2020年3月12日木曜日

2020年のヨコエビギナーへ(文献紹介第六弾)



 毎年恒例の文献紹介.今年で第六弾になります.




(第一弾)
— 富川・森野 (2009) ヨコエビ類の描画方法
— 小川 (2011) 東京湾のヨコエビガイドブック
— 石丸 (1985) ヨコエビ類の研究方法
— Chapman (2007) "Chapman Chapter" In: Carlton Light and Smith Manual (West coast of USA)
— 平山 (1995) In: 西村 海岸動物図鑑
— Barnard & Karaman (1991) World Families and Genera of Marine gammaridean Amphipoda


(第二弾)
— Lowry & Myers (2013) Phylogeny and Classification of the Senticaudata
— World Amphipod Database / Amphipod Newsletter
— 富川・森野 (2012) 日本産淡水ヨコエビ類の分類と見分け方
— Arimoto (1976) Taxonomic studies of Caprellids
— Takeuchi (1999) Checklist and bibliography of the Caprellidea
— 森野 (2015) In: 青木 日本産土壌動物
【コラム】文献情報のルール


(第三弾)
— 有山 (2016) ヨコエビとはどんな動物か
— 森野・向井 (2016) 日本のハマトビムシ類
— Tomikawa (2017) Freshwater and Terrestrial amphipod In: Species Diversity of Animals in Japan
— Bousfield (1973) Shallow-Water Gammaridean Amphipoda of New England
— Ishimaru (1994) Catalogue of gammaridean and ingolfiellidean amphipod
— 椎野 (1964) 動物系統分類学
【コラム】ヨコエビの分類にはどこから手を付けるか


(第四弾)
— Lowry & Myers (2017) Phylogeny and Classification
— Bellan-Santini (2015) Anatomy, Taxonomy, Biology
— Hirayama (1983–1988) West Kyushu
— 井上 (2012) 茨城県のヨコエビ
— 永田 (1975) 端脚類の分類
— 菊池 (1986) 分類検索, 生態, 生活史
【コラム】文献の入手


(第五弾)
— Arfianti et al. (2018) Progress in the discovery
— Ortiz & Jimeno (2001) Península Ibérica
— Miyamoto & Morino (1999) Talorchestia and Sinorchestia from Taiwan
— Miyamoto & Morino (2004) Platorchestia from Taiwan
— Morino & Miyamoto (2015) Paciforchestia and Pyatakovestia
— 笹子 (2011) 日本産ハマトビムシ科
【コラム】野良研究者




<おすすめ>


— Lecroy, S. E. 2000–2011. An illustrated identification guide to the nearshore marine and estuarine gammaridean Amphipoda of Florida. Volume 1–5. Florida Department of Environmental Protection, Tallahassee, Annual Report (Contract No. WM724, WM880, WM949), 816pp.

 フロリダのヨコエビガイドブック的な感じです.種はほぼ共通していませんが,イラストを豊富に使用したわかりやすいキーがついていて,科や属までの落とし込みに適しています.一括アップロードされてはいませんが,各種サービスを利用して集めることができます.科以上のステータスは現在と異なる場合があります.

Volume 1.
(Lecroy 2000)
ヨコエビ科(Gammaridae)
ハッジヨコエビ科(Hadziidae)
イシクヨコエビ科(Isaeidae)
メリタヨコエビ科(Melitidae)
クチバシソコエビ科(Oedicerotidae)

Volume 2.
(Lecroy 2002)
スガメソコエビ科(Ampeliscidae)
チビヨコエビ科(Amphilochidae)
ヒゲナガヨコエビ科(Ampithoidae)
ユンボソコエビ科(Aoridae)
ヒヨリミヨコエビ科(Argissidae)
ツノヒゲソコエビ科(Haustoriidae)

Volume 3.
(Lecroy 2004)
Bateidae科
ガラモノネクイムシ科(Biancolinidae)⇒ ヒゲナガヨコエビ科
キクイモドキ科(Cherluridae)
ツツヨコエビ科(Colomastigidae)
ドロクダムシ科(Corophiidae)
ホテイヨコエビ科(Cyproideidae)
エンマヨコエビ科 (Dexaminidae)

Volume 4.
(Lecroy 2007)
クチナシヨコエビ科(Anamixidae)
テンロウヨコエビ科(Eusiridae)
ヒアレラ科(Hyalellidae)
モクズヨコエビ科(Hyalidae)
カッチュウヨコエビ科(Iphimediidae)
カマキリヨコエビ科(Ischyroceidae)
フトヒゲソコエビ科(Lysianassidae)
ウチワヨコエビ科(Megaluropidae)
サカサヨコエビ科(Melphidippidae)

Volume 5.
(Lecroy 2011)
マルハサミヨコエビ科(Leucothoidae)
トゲヨコエビ科(Liljeborgiidae)
Neomegamphopidae科
Ochlesidae科 ⇒ スベヨコエビ科
ミノガサヨコエビ科(Phliantidae)
ヒサシソコエビ科(Phoxocephalidae)
Platyischnopidae科
テングヨコエビ科(Pleustidae)
ドロノミ科(Podoceridae)
フタマタソコエビ科(Pontoporeiidae)
セバヨコエビ科(Sebidae)
タテソコエビ科(Stenothoidae)
フクスケヨコエビ科(Synopiidae)
ハマトビムシ科(Talitridae)

(Full Citations)
 — Lecroy, S. E. 2000. An illustrated identification guide to the nearshore marine and estuarine gammaridean Amphipoda of Florida. Volume 1. Families Gammaridae, Hadziidae, Isaeidae, Melitidae and Oedicerotidae. Florida Department of Environmental Protection, Tallahassee, Annual Report, Contract No. WM724, 195pp.
 — Lecroy, S. E. 2002. An illustrated identification guide to the nearshore marine and estuarine gammaridean Amphipoda of Florida. Volume 2 Families Ampeliscidae, Amphilochidae, Ampithoidae, Aoridae, Argissidae and Haustoriidae. Florida Department of Environmental Protection, Tallahassee, Annual Report, Contract No. WM724, iv, pp.196–410.
 — Lecroy, S. E. 2004. An illustrated identification guide to the nearshore marine and estuarine gammaridean Amphipoda of Florida. Volume 3 Families Bateidae, Biancolinidae, Cheluridae, Colomastigidae, Corophiidae, Cyproideidae and Dexaminidae. Florida Department of Environmental Protection, Tallahassee, Annual Report, Contract No. WM724, iiii, pp.411–501.
 — Lecroy, S. E. 2007. An illustrated identification guide to the nearshore marine and estuarine gammaridean Amphipoda of Florida. Volume 4 Families Anamixidae, Eusiridae, Hyalellidae, Hyalidae, Iphimediidae, Ischyroceridae, Lysianassidae, Megaluropidae and Melphidippidae. Florida Department of Environmental Protection, Tallahassee, Annual Report, Contract No. WM880, iiii, pp.503–614.
  — Lecroy, S. E. 2011. An illustrated identification guide to the nearshore marine and estuarine gammaridean Amphipoda of Florida. Volume 5 Families Leucothoidae, Liljeborgiidae, Neomegamphopidae, Ochlesidae, Phliantidae, Phoxocephalidae, Platyischnopidae, Pleustidae, Podoceridae, Pontoporeiidae, Sebidae, Stenothoidae, Synopiidae and Talitridae. Florida Department of Environmental Protection, Tallahassee, Annual Report, Contract No. WM949, iiv, pp.615–816.





