できませんでした。そのため、ヨコエビに関する発表を聴くことはできませんでした。ヨコエビのポスター発表は見てきましたよ。
その他、ベントスの話題を中心として口頭発表を聴きました。
学会で得た情報を何かに使う予定があるわけじゃないけど、スポーツ観戦みたいなものだと私は思っています。 プロの選手と同じようにその世界で活躍することを目指すのではなく、その界隈のことや、その人の仕事について知ることが自分にとって楽しい。しかも、その楽しさを他の誰かと共有できれば、尚更よいですよね。

今回の学会では、ベントスの調査を行っている院生の方と知り合い、久々にヨコエビ談義に花を咲かせることができました。これだけで私にとって大収穫です。一度この世界に足を踏み入れた者として、学問の発展に多少なりとも寄与したいという気持ちもありますので、そういった意味でも学会に行って良かったと思います。

あと、公式Tシャツって表紙と同じデザインだから記念になるって言ってる人、多かったよね。シンプルなモノトーンでハイセンスだよね。私も1枚買っちゃった。結構売れたらしいよ(ステマ)



https://sites.google.com/site/pb2012tokyo/




・店で見つけたヨコエビを持ち帰るなど

 昨日は海鮮料理をたくさん食べられるお店で飲み会だったのですが、カニの皿の上に懐かしい姿を見かけました。

帰宅してから、早速アルコールに浸して、ルーぺを使って観察。



 わかんね。


第二咬脚が発達しているので、有り難いことに成熟したオスかと思います。
頭頂は突出しない。
底節板は大きいように見える。
尾部は破損しているようだ。
触角も、持って帰るときに取れてしまった。
複眼は頭部側葉まで入り込んでいるようにも見える。

顕微鏡を買う、という宣言をしましたが、ぜんぜんお金がないので、見送ります。
(ここ半年、リアルに預金残高が増えていないです。ガチです。)
これを見れるようになるまでどのくらいかかるのか・・



今年一年を振り返って&今後の展望

まず、ブログの更新は、気合だけではどうしようもないことが分かりました。
うまく時間を作ってブログを更新して、休日は計画的に調査へ出掛けて。そういうふうにしないと、どうしようもないですね。

他には、ヨコエビ以外の生物ネタも積極的にブログで採りあげてもよいかもしれません。
種の生息報告は同好会などの会報に投稿するので、決定的瞬間とか、小ネタ的なものを書いてければと思います。
(それすら時間とネタがないんですけどね)


さてさて、来年はどこまで活動ができるか。
・顕微鏡は必要。
・調査は、せめて自分で計画したものを1回くらいはやりたい。

そして、
・中央博物館に残してあるテングヨコエビとクダオソコエビの再同定。

ゆくゆくは、ガイドブックとして出したものを論文で再発表して、本を書くことを目指します。
記載は、まだ目指しません。


「活動感」を大切にしたいと思います。
まだ、自分の時間の作り方や使い方が、定まっていません。

まずはきちんと仕事をしていかないといけません。
それが難しい。

ということで、何かを書いているようで何も書いていないことになっているような気もしつつ、本稿を閉じます。





P.S.
海外の方の目にも晒される可能性があると思って、このブログの日本語に英語を併記することも考えました。しかし、私の英語力はザコすぎるので、かえって誤解をされる可能性があると思い直しました。翻訳サイト等で対応してもらうことを期待して、あえて日本語で書いていきます。その代わり、私は翻訳しやすい日本語を記述していきたいと思います。


ツイッターはじめました
ユーザー名:vertical*6
@vertical06


ご意見ご感想をそろそろ募ります。
Please send a message to me!












2012年9月12日水曜日

~9月の活動報告


怠け癖がついております。
ちゃんとしろや、仕事!

