2023年9月9日土曜日

山形遠征(9月度活動報告その2)

 

 毎週のように学会ですが、今回は未知の領域へと足を踏み入れました。


<公益社団法人日本動物学会第94回山形大会>

 端的にというか、端脚的に言うと、アウェイです。山形にあまり行ったことがないというのもありますが、何といっても日本動物学会は個人的に非常に縁の薄い団体なわけです。

 入会したことも大会に出たこともなし。たまにヨコエビが載るズーサイや動物學雜誌を読んだことある程度。そんなわけで今まで参加してなかったのですが、目を離した隙に昨年セトウチドロノミが発表されてしまったので、マークする必要性を感じました。


さすが公社と山形駅到着早々白目を剥いてしまった


 今年はというと…とりあえずヨコエビの口頭発表がない。高校生含めてポスター発表もない。

 その中でワレカラは口頭のトップ。ありがたや。

 ワレカラに関しては組織切片を切り出して生殖腺の位置をヨコエビと比較するといった、しっかり「動物学」をしている研究でした。八景島の調査地は確かにムシャカマキリを採ったことがあり、同じのが採れたのを懐かしく思い出しました。


 そして確実にヨコエビを摂取できる勝算があったのは、何と言ってもシンポジウムです。



<小さきものたちの世界:ゴカイとヨコエビのおもしろ最新トピックス>

 何かと並べられがちなゴカイとヨコエビは、系統がまあまあ離れてるのはもちろん、分類階級も全く異なります。しかしながら、海洋沿岸域でしばしば優占するベントスであることや、微細ゆえに扱いが難しく研究者の少ないマイナー分類群であることなど、共通点があります。

 今回、ヨコエビに関しては別のミーティングや論文で知っていたことがほとんどでしたが、どちらかというと実際に演者にお目にかかって直接話を聞けるというのが嬉しい企画でした。そしてゴカイについては、やはりここまで細かな話を聞く機会がなく、シンポジウムの狙い通り新たな情報として楽しませてもらいました。

 世界の既知種数が約1万とだいたい同じ規模にも関わらず、ゴカイの国内既知種数はヨコエビの3倍という開きがあり、また海洋において分子系統解析のデータの蓄積状況などを考えると、学術的な進捗にはゴカイ勢に分があると思っています。



<ベントス連合フクロエビ支部第n回交歓会>

 シンポジウムの後、都合五時間呑んでましたね。

 またもや内容は濃すぎるためここには書けませんが、やはりゴカイのほうが若手研究者の相は厚い気がします。



<グッズ>

 こちら戦利品です。どちらかというと自分の物欲と戦った感じでしょうか。




 チリモンの端脚代表はツノウミノミということらしいです。確かに画像はよく見ます。

 ハマトビムシの布を使ったボタン。包み屋さん(ショップ名)によると、布は北米のものらしいです。咬脚に発達がみられないのは気になりつつ、よく見る古い文献の Talitrus saltator のシルエットと頭部や触角のプロポーションが違うので、北米といえば Megalorchestia あたりかと思いましたが、調べてみるとどうやら Heck (1851) の Talitrus の図版が元ネタのようです。この属は現在3種が知られ、いずれも地中海や北海に自然分布するため、現代の知見に照らして実際の北米の端脚相を示すものとは見ないほうがよいでしょう。当時は北米のハマトビムシもこの属に同定されていたか、安易にあてはめられたものかもしれません。



 今回、動物学というものの深さと広さを思い知った一方、さすがに全体を総括して700人とか800人とかの研究者を横断的に結ぶ研究というものはそうそうあるものではなく、自分が扱うものを大切にその文脈上にあるものを漏らさず受信することの大切さも感じました。それにしても、哺乳類から昆虫,両生爬虫類,我らが水棲無脊椎などに対して、生理・生態・細胞・遺伝子・形態・内分泌・分類など、本当に多岐にわたるアプローチがなされていることを目の当たりにして、動物学的視座みたいなものを意識せざるを得ませんでした。いつか発表をしてみたいです。



<参考文献>

Heck, J. G. 1851. Iconographic encyclopedia of science, literature, and art. volume II, Botany, zoology, anthropology, and surgery. Rudolph Garrigue publisher.


<補遺>

2023.9.16 改題

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