Cadien, D. B. 2015. Review of the gammaridean amphipods of the Northeast Pacific. I–XXIX.

 太平洋北東部のヨコエビ(インゴルフィエラ,ワレカラ含む)のレビューが,ひっそり無料公開されています.ドラフト版とのことですが,なかなか他に求めることが難しい情報量と扱いやすさで,これはぜひオススメしたい資料です.これもLowry and Myers (2017) が出版される前なので科より上の分類は今と少し違うことも踏まえ,使用場面によっては裏を取って下さい.ちなみに正規版がいつどこで世に出た(or 出る)のかは私にはわかりません・・・

I. Suborder Ingolfiellidea(インゴルフィエラ亜目→インゴルフィエラ目)
II. Superfamily Talitroidea(ハマトビムシ上科→ハマトビムシ小目)
III. Superfamily Aoroidea(ユンボソコエビ上科)
IV. Superfamily Cheluroidea(キクイモドキ上科)
V. Superfamily Chevalioidea
VI. Superfamily Corophioidea(ドロクダムシ上科)
VII. Superfamily Caprelloidea(ワレカラ上科)
VIII. Superfamily Neomegamphopoidea
IX. Superfamily Photoidea(クダオソコエビ上科)
X. Superfamily Hadzioidea(ハッジヨコエビ上科)
XI. Superfamily Calliopioidea(ウラシマヨコエビ上科)
XII. Superfamily Bogidieloidea(スキマヨコエビ上科)
XIII. Superfamily Crangonyctoidea(マミズヨコエビ上科)
XIV. Superfamily Gammaroidea(ヨコエビ上科)
XV. Superfamily Lysianassoidea(フトヒゲソコエビ上科)
XVI. Superfamily Stegocephaloidea(フクレソコエビ上科)
XVII. Superfamily Synopioidea(フクスケヨコエビ上科)
XVIII. Superfamily Pardaliscoidea
XIX. Superfamily Liljeborgioidea(トゲヨコエビ上科)
XX. Superfamily Phoxocephaloidea(ヒサシソコエビ上科)
XXI. Superfamily Pontoporioidea(フタマタソコエビ上科)
XXII. Superfamily Eusiroidea(テンロウ上科)
XXIII. Superfamily Oedicerotoidea(クチバシソコエビ上科)
XXIV. Superfamily Leucothoidea(マルハサミソコエビ上科)
XXV. Superfamily Stenothoidea(タテソコエビ上科)
XXVI. Superfamily Iphimedioidea(カッチュウヨコエビ上科)
XXVII. Superfamily Dexaminoidea(エンマヨコエビ上科)
XXVIII. Superfamily Ampeliscoidea(スガメソコエビ上科)
XXIX. Superfamily Melphidippoidea(サカサヨコエビ上科)





Copilaş-Ciocianua, D.; Borko, Š.; Fišer, C. 2019. The late blooming amphipods: Global change promoted post-Jurassic ecological radiation despite Palaeozoic origin. Molecular Phylogenetics and Evolution, 143:106664.

 混迷を深めていたヨコエビの大分類議論に,分子系統解析のメスが入りました.ジュラ紀以降の拡散・分化過程を追っている大論文で,従来基本的に形態形質のみで議論されてきた分類体系の大枠を変えうる研究です.ハッジヨコエビ類 hadzids が多系統気味だったり,テングヨコエビ科 Pleustidae がテンロウヨコエビ科 Eusiridae とアゴナガヨコエビ科 Pontogeneiidae のクレードに混ざったり,トゲヨコエビ科 Liljeborgidae がハッジヨコエビクレード hadzids に入ったり,フタハナヨコエビ類 atylids がかなり手前で分化したことが分かったり,フトヒゲ類 lysiakassids とヨコエビ類 gammarids の間にごちゃごちゃしたグループができたり,なかなか興味深い結果となっています.また,水温や生活様式など様々な角度から祖先系の推定を行っています.遺伝子領域は4つ(MtDNA COI,16S,28S,Histon H3),系統樹の信頼度は2つの解析方法を用いて検証していますが,なにぶんこれに匹敵する仕事はほとんど例がなく,証明も反証も難しいのが現状であり,今後の研究によって覆る部分もあるかと思います.コンセンサスが得られているとは言い難い状況ではありますが,ヨコエビのβ分類を理解する上で,押さえておくべき論文かと思います.





<愛好家向け>

— Spance Bate, C.; Westwood, J. O. 1863. A history of the British sessile-eyed Crustacea 1. John van Voorst, London, iii-lvi, 1–507.

 何しろ19世紀の書物なので,分類や生態の資料としてはあまり精度の良いものではありませんが,素朴な文体やところどころに挿入された風景画など,時代を感じさせる雰囲気が堪りません.今では当たり前となっている分類群の名前の由来などに触れることもできます.肩の力を抜いてお読みください.





<ワレカラ類 caprelid の分類にオススメ>

青木優和 (著)・畑中富美子 (イラスト) 2019. われから: かいそうの もりにすむ ちいさな いきもの.  仮説社, 東京. 39pp. ISBN-10: 4773502967

 私が卒研をやっていた頃に自費出版された幻の絵本「われから かいそうにすむちいさないきもの」が,パワーアップして帰ってきました.
 ワレカラの生き様を知ることができる本編ももちろん魅力的なのですが,体制の説明や採集方法,そして何より本邦産21種のオスを同定できるわかりやすい検索表が付録になっていますので,分類学徒にとっても買いではないでしょうか.
 また,本書をより楽しむために以下の記事もお勧めします.

— 株式会社仮説社たのしい授業編集部 2019. おもしろ!ザ・ワレカラ・ワールド!① ~夏の取材レポート~.たのしい授業, 489: 115–121.
— 青木優和 2019. おもしろ!ザ・ワレカラ・ワールド!② ~『われから』製作裏話~.たのしい授業, 489: 122–127.






<ドロクダムシ科 Corophiidae の分類にオススメ>

Bousfield, E. L.; Hoover, P. W. 1997. The amphipod superfamily Corophioidea on the Pacific coast of North America: 5. Family Corophiidae: Corophiinae, new subfamily: systematics and distributional ecology. Amphipacifica, 2: 67–139.

 幻のAmphipacifica,かつては入手困難なマイナー雑誌でしたが,BHL (Biological Helitage Libraly) の活躍によりお茶の間でも楽しむことができるようになりました.
 ドロクダムシ科の亜科や属を整備し,現在の分類体系の基盤を造りました.ドロクダムシ科を総括した仕事は他にほとんどなく,このグループを分類する上では欠かせない論文です.しかし,属の定義や扱われている範囲に難があり,落ちない場合があります.もともとドロクダムシは形質の変異が大きく,また倍数体を生じる (Chapman 2007) などトリッキーな側面も有しています.







<コラム ヨコエビの同定法>


 今回は「ヨコエビをいかに形態で種同定するか」という話です(※同定に使う形質はグループごとに多様です.あくまで研究の進め方を扱うことにします).ヨコエビの同定は往々にして困難ですが,この方法でやれば見たことのないヨコエビでも種まで迫ることができます.