やはり、仕事に追われて更新する時間がない、というかそもそもネタになる活動をする時間がない、というのが正直なところですが、それは言い訳ですね。禁断の紙綴器ネタなら溜まってるけどなあ・・

さて、今回のご報告はこんな感じです。



イラスト作成

 今年の10月に開かれる某学会の大会要旨集の表紙イラストを担当させて頂きました。

事務局にことわらずにあまりポンポンと出すのは良くなさそうですので、ヨコエビの部分だけ抜粋します(何やねんそれ)。
ちなみに、表紙デザインをあしらったTシャツも販売予定ですので、是非お買い求めください。(大会までにこのブログを読む人はいないだろうなあ(^^;))

 第二咬脚はニホンモバヨコエビAmpithoe lacertosaに似て、眼はポシェットトゲオヨコエビEogammarus possjeticusで、尾肢はヨコエビ上科Gammaroideaっぽいですね。第一咬脚はクチバシソコエビ科Oedicerotidaeか、はたまたUrothoe属か・・。全体はMaera属にも見えますが、実際は特にモデルはありません。一円玉の若木みたいなものです。


 学生時代は研究室Tシャツというものも作りました。
その頃のヨコエビはこんな感じ。
 
 体節構造を大切にしているのがよく分かります。尾肢も含めてヒゲナガヨコエビ科Ampithoidaeを意識しているのか?

イラストは、紙に書いてからそれをスキャンして、必要に応じてペイントで修正しています。イラストレーターのようなソフトは持っていないので、画を描くとすればペイントかパワーポイントです。「パワポで どうやって画を書くねん!」という話題については、また改めて触れます。たぶん。
ゆくゆくは、ヨコエビ46種(群)を萌えキャラ化して「横蝦46」としてデビューさせたいのですが、そのような類のイラストを描くにはまだ勇気と技術が足りません。
人の絵を描くのは、幼稚園の時から大の苦手です。

さて、2012年の日本プランクトン学会・日本ベントス学会合同大会は、10月5日~8日に開催されます。詳しくは、公式ホームページをご覧ください。



 
文献翻訳

 卒論の時もそうでしたが、分類の研究(もどき)をしていると、膨大な本数の文献に目を通す必要に迫られます。
 日本語の文献などごくわずか。英語ならまだ良い方。フランス語の調査報告書,ドイツ語の生態観察論文,ラテン語の記載文,中国語のモノグラフ・・・ 色々と読んだ気がしますが、何より手強いのはロシア語の論文群でした。
 ロシアでは、グリャノワ氏を筆頭に数多くの学者がヨコエビを分類しまくってきたという経緯があります。ロシアは日本海を挟んで日本と隣り合っていて、ヨコエビの種を語る上でロシアでの研究というものは無視できません。実際、フトメリタヨコエビMelita rylovaeポシェットトゲオヨコエビE. possjeticusなど浅海域でみられる普通種の中にも、ロシアで記載された種が数多く含まれています。
 ロシアのヨコエビ研究における最重要文献は、Gurjanova(1951)ではないかと、私は勝手にそう思っています。
 1,000Pを越える本文献は、ロシアとその周辺海域に生息するヨコエビを、ひたすら解説している論文です。もちろん、分類的に変わってしまっている種や、新たに記載されている種というのもかなりの数に上るのですが、1950年代までの知見が凝縮された本文献は必読です。
 とはいえ、この重要文献を読むには、大きな問題があります。
 それこそ、言語の壁です。
 このマンモス文献は、全編ロシア語で書かれているのです!

 関係者の間では「これを英訳したら英雄になれる」などという冗談が囁かれたりもする本文献ですが、分類学的研究において、文献を全て通読する必要はありません。シノニムリストの追跡をしたり、種の特徴を知ることができれば十分なので、読むのはごく一部です。とはいえ、ロシア語です。まず、字が意味不明です。RやNがひっくり返ったりしています。

 このブログはロシア語を解説するものではないため、私がどのようにロシア語の文献を翻訳してきたか、書かせて頂きます。
必要なのは、僅かなロシア語の素養と、インターネット環境です。


① Googleを開きます。Google翻訳のページに飛びます。

② 翻訳したい言語を「ロシア語→英語」に設定します。

③ ここで、2通りの方法があります。
 3-1 仮想キーボードを使う
  あなたのキーボードでキリル文字(ロシア語の文字)を打てるようになります。画面を見ながら、どのキーがどの文字に対応するかを確かめてタイプしていきます。効率よく作業するには、キリル文字の名前くらいは覚えておいたほうがよいです。間違いやすい文字(ЩとШ,ЧとЦ,ЫとЬとЪ)は特に注意です。 

