ベントス学会・プランクトン学会合同大会に参加しました。とっておきのネタが無かったわけでもないのですが、色々あって今回も聴講生です。すいません。
平日から函館というハードめのスケジュールですが、仕事をかなぐり捨ててやってきました。
ちょっと天気が悪いですね。
函館は、私と関係が浅くない某ヨコエビのタイプ産地でもあるため、どうしてもついでの採集を試みたいところ。
<朝採れヨコエビ>
初日シンポジウムは午後スタートのため、朝イチで海辺を散策します。あいにくの雨です。
砂浜には漁師さんがいます。漁師さんの仕事場にお邪魔させて頂くという意識は絶対に忘れてはいけないと思います。
割と簡単に獲れる。
ナミノリソコエビ Haustorioides japonicus |
日本から初めて記載されたナミノリソコエビ科です (Kamihira 1977) 。
夏季個体群なので小ぶりですね。それでも同時期のウスゲナミノリよりだいぶデカい印象です。
あとは謎のハマトビムシ。ちょっとまだ細部を見れてませんが、成熟オスは採れてないっぽいので結局分からんかもです。
<聖地巡礼>
夜の干潮を狙い、真の聖地に向かいます。
波当たりが強い。
湾の外にあたるためか、朝のポイントより遙かに激しいことになっています。
いつものように胴長で腰高まで浸かると間違いなく波に飲まれてヨコエビの餌ですので、今日は脛の二割を超えないよう動きます。
砂浜には照明を設置(誑かす砂上の月光ハマトビキャッチャー)。LEDでも集まることは和歌山で確認済み。北海道の「ヒメハマトビムシ」は恐らく全て未記載なので、この機会に姿を拝みたいところ。
しかし、この暗がりでも分かる、ヒゲナガハマトビの気配。灯りを付けると20ミリ級の巨躯が次々現れます。カッコいいヨコエビではありますが、呼んでない…
ヒゲナガハマトビムシ属の何か Trinorchestia sp. |
ヒゲナガハマトビの種分類は混沌としており、既存の同定形質の設定に無理があるため、タイプシリーズを見るしか解決手段はありません。1種にまとまるのか、はたまたとんでもない種多様性が内包されているのか。ペンディング案件のため3、4個体だけ持ち帰らせてもらいます。
波打ち際ではなんとかナミノリソコエビを少数確保。粒径はかなりムラがあり、生息適地の微環境を探るのにコツがいりそうです。暗いと猶更。
<全日本端脚類交流会道南分科会>
学会大会後の恒例のやつです。
北大における潮間帯のフィールドといえば厚岸のイメージが強いですが、西側にもサイトがあり、こういったホームページで紹介されています。
端脚類交流会で時々「カットシ」という言葉が出てきて、北海道にもケット・シー(アイルランド伝承の猫の妖精)がいるのかと思ったのですが、これは「葛登支(かっとし)」という地名で、今まで呑んでた学生さんたちは実は例のホームページを管理しているメンバーだったのでした。
さて、特に頼まれてはいませんが、所感を述べたいと思います。
- スンナリヨコエビ科の1種 Maeridae sp.:良好な写真のため属までの同定に支障はないと思います。Ariyama (2018, 2019a, 2019b, 2020) Ariyama et al. (2020)あたりをおさえると、すんなりいくかと思います。
- フトヒゲソコエビ科の1種? Lysianassidae cf. sp.:Dactylopleustinae亜科にみえます。
- チョビヒゲモクズ Hyale pumila Hiwatari & Kajihara, 1981:評判の芳しい論文ではありませんがさすがに20年も経つので、Bousfield and Hendrycks (2002) を参照したほうがいい気がします。この体系については本ブログでも取りあげました。
- ニッポンモバヨコエビ Ampithoe lacertosa Bate, 1858:概ね正しいと思いますが、ヨツデヒゲナガも採れる可能性があるので、近似種の整理は性別や成長度合いに左右されない複数形質をピックアップして、密に検証した方がよさそうです。
- フサゲヒゲナガ?Ampithoe cf. zachsi Gurjanova, 1938:触角に毛が多いヒゲナガヨコエビ属には、フサゲヒゲナガのほかコウライヒケナガや Ampithoe shimizuensis なども候補になります。フサゲヒゲナガの原記載は咬脚がまだ変身を残しているように見えて仕方がないので、これも多角的な検討が必要です。
- ヒゲナガヨコエビ科の1種 Ampithoidae sp.:わたしもこの類は不案内ですが、オオアシソコエビ属 Pareurystheus のようです。
なお、近年のヒゲナガヨコエビ科を理解する上では Peat (2007) や Peat and Ahyong (2016) などが重要です(注:最新の処遇ではありませんが大枠として)。
あと、サンプルももらいました。
ヒゲナガヨコエビを頂きました。 こんなんなんぼあってもええですからね。 (メスのため同定困難、モズミっぽいが本州と模様が異なる) |
かなり端脚の発表が多く、また多くの若手に会うことができました。ベントスそしてヨコエビの未来は明るい。
プランクトンの発表も聴く機会があり、大変美味しい学会でした。皆様お疲れ様でした。
〈参考文献〉
— Bousfield, E. L.; Hendrycks, E. A. 2002. The talitroidean amphipod Family Hyalidae revised, with emphasis on the North Pacific Fauna: Systematics and distributional ecology. Amphipacifica, 3(3): 7–134.
— Kamihira Y. 1977. A new species of sand-burrowing marine amphipods from Hokkaido, Japan. Bulletin of the Faculty of Fisheries, Hokkaido University, 28(1): 1–5. pls.I–V.
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