0.標本の状態を確認する



 標本の採集場所や,性別欠損部位などを予め確認しておきます.
 例えば,海産淡水産陸産によって,最初に使う文献が決まります(汽水は基本的に海産に含めます).また,標本が触角の取れたメスしかないのに,後の検索表で「オスの咬脚」「触角の棘状剛毛」などが出てきたら後は何もできません.その時はすぐに諦めて別のサンプルの検討に移った方がよいです.欠損していたサンプルも無駄とは限りませんのでとっておきます.他のサンプルと組み合わせれば遺伝構造解析くらいには使えるので・・・たぶん・・・


1.グループを絞り込む


 科や属まで絞り込みをかけます.種に至るにはまず大枠のグループを特定する必要があります.
 グループによっては解剖前の情報(付属肢の位置関係等)が必要だったりするので,まずは解剖せず,可能な限り外形を観察して検索表を流します.ただ,科や属の同定にあたって解剖が必要になる場合もあります.そういった場合,細心の注意をもって身体の片面のみ解剖するようにします.
 以下のような文献があります.

・海産全般の科,属の分類
 Barnard and Karaman (1991)
 
・浅海域の科,属の分類
 Chapman (2017)


・日本産浅海域の種分類
 平山 (1995)

・日本産陸水ヨコエビのリスト
 Tomikawa in Motokawa and Kajihara (2017)

・日本産淡水域の種分類
 富川・森野 (2012)
※2017年以降に記載された種は以下の文献を参照
 Tomikawa et al. (2017)
 Tomikawa and Nakano (2018)
 Tomikawa et al. (2018)

・日本産陸域の種分類
 森野・向井 (2016)
※ハマトビムシ科の分類に役立つ文献リストは文献紹介第五弾に掲載しています


 

2.マウントする


 正確な同定にあたって必要な形質は,往々にして口器や腹肢など簡単に見えない場所だったりするので,プレパラートに封入します.
 また,体長1~2mm程度のヨコエビであれば,全身を封入した状態である程度必要な形質情報を取得できます.同定に際して,プレパラートを見ながら検索表を流してもよいですが,煩雑ですし,先にスケッチを作っておくのも良い方法かもしれません.




3.種リストを作成する


 グループが絞り込めたら,いったん顕微鏡をしまって,該当する属あるいは科に含まれる全種のリストを作成します.明らかに違う種は除外してもよいですが,分布情報で足切りしないのがポイントです.一見すると無駄な作業のように思えますが,現状として(特に海産は),本邦既知種のリストに当てはめて同定できるほどヨコエビの分類は甘くありません.本邦未記録種や未記載種はゴロゴロしてます.また,古い記録は同定そのものが間違っている可能性もあり,安直に採用すると逆にドツボに嵌る可能性もあります.
 種リストの情報はWoRMSから得ます.なお,WoRMSから漏れている種もないわけではありませんが,ヨコエビ類における漏れや誤植の確率は0.1~0.5%程度だと思います.どうせ気付く人なんて世界に数人なので,Web引用の要件さえ満たしていれば,ルーキーの仕事としては及第点かと思います(むしろ,昨今の研究シーンでは,原著論文をあげつらうよりWoRMSの最新情報がコンセンサスとみなされて信頼される雰囲気もありますので)



4.文献リストを作成する


 該当種のリストができたら,それぞれの種をカバーする文献を探します.一つ一つの種の記載者・記載年を元に原記載論文を集めれば完璧ですが,無駄が多いです.おすすめなのは最も若い種から順に文献を読み,載っている検索表で同定できる種から消していき,残ったものだけ原記載にあたる方法です.こうすれば,最新の知見を得ながらグループ全体を把握することができます.

 論文を漁っても検索表にありつけない場合もあります.しかし,最新の論文には,検索表などがなくとも過去の主要な文献は引用されています.その参考文献から,過去の記載やレビューの文献情報を得ることができます.
 1984年より前の文献であれば,Barnard and Karaman (1991) の巻末の参考文献から拾えば,ほぼヌケモレは有り得ません.新しい論文は WoRMS からリンクが貼られていたりしますが,電子版が一般化する前に出版され且つ BHL に拾われる前の端境期にあたる論文群(だいたい1940年代~1990年代?)は,手が届きにくい印象があります.また,中には原記載の文献情報が WoRMS に示されておらず,正体がつかめないものすらあります.こういった文献がどうしても必要なら,研究者の伝手を頼るほかありません.




5.同定する


 4でまとめた文献を使って同定をしていきます.
 過去の文献には英語でない検索表や使えない形質が載っているなど不親切なものもたくさんありますが,そこは何とか乗り越えて下さい(GoogleでOCRをかけてから検索サイトにブチ込む,など).ただ,不幸中の幸いというか,検索表や記載文はどの言語でもだいたいテレグラフ調で書かれているため,「部位名」「形質の特徴を表す語」「形容詞」「肯定/否定語」などを押さえておけば,文学作品などとは比べ物にならない速度で的確に情報を得ることができます.


<おまけ:ヨコエビの分類に関わりのあるロシア語>

  • Бокоплавов ヨコエビ
  • Антенна 触角
  • Членик 節
  • Стебельков 柄部
  • Жгутика 鞭部
  • Волоска 毛
  • Щетиннк 剛毛束
  • Рострум 頭頂 
  • Лабрум 上唇
  • Мандибл 大顎 
  • Максилла 小顎 
  • Лабиум 下唇
  • Максилипед 顎脚
  • Тело 身体
  • Гнатопод 咬脚 
  • Переопод 胸脚
  • Эпимерольно 腹節板
  • Плеопод 腹肢 
  • Уросома 尾節
  • Уропод 尾肢 
  • Тельсон 尾節板 


 調査地域ごとに検索表がまとめられていて全体が見えないことがあります.また,種の記載が継続的に行われているにも関わらず,何十年も検索表がまとめられていないこともあります.そういった場合は,幾つかの検索表を合体させたり,継ぎ足したりする必要もあります.
 そして,そもそも誰からも検索表が提供されていない分類群では,自分で作らなければなりません.かなり険しい道のりとなりますが,ないものは仕方ないです.