 3-2 発音に基づいた入力を行う
  アルファベットがキリル文字に変換されます。この方法をとる場合、キリル文字の発音をマスターしておく必要があります。ただ、ロシア語として成り立つようにGoogle先生が修整をかけてくれるので、極端にシビアな発音の再現を求められたりはしません。
  例えば、treugoljnyiと入力してスペースを押すと、треугольныйと変換されます。

④表示される翻訳結果をチェックします。時々、翻訳されない単語があったりするので、ロシア語辞典やインターネットを使って調べます。

⑤必要に応じて、英語の文章を日本語に訳します。



日本語と英語の相性が悪いことは感じてらっしゃるとは思いますが、英語とロシア語は結構相性がよいので、Google翻訳の結果はおおむねそのまま使えます。分類学の記述自体が単純な文法だから、というのも大きいかもしれません。
手打ちなので時間はかかりますが、手調べよりは遥かに短時間で翻訳できます。キリル文字が認識できるツールがもしあれば、文献の画像をそれにかけて文字情報を抽出すれば、驚くべき手軽さで翻訳できます。


この度はBudnikova(1995)を翻訳中です。ある一種の記載文だけですが、相当時間がかかってます。





さて、これから趣味に奔走かといえば、まだそうもいかないと思います。
とりあえず、10月の学会には出たいです。
自分がやるべきことは、卒論でやりかけた、東京湾産ヨコエビの再同定。
属(属群)ごとに全ての既知種を洗い出すという作業が不十分なので、今月以降時間がとれれば、しばらくはこれに専念するかと思います。
そして、自分の首を絞めるようですが、新たなサンプルの入手もやりたいです。
既知種が洗い出されたら、順次必要な文献を集めて、読みにくいものに関しては翻訳作業を行います。

次はもう少しビジュアル的に楽しいご報告ができますように。





<引用文献>


・Будникова, Л.Л. [Budnikova,L.L.]  (1995) Два новых вида амфипод семейства Pleustidae (Amphipoda, Gammaridea) с шельфа западного сахалина [Two new species of amphipods of the family Pleustidae (Amphipoda, Gammaridea) from the shelf of western Sakhalin]. Зоологический журнал [Zoological Journal], 74(2).


・Гурьяаоонова,Е.Ф. [Gurjanova, E.F.] (1951) Бокоплавы морей СССР сопредельных вод (Amphipoda - Gammaridea) [ Gammarids from USSR seas and adjacent waters (Amphipoda – Gammaridea), determinants of fauna in USSR ]. Определители по фауне СССР. [ Zoological Institute Academy of Science ], 41: 1-1029.






2012年7月28日土曜日

6月度活動報告

怠けております。随分お待たせして、一言お詫びします。

先月なぜ更新しなかったかを少し考えてみましたが、
学会をどう紹介しようか推敲していて、そのうちに忘れてしまったようです。

学会の内容をつらつらと書くのはちょっと違うかと思いつつ、
6月度の活動報告と称して字を多めにお送りします。


2012.6.9

日本動物分類学会

2010年以来、2年振り2度目の参加。
学会員ではありませんが、話を聞けるのは楽しい。
ヨコエビに関する発表があり、これは行かねばということで、千葉県船橋市の東邦大学習志野キャンパスへ。船橋市なのに習志野なんですよね。

語りたいことは山ほどありますが、私の感想として、学問を楽しめるという幸せを忘れてはいけないと思いました。分類学という世界で自分が何をしたいのか、何をできるのか、何も考えていませんでしたが、とにかくヨコエビを追いかけること(特に分類)は疑う余地もなく自分の趣味であり、楽しみだと思います。だったら、ここでいつまでも充電していないで、そろそろ弾ける時かな、と思ったり。
ただ、本当に時間が取りにくいんですよね。そこで、設備改善の方でやってみたいと思います。効率的な作業スペースと機器の充実。現在検討中です。



論文収集

インターネットで論文が手に入るご時世ですが、足で稼がざるを得ないものもあるかと思います。在学時代、行かなくても何とかなったはずの九州遠征が良い思い出となったように、文献収集そのものが少し楽しかったり。分類好きな人はやはり、根がコレクターですね。
さて、今回は近所の県立図書館に出掛け、初見の書籍を見つけたのでコピーしました。

武田正倫(1982)『原色甲殻類検索図鑑』. 北隆館, 東京. pp233-235.