(参考文献)※過去の文献紹介で採り上げたものを含む
— Barnard, J. L.; Karaman, G. S. 1991. The families and genera of marine gammaridean Amphipoda (except marine gammaroids), Records of Australian Museum supplment 13, part 1,2, 866p.
— Chapman, J. W. 2007. Gammaridea. in: Carlton, J. T. (ed.) The Light and Smith manual intertidal invertebrates from Central California to Oregon. Fourth Edition, University of California Press, Berkeley, California. pp. 545–618.
— 平山明 1995. 端脚類. in: 西村三郎 (編)『原色検索日本海岸動物図鑑[II]』 保育社, 東京. pp. 172–193.
— Lowry, J. K.; Myers, A. A. 2017. A phylogeny and classification of the Amphipoda with the establishment of the new order Ingolfiellida (Crustacea: Peracarida). Zootaxa, 4265(1): 1–89.
— 森野浩 2015. ヨコエビ目. in: 青木淳一 (編) 『日本産土壌動物 第二版 —分類のための図解検索』 東海大学出版会, 東京. pp. 1069–1089. ISBN978-4-486-01945-9
— 森野浩・向井宏 2016. 砂浜フィールド図鑑(1) 日本のハマトビムシ類. 海の生き物を守る会, 京都市.
— Tomikawa, K. 2017. Chapter 9 Species diversity and phylogeny of freshwater and terrestrial gammaridean amphipods (Crustacea) in Japan. in: Motokawa, M., H. Kajihara (eds.) Species Diversity of Animals in Japan, Diversity and Commonality in Animals. Springer Japan, Tokyo.
— Tomikawa, K.; Nakano, T.; Hanzawa, N. 2017. Two new species of Jesogammarus from Japan (Crustacea, Amphipoda, Anisogammaridae), with comments on the validity of the subgenera Jesogammarus and Annanogammarus. Zoosystematics and Evolution, 93(2): 189–210.
— Tomikawa, K.; Hirashima, K.; Hirai, A.; Uchiyama, R. 2018. A new species of Melita from Japan (Crustacea, Amphipoda, Melitidae). ZooKeys, 760: 73–88.
— Tomikawa, K.; Nakano, T. 2018.  Two new subterranean species of Pseudocrangonyx Akatsuka & Komai, 1922 (Amphipoda: Crangonyctoidea: Pseudocrangonyctidae), with an insight into groundwater faunal relationships in western Japan. Journal of Crustacean Biology, ruy031.
— 富川光 ・ 森野浩 2012. 日本産淡水ヨコエビ類の分類と見分け方. タクサ, 32: 39–51.


2020年2月19日水曜日

太ひげ危機一発(2月度活動報告)


 前回から引き続き,フトヒゲソコエビ類の分類について特集しています.
 ちなみに件の記載論文は無事投稿致しました.現在審査中です.


 突然ですが,フトヒゲクイズです.

 次のうち,どちらが「フトヒゲソコエビ類」でしょうか???







 ちなみに,先月も述べましたが,フトヒゲソコエビ類というグループは分類学的には存在しません.「古き良きフトヒゲソコエビ科」に対応するイメージで用いています.
 かつての「フトヒゲソコエビ類」は,現在の Lysianassidra小目 のうち 3上科(Alicelloidea上科,Aristoidea上科,Lysianassoidea上科)にまたがるものと解釈できます.しかし,小目体系を整備した Lowry and Myers (2017) を読み進めていくと,これら3上科の判別文の辻褄が合わないことがわかります.特に,Aristoidea上科とLysianassoidea上科を分けるだけの材料は,今のところ示されていないと考えられます.

 とはいえ,いきなり32科全体を相手にすると精神が保ちません.今回は都合のいい局面だけ,大枠として上科を活用させてもらいます.



 さて,クイズの答えはわかりましたでしょうか.



 そうです.



 Aはフトヒゲカマキリヨコエビ,Bがフトヒゲソコエビ属です.
 「フトヒゲソコエビ類」 のイメージとして,このように丸っこい姿を思い浮かべる方は多いのではないでしょうか.




 さて,フトヒゲクイズ第二弾です.
 次のうち「フトヒゲソコエビ類」はどれでしょう?




 今のところ,「フトヒゲソコエビっぽい」状態から科や属まで落とせる文献は,Barnard and Karaman (1991) くらいと思われます.しかし,その後に設立された”フトヒゲソコエビ科”のグループが47属程度あり,逆に当時有効だったのに現在は使用されていない属もそれなりの数あったりして,いちいち変換して検索表を転がしていくのはかなり酷です.また,当然のことながら当時は体制が現在(下目・小目・上科)と異なります.”フトヒゲソコエビ科”をおおまかに5つに分ける方式が採用されていますが,これは現在の体系とはかなり矛盾するため,そのままでは使えません.さらに,伝統的な形式で書かれた検索表は玄人向けに書かれている部分があり,示された形質を理解するのに労力を求め,枝分かれした検索表を何度も右往左往することを前提とするなど,まさにカオスを極めています.



※ちなみにこちらのサイトでは,選択肢を選んでkeyを走らせればヨコエビを同定できるようですが,種数が少なすぎて厳しいです.



 そこで,ある程度フトヒゲ歴のある人だけでなく,ヨコエビを触ったことがある程度のベントス関係者が実際に使用して同定ができる資料としての検索表を作ってみることにしました.
 私は,二又式検索表にあまり良いイメージがありません.
 二又式は研究者が扱いやすい形質から,行き当たりばったりに作っていけば,形になります.しかし,裏を返せば,ある意味利用者本位ではないと思われます.検討しにくい形質が邪魔をして検索表の初期で躓いて挫折したり,標本に欠損部位があったため検索表が走らなかったり,結果に至るルートが一本に絞られるゆえの弊害を感じています.
 そんなわけで,今回もマトリクス様式で作成してみました.



 さて,クイズの答えはわかりましたでしょうか.


 そうです,


 答えは,CとDです.
 このように,フトヒゲソコエビ類は形態がまあまあ多様で,丸っこいのもいれば,細長いのもいます.

 フトヒゲソコエビ類は,都合よく一つの巨大な群として扱われてきた歴史がある一方,いくらなんでも一つの科にするのは無理があると考える人もいました.そういった流れで,1980年代から Lowry と Stoddart のコンビが科を設立しまくっており,この論文のシリーズは今日までで40本以上になっているようです.

 今月は,40年近くかけて細分化されてきた「科単位」での同定を試みます.




同定


 ここから先,「フトヒゲソコエビっぽい」状態からマトリクス検索表を使って科に落とす手段を検討します.

 以下に提供するマトリクス検索表は6個あり,Key 0,I,Ⅱ の3つの大枠を構成します.


Key 0 からスタートして,科(属)に落ち着くまでお付き合いください.


 フトヒゲソコエビ類は,幾つかの形質のパターンの組み合わせで識別されていて,検討すべき部位やバリエーションがわりと限られている反面,どの形質を重視するかによって大枠の分類体系からがらっと変わってしまう危うさがあります.今回は,伝統的な大枠の分類にこだわらず,「より見やすく・少ない要点」で識別することを目指し,使えるものは何でも使いました.
 中には珍しい特徴をもつグループというのがあり,Key 0 や「赤マス」は,先にそういう変わり者を除外することで同定の効率化を狙う仕組みです.





フトヒゲソコエビ類の検索入門(Key 0:異形のグループ)

  • Key 0 で採り上げた形質は他の科にみられないため,厳密に一致すれば,科が特定される.
  • Key 0 では10科を識別可能.これら以外のグループは Key Ⅰ 以降で扱う.
Key 0:このKeyに合致しない場合→ Key Ⅰ[1] へ進む.



フトヒゲソコエビ類の形態マトリクス検索表(Key I:科あるいは上科まで)

  • Key 0 のどれにも当てはまらなかった場合,Key Ⅰ [1] へ進む.
  • 最初に,【0】赤いマスの形質と合致するかを確認する.赤いマスの形質は他のグループとほぼ重複しないため,1項目でも当てはまれば,その科である可能性が高い.
  • 赤いマスに当てはまらない場合,他の形質を総合的に見て絞り込む. 
  • それぞれのタテ列ごとに,形質を1つずつ確認して,合致しないものを候補から除外する.タテに見て,選択肢の少ない形質 —例えば「⑦第3尾肢外葉」の列は選択肢が「【1】1節」「【2】2節」の2種類しかない— から先に潰していけば,検討すべき選択肢をなるべく少なくできる.
  • 右からでも左からでも確認しやすい形質から検討を開始してよいが,2つ以上のタテ列を同時に見ると検討すべき情報量が増えて絞り込みに時間がかかるため,必ず一つずつ見ること.
  • グレーのマスは,1つの科(上科)に2つ以上の形質が当てはまることを示す.絞り込みの過程で,グレーのマス内の形質が1つでも他の科と重複する場合,その形質ではグループを識別できないことを示すので,他の形質を優先して検討する.
  • Key Ⅰ [1] に宛てはまらない場合は,[2][3][4] の順に進む.
  • Key Ⅰ [1]~[4] のどれにも当てはまらなかった場合は,Key Ⅱ[1] へ進む. 
  • 「see also~」は,別の検索表の提案である.この表記がある分類群については,提案された検索表も確認することで,より多角的な検討が可能になる. 
Key I [1]:第1触角鞭部第1節の長さが,柄部第2+3節よりも長い.

Key I [2]:第1触角鞭部第1節の長さが,柄部第1+2+3節よりも長い.

Key Ⅰ[3][4]:第1触角柄部の幅あるいは長さが,鞭部を上回る.


 Key Ⅰ[1]~[4]のマトリクス検索表に用いた形質とそのバリエーションは,次の通りです.
①第1触角:[1]~[4]
②大顎:【1】~【5】
③第1咬脚:【0】~【2】,【4】
④第2咬脚:【0】,【2】~【4】
⑤底節板:【0】~【3】
⑥第3尾肢全体:【1】~【3】
⑦第3尾肢外葉 :【1】~【2】



第1触角の形質について

 Key Ⅰ[1]および[2]の形質(第1触角の鞭部第1節が長いこと)については,過去の分類においてほぼ使われてこなかった部分であり,検討の余地が多分にあります.特に,種によって性的二形の影響を受ける可能性があることは,予めお断りしておきます.本来は雌雄の差の変異幅を検証してから採用すべきですが,片方の性別のみで記載された種が相当な数に上っていることに加えて,雌雄における発達あるいは縮退傾向を見いだすことができず,検証には至りませんでした.性的二形により選択肢がブレることが明白なグループについては,迷子にならないよう後から救済できるようにしてあります.
 それでも難航する場合はあるかと思います.例えば,手持ちの標本にマトリクス検索表をあてはめた時,[1]か[2]の特徴に合致しているのにそこから先が進まない,あるいはどちらに含めてよいか分からない場合,[1][2]を両方検討することをおすすめします.また,第1触角鞭部第1節が,柄部の各節の長さを超えないまでも,他の鞭部の各節の長さより明瞭に長い場合は,Key Ⅰ [1] に合致したものと仮定して検討することをおすすめします.



Key Ⅰ②大顎のバリエーション.


Key Ⅰ③第1咬脚,④第2咬脚.


Key Ⅰ⑤底節板;⑥第3尾肢全体;⑦第3尾肢外葉.




フトヒゲソコエビ類の形態マトリクス検索表(Key Ⅱ:上科→科)

  • Key 0, Ⅰ [1]~[4] のどれにもあてはまらなかった場合は,Key Ⅱ[1] へ進む.
  • Key Ⅰ [1] にて Lysianassoidea上科 となった場合は,Key Ⅱ[1] の「Lysianassoidea」と表記のある行を検討する.
  • Key Ⅰ [1] にて Alicelloidea上科 となった場合,Key Ⅱ [2] へ進む.
  • 基本的な使い方は Key Ⅰと同様.

Key Ⅱ[1]:Lysianassoidea上科 と Aristoidea上科.
Acidostomatidae科において,②第1小顎外葉の剛毛配列に
「【3】modified 7/4 arrangement」という形質が示されているが (Stoddart and Lowry 2012) ,
剛毛の本数は9~12本と幅があり,必ずしも7本/4本の剛毛列とならない.


 Key Ⅱ[1]のマトリクス検索表に用いた形質とそのバリエーションは,次の通りです.

①大顎臼歯部:【1】,【3】,【5】※Key Ⅰと共通
②第1小顎外葉先端剛毛配列:【1】~【3】
③顎脚外葉:【1】~【2】
④顎脚外葉先端歯状剛毛:【1】~【2】
⑤第1咬脚:【1】~【2】※Key Ⅰと共通
⑥第2咬脚:【3】※Key Ⅰと共通
⑦第3尾肢外葉 :【1】~【2】※Key Ⅰと共通




Key Ⅱ[2]:Alicelloidea上科.


 Key Ⅱ[2]のマトリクス検索表に用いた形質とそのバリエーションは,次の通りです.

①第1小顎内葉剛毛配列:【1】~【3】
②第1尾節背面構造:【1】~【3】
③第3尾肢外葉 :【1】~【2】※Key Ⅰと共通





<免責> 
  • これらのマトリクスは,可能性のないものを除外し,短時間でグループを絞り込むことを目的としています.同定に際しては必ず文献をあたって,形質が一致することをご確認願います. 
  • 用語に関して,文献における表現との整合性を重視していますが, 過去の研究で解釈が異なるものや,段階的に変化する形質などについては,必ずしも参考文献の表記と合致しない場合があります.図をご確認ください.
  • 基本的には属および科のdiagnosisを元に作成しており,全種の形態は検討していませんので,漏れがある可能性もあります.
  • 当然のことながら,検索表の配列や使用している形質は,系統関係を反映するものではありません.





<引用文献> 
※今回の記事において直接言及のあった文献のみ.Keyの作成には前回のブログに示した参考文献を使用しました.

— Barnard, J. L.; Karaman, G. S. 1991. The families and genera of marine gammaridean Amphipoda (except marine gammaroids). Records of Australian Museum supplment 13, part 1,2, 866p.
Lowry, J. K.;Myers, A. A. 2017. A Phylogeny and Classification of the Amphipoda with the establishment of the new order Ingolfiellida (Crustacea: Peracarida). Zootaxa, 4265(1): 1–89.
Stoddart, H. E.; Lowry, J. K. 2012. Revision of the lysianassoid genera Acidostoma and Shackletonia (Crustacea: Amphipoda: Acidostomatidae fam. nov.). Zootaxa, 3307: 1–34.

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補遺 (15-VIII-2024)
・一部書式設定変更。

2020年1月31日金曜日

俺たち太ひげ海賊団(1月度活動報告)


 堅気のみならずヨコエビストにも敬遠されがちなグループの最たるものが,フトヒゲソコエビ類ではないでしょうか.


 ちなみに,フトヒゲソコエビ類というグループは分類学的には存在しませんが,Barnard and Karaman (1991) で言うところの「細かく分ける必要性は分かるけどとりあえずまとめておきたい広義のフトヒゲソコエビ科」に対応するイメージで用いています.この「古き良きフトヒゲソコエビ科」は紆余曲折を経て,現在では「Lysianassidira(フトヒゲソコエビ小目)」のうち 3上科 32科 194属 1103種 に該当します (Lowry and Myers 2017;WoRMS 2020年1月31日閲覧).