3頁の間に収録されているヨコエビは、淡水のものも含めて9種。分類が古いのは置いておいて、まずヨコエビを9種も載せてくれたことに感謝です。図版は色彩が美しく、あまり見たことのないアプローチの図鑑かなと思いました。花を色や形だけで検索できる図鑑を見た記憶がありますが(このシリーズだったかは失念)、その要領で、甲殻類を簡単に検索できます。ただし、ヨコエビなどのフクロエビ上目は検索表に入ってないようだ。残念!
各種の説明もシンプルで、何となくそのヨコエビのことが分かります。比較的浅場でも見られるカマキリヨコエビ科Ischyroceridae,ドロクダムシ科Corophiidae,ドロソコエビ科Aoridaeは収録されておらず、網羅性は高くありませんが、書籍全体を見ると、甲殻類相全体の知見が凝縮してあるという印象です。
通読に向く図鑑だと思います。ぜひご一読あれ!



サンプル処理

5月に行った三番瀬のサンプルがまだ冷凍庫に眠っておりましたので、発掘してアルコール処理しました。
 サンプルは、採集した日に軽くソーティングして、海水を多めに入れてから瓶ごと冷凍することにしています。冷凍というテクニックは、私のバイブルたる駒井(2003)に則っています。現場にアルコールを持っていく必要がないこと、そして何より標本が身をよじらせたり、足を失ったりすることなく、きれいに仕上がることから、必ず冷凍しています。あと、気のせいかもしれませんが、より長くしっかり冷凍しておいた方が、アルコールに漬けたあと、色が長く残るような気が・・・

さて、サンプルは御覧のように凍りついています。これを常温で溶かします。夏なので、すぐに溶けます。PCが死にかけたのでクーラーをガンガンかけていますが、それでもやっと30℃って何なの?あついぞ、●谷!

砂の多い瓶があったため、中身を皿にあけて洗ってから瓶に戻します。見て下さい、標本では真っ白になっているヒメハマトビムシPlatorchestia platensis sensu latoが、生時の色彩をほぼ留めています!これをアルコールに漬けてもすぐには色は変わらず、しばらく模様を楽しめます。Chapman(2007)にはやけに丁寧な模様の解説があったと記憶していますが、日本でやってる人いないのかな・・・
 

この「S」は、サディスティックという意味ではなく、Aから連番で振っている仮の整理札です。2cm角の耐水ペーパーで作ってあり、現場では採集場所に置いて写真を撮り、それをサンプルと一緒の瓶に入れておき、最後に正式なラベルを作るまで管理します。現場で採集場所の情報をメモする時もメモ帳にこのアルファベットを書いておけば、どの標本がどんな場所で採れたのか、後で辿ることができます。また、こうして写真を撮る時には大体のスケールの代わりになります。小さいSは、顕微鏡下で写真を撮る時に写りこませるためのものです。
実際の使用例は、また改めて。


先ほどの設備改善を実施するために、顕微鏡のスペース確保が必要と考えられました。そのためにデスクのレイアウト変更が必要で、そのために部屋の配置換えが必要で、そのためにまずは本棚の充実が必要で、ということで、ようやく本棚を買いました。
これからこれを逆で辿っていき、顕微鏡の入手まで漕ぎつけられればと思います。
今年中が目標かな・・・



参考文献

駒井智幸 (2003) 甲殻類. In;松浦啓一(編著)『国立科学博物館叢書③ 標本学 自然史標本の収集と管理』. 東海大学出版会, 東京. pp.39-47.

Chapman, J.W. (2007) Gammaridea. In;Carlton,J.T. The Light and Smith Manual Intertidal Invertebrates from Central California to Oregon. Fourth Edition, Completely Revised and Expanded.  University California Press. pp.545-618.













2012年5月20日日曜日

調査記録01多摩川/02三番瀬

ようやく調査に行きました。
だいぶ焼けました。


 調査01 多摩川 (神奈川県)

いわずと知れた一級河川。山梨から東京,神奈川と流れる長い川です。
最河口部には、2010年に羽田空港のD滑走路ができました。


今回はNPO海辺つくり研究会が主催する市民調査「SCOP100」に参加し、ついでにヨコエビを拾いました。自分だけでどこかへ行って調査してもよいのですが、何かあった時が大変なのと、一人で変質者になる度胸がないのとで、当面は便乗して出かけることにします。
主催者,参加者の方々から色々な話を聞けるのも楽しいしね。

 神奈川県某所。多摩川の河畔。

調査地はこんな感じ。千葉県木更津市の小櫃川河口干潟に似ている、発達したヨシ原と泥湿地です。ヤマトオサガニなど、見られる生き物も似ている。


 割り当てられた地点の砂泥を掘り、網に入れてよくふるい、内容物を確保。ヨシの残骸が多く嫌な予感がする。表層土,浸出水をさっさと採取し、いよいよ自分の調査を開始。


ヨシの切れ端はそこらへんにあります。
波打ち際に溜まっているヨシを拾い、バットの上で洗います。ふと、視界の隅を横切る影・・・

ニッポンドロソコエビGrandidierella japonicaです。
2年前もこの近くで採れました。多摩川下流部の干潟を代表するヨコエビといえます。
本種は砂や泥に穴を掘り、触角だけを出して流れてくるものを集めて食べているようです。
この属は、本種以外のものは東京湾では確認していません。現場では、色合いで大体の見分けはつきます。


何か人工物が落ちてます。
環境NPOといえば、親の仇とばかりに川ゴミを拾い集めるようなイメージがありますが、私はこういうのが落ちてると欣喜雀躍です。さっそく拾う。
バットの上で洗ってみます。釣り人の帽子でした。

 内側の折り返し部分には、ニッポンドロソコエビが何匹も隠れていました。大きいものから小さいものまで採り放題。ナイス落し物!!

そして、こちらの種も採れました。
たぶん、ヒゲツノメリタヨコエビMelita setiflagellaです。
メリタ属の種はどれもよく似ていますが、本種は写真のように各節の後縁に濃褐色のL字紋があります。砂泥底を中心にみられ、石などの基質の裏でよく採れます。
よく目立つ特徴は、オスの第2触角に毛の束があること。ただし、肉眼ではほとんど確認できません。
いずれにせよ、ちゃんと同定するには、色々な肢をよく観察しなければなりません。

 碧い空、蒼いヨシ


ヨシ原を歩いて帰ります。
流木をひっくり返すと、そこには・・・
ヒメハマトビムシと思われます。
長らくPlatorchestia platensisという学名があてられてきましたが、Miyamoto and Morino(2004)ではアジアに生息しているP. platensisは本来のP.platensisではなく、新種のP. pasificaに相当するとの見解が示されました。その後の森野(2007)では、ヒメハマトビムシの学名はP. platensis sensu latoとなっていて、P. pasificaと区別されています。(※sensu latoというのは「広義の」という意味です。)
これを踏まえると、ヒメハマトビムシ=P. platensis sensu latoで、P. pasificaは和名なしとして置いておくのが無難かもしれません。とにかく、種が確定していない、ということです。
ちなみに、卒論では、多摩川下流,葛西臨海公園,三番瀬,新浜(行徳近郊緑地),盤洲干潟(木更津)などのサンプルを比較しましたが、全部P.pasificaのように見えました。難しい・・・