 フトヒゲソコエビ類は多くが腐食性や捕食性を示し,中には木質を分解するものもいます.ヨコエビ類の二つ名としてよく聞かれる「海の掃除屋」を地を行く存在であるとともに,腐肉食のグループについては「動物遺物処理のエキスパート」といえるでしょう.仕事熱心なあまり,かご網に仕掛けた餌を骨だけにしてしまうことから,深海のエビやカニを獲る漁業者からは嫌われています(飯田 2011).
 ちなみに,形態のみならずその生態も非常に多様で,普通に岩場に紛れて生活するものもいれば,魚類に体表寄生するものもいます.


 そんなフトヒゲソコエビ類を特徴づける形態的特徴は,何と言っても伸長した第2咬脚の座節です.他にも,触角が太いとか第2咬脚の指節が小さいとか,色々ありますが,ぶっちゃけ座節だけで色々な種がこのグループに入れられてきた雰囲気すらあります.

 こういった経緯から,内部の分類を理解するのは非常に難しいのですが,今回はひとまず愉快なメンバーをご紹介します.




各科の概説

・基本データはWoRMSに拠った(2020年1月閲覧).
・生態の記述がみつからなかったものは,近縁種から推定して「?」付きで示した.
・属の分類に有用な文献を「同定文献」に示した.


Alicelloidea(ダイダラボッチ)上科

【構成】6科


ダイダラボッチ科 Alicellidae


 世界最大のヨコエビであるダイダラボッチ Alicella gagantea を含みます.ダイダラボッチに関する誤解についてはこちら
【構成】6属16種
【分布】太平洋など
【生態】遊泳性
【同定文献】Barnard and Ingram (1990) 他



Parargissidae科


 なかなかクセの強いヨコエビです.Hyperiopsidae科に含められていましたが,いろいろあってダイダラボッチ界隈にやってきました.体長は50mm程度.
【構成】1属2種
【分布】インド洋
【生態】遊泳性?
【代表的な文献】Barnard (1961)



Podoprionidae科


 第1咬脚が明らかなはさみ形になっていることと,第5胸脚の基節後縁に鋸歯をもつことが特徴です.体長は10mm以上.
【構成】1属4種
【分布】インド洋~地中海
【生態】底生;腐肉食
【同定文献】Horton (2005)



Valettiidae科


 ナマコの腸管内から見つかるそうです.体長は5~25mm程度です.
【構成】1属2種
【分布】極域
【生態】寄生性
【代表的な文献】Thurston (1989)



Valettiopsidae科

 ダイダラボッチ界隈はみんな見た目がわりと似ています.キワモノぞろいのフトヒゲ類の中において,この科は各付属肢はあまり特殊化しておらず,祖先的な印象があります.
【構成】1属12種
【分布】熱帯域
【生態】近底遊泳性?
【同定文献】Lowry and De Broyer (2008)



Vemanidae科


 第1,2咬脚は,互いによく似た亜はさみ形になっています.非常にスレンダーな属です.体長は5mm程度.
【構成】1属4種
【分布】カリブ海など
【生態】遊泳性?
【代表的な文献】Barnard (1964)





Aristioidea(フカゾリソコエビ)上科

【構成】14科



Acidostomatidae科


 Acidostoma属は,種により大顎臼歯部や咬脚の形状が多様です.分類しにくい群の一つです.体長は5~10mm程度. 
【構成】2属11種
【分布】太平洋,極域
【生態】底生?
【同定文献】Stoddart and Lowry (2012)




Ambasiidae科


 ヒトデについているそうです.種数は少ないですがあまり掘り下げられたことのないグループとおもわれます.体長2~20mm程度.
【構成】2属3種
【分布】大西洋
【生態】寄生性
【代表的な文献】Kaim-Malka (2014)




フカゾリソコエビ科 Aristiidae


 どういうわけかサントメ・プリンシペでは切手のデザインになっています.体長3~8mm程度.
【構成】5属41種
【分布】熱帯~温帯
【生態】近底遊泳性?
【同定文献】Stoddart and Lowry (2010c)



Conicostomatidae科


 第1胸節と底節板が頭部を隠すという特殊なヨコエビです.属によって完全に隠れるのとそうでないのとがあります.体長は3~5mm程度.
【構成】6属18種
【分布】南半球
【生態】底生?
【同定文献】Lowry and Stoddart (2012b)



Derjugianidae科


 単型分類群で記載以来情報が少ないヨコエビです.第1咬脚が亜はさみ形で,第3尾肢が単葉となることで,他のグループから識別可能です.体長は10mm程度.
【構成】1属1種
【分布】北太平洋
【生態】近底遊泳性?
【同定文献】Gurjanova (1962)




Endevouridae(チョッキリソコエビ)科


 第3胸脚がハサミになるという特殊なヨコエビです.若干性的二形がありますが,雌雄どちらも立派な亜はさみ形になります.チョッキリソコエビ属とアシュラソコエビ属を含みます.
【構成】2属19種
【分布】太平洋
【生態】底生?
【同定文献】Lowry and Hughes (2015)




Izinkalidae科


 異形のヨコエビです.第3,4底節板が拡張し,頭部や第1,2底節板を覆います.小顎が退化しすぎて小さな1対だけになり,それが第1か第2か誰にも区別がつかず(たぶん第1),形態分類の限界を突きつけています.体長は3mm程度.
【構成】1属2種
【分布】南アフリカ;オーストラリア
【生態】底生?
【同定文献】Lowry and Stoddart (2010c)




Kergueleniidae科


 属内で尾肢の形態が多様です.口器が退化しすぎていて,何を食べているのか研究者に心配されています(?).体長は2~6mm程度.
【構成】2属26種
【分布】広域分布(温帯,寒帯)
【生態】遊泳性?
【同定文献】Lowry and Stoddart (2010d)




Lepidepecreellidae科


 頭部の形態が異常で,頭頂が触角の間に下りてきています.体長は5mm程度.
【構成】1属12種
【分布】オーストラリアなど
【生態】底性?
【同定文献】Stoddart and Lowry (2010)




Pakynidae科


 フトヒゲソコエビ類では少数派の細身のグループです.日本からは チョウチンソコエビ属 Prachynella の ホソチョウチンソコエビ P. shijiki の報告があります.
 伝統的に”Pachynidae”と綴られてきましたが,2017年に担名属の”Pachynus”が新参ホモニムであることが判明し,新たな名前が与えられています.体長には幅があり3~12mm程度.
【構成】12属37種
【分布】太平洋,南大西洋,南極
【生態】底生
【同定文献】Lowry and Stoddart (2012a)



Sophrosynidae科


 第1咬脚が Rectipalmate あるいははさみ形になります.体長は多様で3~12mm程度.
【構成】1属14種
【分布】世界各地
【生態】底生?
【同定文献】Lowry and Stoddart (2010b)




Thoriellidae科


 たいへんおかしな形をしています.もはや魑魅魍魎の域に達していると言ってよいでしょう.尾節板を欠き,種によっては第3尾肢まで消失します.パッと見,4属全てが異形で,分布も飛び飛びなので,同じ科と言われて納得するのも難しいレベルです.わりと大きく,体長は20mm程度のものが多いようです.
【構成】5属7種
【分布】南太平洋,大西洋,地中海,南極
【生態】底生
【同定文献】Lowry and Stoddart (2011a)






サカテヨコエビ科 Trischizostomatidae


 第1咬脚がねじれて逆さまになっています.爪を引っかけて使っているようで,魚類の体表に付着する様子が観察されています.目を引きやすいグループではありますが,属全体のレビューがされた形跡がないっぽいです.体長は30mm程度.
【構成】1属18種
【分布】広域分布
【生態】寄生性
【代表的な文献】Barnard (1961) ,Freire and Serejo (2004) ,Winfield et al. (2016)




Wandinidae科


 第4底節板が前後に広がり,ホテイヨコエビやタテソコエビを思い起こさせます.体長はやはり2mm程度と小型です.
【構成】2属4種
【分布】南半球
【生態】遊泳性?
【同定文献】Lowry and Stoddart (1990)




フトヒゲソコエビ上科 Lysianassoidea

【構成】12科


Adeliellidae科


 ナマコの体腔内に棲むようです.近年新たな種が見つかる気配があるとかないとか.生態の区分としては,捕食者と腐食者の間に位置すると理解されているようです (Lowry and Myers 2017).体長は5~10mm程度.
【構成】1属3種
【分布】熱帯
【生態】底生?
【同定文献】De Broyer (1975)



Amaryllididae科



 美麗種が多いことで知られます.オーストラリアで切手のデザインになっています.ネコゼヨコエビ類と近縁な属を含みます.体長は種により20mmを超えます.
【構成】2亜科8属37種
【分布】世界各地
【生態】底生/遊泳性
【同定文献】Lowry and Stoddart (2002a)



Cebocaridae科


 特異的な生態をもち,深海エビが抱卵する卵に紛れて生活していると言われています.構成属の名前がやたら紛らわしいことで有名です.体長は10mm程度.
【構成】4属15種
【分布】熱帯ほか
【生態】寄生性
【同定文献】Lowry and Stoddart (2011a)


 ネコゼ界隈の属名があまりに煩雑なので表を作りました.



amaryllis
cephalus
cyclocaris
cyphocaris
Bathy-
Amaryllididae
Crybero-
Cebocaridae
Cebocaridae
Meso-
Cebocaridae
Cebocaridae
Meta-
Cebocaridae
Cebocaridae
Para-
(シノニムとして抹消済)
Cebocaridae
Pro-
Cyphocarididae
Pseudo-
Amaryllididae
Wandinidae













 Paracyclocaris は現在無効な属のようですが,あとは健在です.




Cyclocaridae科


 やたら眼の大きなネコゼヨコエビ類です.深海の典型的な腐肉食者のようです.
【構成】1属4種
【分布】大西洋ほか
【生態】近底遊泳;腐肉食性
【同定文献】Lowry and Stoddart (2011a)




ネコゼヨコエビ科 Cyphocarididae

 

 ヨコエビはだいたい猫背ですが,胸節の一部が前方へ角のように張り出すという,とんでもないデザインのヨコエビです.第5胸脚の一部は有り得ない感じで後方へ伸びています.わりと大きく,体長は種によって50mm程度になります.
【構成】2属18種
【分布】太平洋ほか
【生態】遊泳性;捕食性
【同定文献】Sorrentino et al. (2016)




Eurytheneidae(オキソコエビ)科


 体長90ミリ越えがデフォの巨大ヨコエビです.
【構成】1属8種
【分布】広域
【生態】近底遊泳性
【同定文献】d'Udekem d'Acoz and Havermans (2015)


オオソコエビ科 Hirondielleidae


 数々の伝説をもつ深海ヨコエビです.耐圧性能,セルロースを一発でグルコースに分解できる高機能セルラーゼ(JAMSTECのHP),アルミニウムシールド(Kobayashi et al. 2019)など,異世界転生しても手に入らなさそうなチートスキルばかりです.体長は50mm以上になることがあります.
【構成】1属20種
【分布】広域
【生態】腐肉・腐朽食性
【同定文献】Lowry and Stoddart (2010a)



フトヒゲソコエビ科 Lysianassidae


 最近すっかり影が薄くなりましたが,担名科です.数ミリから数十ミリまで体サイズは多様です.属ごとにレビューされることはありますが,この規模の科になってから,包括した分類の論文はないように思います.形態は多様で,掘れば掘るほど絶望が濃くなります.
【構成】2亜科29属132種
【分布】広域
【生態】腐肉食/捕食?
【同定文献】Lowry and Kilgallen (2014a) ;Kim and Hendrycks (2013);Kilgallen and Lowry (2013) ;Lowry and Stoddart (1983) ;Sorrentino et al. (2019) 他



Opisidae科


 日本からも記録がありますが,和名は提唱されていないようです.これまでに軟骨魚類に付着している様子が観察されています (Benz and Bullard 2004).体長は5mm以下のものが多いそうです.
【構成】4属28種
【分布】広域
【生態】寄生性
【同定文献】Stoddart and Lowry (2010);Nakahara-Nakano et al. (2016)




Scopelocheiridae(クツミガキソコエビ)科


 第1咬脚前節の先端はひさしのように突き出て,ブラシのように剛毛が密生します.ちなみに,Paracallisoma ハミガキソコエビ属というのもいます.
【構成】2亜科12属25種
【分布】広域
【生態】近底遊泳;腐肉食性/捕食性/寄生性?
【同定文献】Kilgallen and Lowry (2015)




Tryphosidae科


 フトヒゲソコエビ類最大のグループです.形態は多様でカオスを極めていますが,第3尾肢外葉が2節になるという形質は全ての属に共通しています.これでかなり多くのグループと識別できますが,フトヒゲソコエビ科(Lysianassidae)にも同様の特徴をもつ属があるため分類には注意が必要です.種によって,第5胸脚基節に発光器を持つようです.動物遺骸の分解者や捕食者として理解されていますが,中には沈木生態系のメンバーとなる者もいるようです (Corbari and Sorbe 2015).体長は15mm程度のものが多いようです.
 実はわたくし,某文献でこの科の和名提唱を画策しており,今年中にはお目にかけることができると思います.お楽しみに.
【構成】42属379種
【分布】広域
【生態】腐肉食性/腐朽食性/捕食性
【同定文献】Kilgallen and Lowry (2014) 他



Uristidae科


 咬脚の形状で他と分けられたグループです.その後,例外的なグループが幾つか追加されており,非常にめんどくさいです.削り取った肉片を口の中に押し込むために,第1小顎外葉の歯状剛毛配列が冠状になっているそうです.大きなものでは体長が20mmを越えるようです.
【構成】26属181種
【分布】世界各地
【生態】腐肉食性
【同定文献】Lowry and Kilgallen (2014c)



フトヒゲソコエビ上科 Lysianassoidea incertae sedis(所属不明群)


 Ambasiopsis属,Gainella属,Stenia属の3属5種が,いずれの科にも属さないはぐれ者とされています.それぞれの記載を参照して分類することになりますが,図がなかったりして辛い文献もあります.




 次回は簡単・便利・正確な科の同定方法を模索する予定です.おたのしみに.