和名と学名というのは、微妙な関係にあるといえます。その辺のつまらない話はまたいずれ・・・

いずれにせよ、 ヒメハマトビムシはビーチの流木の下にいる、砂浜にはつきもののヨコエビです。木をひっくり返すと、驚くべき速さで跳躍し、どこかへ逃げてしまいます。



今日も無事に調査終了。
まさに「スコップ100」という光景を貼って、この話題を閉じます。
 


 調査02 三番瀬(千葉県市川市東浜)

多摩川が終わった昨日の今日ですが、三番瀬に行きました。
卒論をやってた時は3日に1回くらいは通ってました。
マジです。

千葉県の北西部、浦安,市川,船橋,習志野の4市に挟まれた干潟浅海域です。
海苔,貝など今でも漁が行われている海域ですが、毎年、青潮(貧酸素水塊)による生物への被害は深刻です。
今回は、千葉県立中央博物館と東邦大学が共催で毎年実施している観察会に便乗しています。 押し寄せた潮干狩り客を横目に、いざ干潟へ。
 ふなばし三番瀬海浜公園潮干狩り場の端。こちらから西側は市川市の土地で、潮干狩りは実施されていない。


件の大震災以降、一部のエリアは立ち入り禁止にされているようです。

砂浜に行くと必ず見るのは、流木の下。
ヒメハマトビムシPlatorchestia platensis sensu latoがピョンピョン飛び跳ねています。写真はカラカラになっていたもの。

アオサがあちこちに。 すくって、バットの中で洗います。

 アオサの表面には、お決まりのモズミヨコエビAmpithoe validaがいました。干潟表面の海藻上には、必ずと言っていいほどみられます。
鮮やかな緑色をしていて、参加者の皆さまから意外とご好評頂きました。必ず緑色をしているわけではなく、暗褐色や赤褐色をしているものも多いです。もし東京湾で足首くらいの水深の場所にあるアオサから緑色のヨコエビが採れたなら、十中八九、モズミヨコエビでしょう。


三番瀬にはカキ礁もあります。ここは避けて、波打ち際を進みます。


波打ち際にワカメらしい海藻が。ヨコエビ以外のものはちょっと分からなくてすみません。
根の塊を割ってみると・・・
アリアケドロクダムシMonocorophium acherusicumがものすごい密度で棲み込んでいます。
ドロクダムシ科は、第2触角がよく発達します。特に、写真中央の成熟オスはかなり立派ですね。
体が大きいので、頭頂が大きく凹んでいるのが分かる・・・かもしれません。資料があれば、頭部の色合いなどで大体種が分かります。Bousfield(1973)はお勧めです。


さて、こちらは護岸の裏。
ホンビノスガイを採っている方がたくさんいますね。
しかし、私の狙いはこの1種。

フトメリタヨコエビMelita rylovaeです。
体長10mm前後と大型のヨコエビで、東京湾浅海域のメリタ属では最大クラスではないでしょうか。
背中と触角は赤褐色で、肢が白と黒の縞模様になっているのが特徴です。

 
それにしても、ひどい赤潮でした。
東京湾の赤潮はこのような赤褐色がかるものが多いようです。
瀬戸内のように魚を殺したりという類のものではないとのことですが、青潮の原因となったりして、頭の痛い状況です。



以上、2つの調査をご報告します。

久々の干潟巡りでちょっと疲れましたが、いいリフレッシュになりました。




参考文献

-Bousfield, E.L. (1973) Shallow water gammaridean Amphipoda of New England. Cornell University Press, 314 pp.

-Miyamoto, H. and H. Morino. (2004) Taxonomic studies on the Talitridae (Crustacea, Amphipoda) from Taiwan. II. The genus Platorchestia, Publications of the Seto Marine Biological Laboratory, 40(1/2): 67-96.
-森野浩 (2007) 節足動物門 軟甲綱 端脚目. In; 環境省自然環境局 生物多様性センター(ed.) 第7回自然環境保全基礎調査 浅海域生態系調査 (干潟調査) 報告書. i-iv, 1-235, (1)-(99).










2012年4月21日土曜日

書籍紹介01 『深海3,000フィートの~』


ご無沙汰しております。

月1回更新の様相を呈してきました。



書籍紹介をします。
さっき届いたばかりの本です。



『深海3,000フィートの生物(ヴィーナス)たち』



約80種に及ぶ深海生物を一般向けに解説したものです。
「生物」を「ヴィーナス」と読ませるあたり、深海生物に対する深い愛情を感じます。

amazonをサーフィンしている時に見つけて、即買いでした。





表紙はこんな感じ。









ええ、萌え絵です。ある意味、色モノです。
しかし、こういうのに限ってしっかりした基盤をもっていたりする、というのが私の持論です。
果たして本書も、ただの萌え本ではありません。
(ちなみに、私は萌え絵に関しては全くの素人ですので、あしからず。)

本書には2種もヨコエビが載っています
タルマワシも含め、端脚目は3種も載っています。
これは快挙です。
こんなにヨコエビが載った一般書は見たことありません。
見たことがないだけかも・・・


さて、以下がそのページ。





全体的には、分類をベースに生態学的知見や人文的な話題を盛り込んでいる印象で、内容は充実しています。それこそマイナーな種にも平等に見開き2pが与えられているのは、とても良いです。
文中では深海以外のヨコエビに関しても簡潔に触れられていますね。

とにかく、これらのヨコエビはとてもでかいです。博物館でフクレソコエビの仲間(4,50mm)を見て驚愕したことはありますが、その比ではなく、世界には200~300mmレベルの巨大種もいるらしいです。
解剖する時はすごく楽にできるんだろうな・・・

本書で扱われているエウリセネス・グリルスとカイコウオオソコエビはともにフトヒゲソコエビ科Lysianassidaeに属し、形態は素人眼にはほとんど同じです。生態も似通っています。そんな調子で、他の分類群もぱっと見で似たようなものが並んでしまっているのは残念。種ごとの解説がしっかり書かれているだけに、通読した時に一部内容が重複していて勿体ないです。
種数を減らして個々の説明を掘り下げるような企画も面白いと思います。
それとも、女の子が80人勢ぞろいすることに意義があるってことなんでしょうか?




エウリセネス・グリルス(オオオキソコエビ)といえば、深海調査の論文にタダで読めるものが幾つかあったはず。Charmasson and Calmet(1987)などは調査機材の図などもあって、想像をかきたてられます。
分類以外の論文はあまり読んできませんでしたが、遊泳するヨコエビは深度分布などの切り口もあって興味深い題材ですね。

カイコウオオソコエビの論文でよく引用されるのはFrance(1993)でしょうか。これもネット上に転がっていたはず。
『深海3,000フィートの~』でも触れられていますが、本種には生息地ごとに形態的な違いが生じてきているようです。まともな分散様式をもたず、遺伝的交流が希薄なのが要因と考えられます。

ヨコエビは直達発生とよばれる発生様式をもち、プランクトン期がありません
例えばカニのように長距離を移動できない生物は、卵から孵った幼生がプランクトンとして海を漂い、分散していくのがセオリーなのです。ヨコエビは泳ぐといってもたかが知れてますから、どうやって分散しているのかよく分かっていません。France(1993)は、カイコウオオソコエビの遺伝的交流はあまり行われていないことを示唆しており、ヨコエビの分散が起こりにくいことを裏付けているともいえるわけです。
浅い海のヨコエビにもこうした研究を応用できないものかと思っています。


来月あたり、そろそろ調査に行きたいです。





紹介した書籍

北村雄一(著), 深海生物フューチャー・ラボ(編). 2011. 『萌え学イラストガイド 深海3,000フィートの生物(ヴィーナス)たち』 PHP研究所, 東京, 191pp. (ISBN978-4-569-79583-6)





追記

そういえば、個人のwebサイトでも深海生物を擬人化して紹介していたものがありました。その時もカイコウオオソコエビは萌えっ娘になっていたのですが、今回はまたタッチが違って面白いです。

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補遺(21 Jan. 2017)

・和名を修正
・長きにわたってフトヒゲソコエビ科Lysianassidaeは非常に形態が多様で種数の多い科であったが、整理を試みる動きが続いており、2000年前後から科の細分化が進んだ。そして、2013年には22科を含むフトヒゲソコエビ上科Lysianassoideaとして、新しいGammaridea亜目の中に位置づけられた(一覧表参照)。この分類体系では、カイコウオオソコエビはHirondelleidae科に、オオオキソコエビはEurytheneidae科に含められ、フトヒゲソコエビ上科にまとめられている。一方、この新しいフトヒゲソコエビ上科にはダイダラボッチAlicella giganteaを含むAlicellidae科が含まれていないなど、伝統的な見解とは大きな隔たりがある。
 
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文献

Charmasson, S.S. and D.P. Calmet. 1987. Distribution of scavenging Lysianassidae amphipods Eurythenes gryllus in the northeast Atlantic: comparison with studies held in the Pacific. Deep Sea Research Part A. Oceanographic Research Papers, Volume 34, Issue 9, pp.1509-1523.

France, S.C.. 1993. Geographic variation among three isolated population of the hadal amphipod Hirondellea gigas (Crustacea: Amphipoda: Lysianassoidea). Marine Ecology Progress Series, Vol. 92, pp.277-287.

2012年3月16日金曜日

ヨコエビってこんな感じ

3月も半ばというのに、雛を出し入れするでもなく、誰かにディナーをプレゼントするでもなく、年度末の何かに追われるでもなく、マイペースに過ごしております。

さて、ヨコエビ とは何か、webで検索すると豊かな情報が手に入るかとは思いますが、以下はあえて独断と偏見で述べていきます。

卒論を書くときに初めてヨコエビとタイマンを張ったわけですが、それまでは「面倒くさい奴」と思っていました。

ヨコエビといえば、海の至るところにいて、多分何かの餌にはなってるんだろうな、とは思えるけれど、害がある訳でも薬になる訳でもなく、皆同じような姿をしていて種類が分からない。調査をしていて、もし出てしまったら、とりあえず「ヨコエビ類」にしとけばいい。

そんな風に思っていました。

実際に調べてみてその考えが変わったかというと、実はあまり変わってません。ほぼ、最初に思ったまんまの生き物だと思います。
その代わり、姿かたちが様々、資料が少ない、研究すると呪われる、未記載種が多い、など、 色々な印象が増えていきました。

 別にヨコエビのことを知らなくても(知らない方が?)幸せに生きていくことはできるのですが、掘り下げてみると何となく面白い世界がある。自分なりの考えが出てくる。地味さの中に光るものを、ヨコエビは教えてくれる。少なくとも私は、そう思っています。



「いつか名前を調べよう」と思って、大学2年のころに撮影したヨコエビ。時空を超えて宿題は果たされ、現在ではこの写真を見るだけで「ドロクダムシ上科ヒゲナガヨコエビ科モズミヨコエビAmpithoe validaの成熟メスと推測」などと早口言葉を唱えながらキメ顔を作れるまでになりました。



 資料がまとまったら、もう少しまともな解説を試みたいと思います。





2012年2月23日木曜日

(初投稿)越えてはいけない一線を越えた

とうとうやってしまいました。
「ヨコエビがえし」の始動です。

大学の卒業論文で「ヨコエビ」にとりつかれてから、そろそろ2年になります。
社会人2年目を迎えるにあたり、仕事上はもちろんのこと、趣味でも何か進展がほしい。そんな理由から、ブログの開設を思い立ちました。
進展なのか、迷走なのか、運命は天に委ねます。

縛られないと燃えないドM体質なので、自分にルールを課します。

・「ヨコエビ」に関する話題(採集記録,文献紹介など)を、徒然なるままに書き綴る
・月1~2回ペースでの更新を目指す
・間違いが含まれるなど不完全な記述を行った場合、強い要請などがない限りは補足訂正という形で対応し、基本的に内容の書き換えは行わない
・読者がいなくても泣かない
・ネタがないときは、紙綴器の話をしてもよい


「『ヨコエビ』って何なのさ」という話は、また別日に。


 【上】 フサゲモクズPtilohyale barbicornis  
千葉県市川市にて撮影。体長は大きいもので13mmほど。岩の裏側にたくさんいた。