(おまけ)

 科の列挙だけでは何だか物足りなかったので,日本語の二又式検索表を作ってみました.圧倒的フトヒゲビギナーなのと,二又検索表については否定的な立場を取っているのであまり出来は良くないかとは思いますが,フトヒゲ全科の日本語のKeyも珍しいと思いますので,参考程度にご査収ください(二又検索表そのものは好きです).

1.尾節板を欠く・・・Thoriellidae科
— 尾節板を具える・・・2

2.頭頂が発達して前方へ尖り,左右の触角の間に板状の構造となって下垂する;第1咬脚は単純形で,指節は糸状・・・Lepidepecreellidae科
— 頭頂が板状となって触角の間に入ることはない;第1咬脚の指節は角状あるいは爪状・・・3

3.第3尾肢に副肢を欠く・・・4
— 第3尾肢は単葉あるいは副葉・・・6

4.第1咬脚ははさみ形・・・Derjugianidae科
— 第1咬脚は単純形・・・5

5.尾節背面は平滑・・・Kerguelenidae科
— 尾節背面は明瞭に隆起する・・・Conicostomatidae科

6.第1~4底節板は深く各胸脚の基節を覆う程度まで拡大し,複眼に被る程度まで前方へ張り出して頭部を覆う・・・7
— 底節板は浅く基節を覆わない,深い場合も複眼には被らない・・・10

7.尾節背面は平滑・・・8
— 尾節背面は変形が著しく,明瞭に隆起する・・・9

8.大顎臼歯部は剛毛を密生した薄片状・・・Lysianassidae フトヒゲソコエビ科
— 大顎に臼歯部を欠く・・・Acidostomatidae科

9.第2,3,4底節板が特に大きく,前方へ拡張し,第1底節板および頭部を包み込む;小顎は極めて退化的(1対しかない)・・・Izinkalidae科
— 第1底節板が拡張して頭部を覆う;小顎は通常(2対ある)・・・Conicostomatidae科

10.第4底節板は大きく,前縁は丸みを帯びつつ鋭角に突出して,第1底節板に達する・・・11
— 第4底節板は他と同程度の大きさ,あるいは前方へ拡張しても第2底節板を超えず,第1底節板に迫る場合も前縁は直線的・・・12

11. 胸節背面に長いトゲがある・・・Parargissidae科
— 胸節背面は平滑・・・Wandinidae科(Wandin属)

12.第1咬脚は捻じれて逆向きの亜はさみ状となる;第2底節板の前縁が鋭角をなして前方へ突出し,第1底節板を覆う・・・Trischizostomatidae サカテヨコエビ科
— 第1咬脚は捻じれない;第2底節板は第1底節板に重なる程度,覆うほど発達する場合は第3底節板以降も拡張する・・・13

13.第1~4底節板の一部(第1のみ,または第1~2,あるいは第1~3)が,他より明らかに小さい・・・14
— 第1~4底節板は同程度の深さ,または徐々に大きくなる・・・26

14.第1~3底節板は小さく,第4底節板の半分程度の深さ・・・15
— 第1底節板のみが他より小さいか,第1,2底節板が第3,4底節板より明らかに小さい・・・16

15.尾節板に切れ込みがある・・・Cyphocarididae ネコゼヨコエビ科(Cyphocaris ネコゼヨコエビ属)
— 尾節板は癒合する・・・Wandinidae科(Pseudocyphocaris属)

16.第1,2底節板は,第3,4底節板の半分程度の深さ・・・17
— 第1底節板のみが小さい・・・20

17. 第3~4胸脚(あるいは第3~5胸脚)は把握器状・・・Cebocaridae科
— 第3~5胸脚は単純形・・・18

18. 大顎臼歯部は円柱形・・・Cyphocarididae ネコゼヨコエビ科(Procyphocaris属)
— 大顎臼歯部は薄片形・・・19

19.第1小顎に髭を欠く・・・Amaryllididae科(Devo属)
— 第1小顎に髭を具える・・・Cyclocaridae科

20.第1小顎に髭を欠く・・・Amaryllididae科(Devo属以外)
— 第1小顎に1節かそれ以上の節数からなる髭を具える・・・21

21.第1咬脚は単純形・・・Aristidae科
— 第1咬脚は亜はさみ形かはさみ形・・・22

22.第1咬脚は亜はさみ形・・・23
— 第1咬脚ははさみ形・・・25

23.第1咬脚の指節は長く,亜はさみ形・・・Hirondielleidae オオソコエビ科
— 第1咬脚は指節が短く,小さな亜はさみ形・・・24

24.大顎臼歯部は単純形・・・Eurytheneidae科
— 大顎に臼歯部を欠く・・・Ambasiidae科

24.第1咬脚は指節と前節がそれぞれ弧を描いて先端のみが接しており,ヤットコに似たはさみ形を呈する・・・Opisidae科(Opisa属)
— 第1咬脚は,指節と前節が真っすぐ伸びる通常のはさみ形・・・25

25.大顎臼歯部は単純形・・・ Podoprionidae科
— 大顎に臼歯部を欠く・・・Uristidae科(Euonyx ツマミソコエビ属)

26.第3胸脚は亜はさみ形・・・Endevouridae科
— 第3胸脚は単純形・・・27

27.第1咬脚はRectipalmateあるいははさみ形で,前節は伸長し,腕節は著しく圧縮される・・・Pakynidae科
— 第1咬脚は単純形,亜はさみ形,はさみ形などを呈し,腕節は通常・・・28

28.第1咬脚前節の前縁は庇状に突出し,指節は庇の下に隠れて退化的,前節の終端はしばしば剛毛を密生してブラシ状となる・・・Scopelocheiridae科
— 第1咬脚前節の前縁は庇状に突出しない・・・29

29.顎脚外葉は薄く拡張し,髭を完全に覆う・・・Opsidae科(Normanion属,Podoprionella属,Podoprionides属)
— 顎脚外葉は髭と同じ長さか,それより小さい・・・ 30

30.第2触角は丁字(あるいはY字)状を呈し,柄部第5節前縁が伸長して節の途中から鞭部が生じる構造となる・・・Lysianassiade フトヒゲソコエビ科(Tantena属)
— 第2触角は直線的・・・31

31.第3尾肢外葉は1節・・・32
— 第3尾肢外葉は2節・・・36

32.大顎臼歯部は単純形・・・33
— 大顎臼歯部は薄片状あるいは痕跡的な隆起のみになるか,完全に消失する・・・Lysianassidae フトヒゲソコエビ科

33.大顎切歯部は鋸歯状・・・Alicellidae ダイダラボッチ科
— 大顎切歯部は平滑・・・34

34.第1咬脚は単純形,第2咬脚は小さな亜はさみ形かParachelate・・・Lysianassidae フトヒゲソコエビ科(Aruga属)
— 咬脚はいずれも亜はさみ形・・・35

35.第1小顎は先端部のみ剛毛を具える・・・Valettidae科
— 第1小顎の内葉に剛毛を密生する ・・・Valettiopsidae科

36.第1咬脚は単純形・・・Lysianassoidea フトヒゲソコエビ上科(Lysianassidae フトヒゲソコエビ科,Uristidae科)
— 第1咬脚は亜はさみ形,あるいははさみ形・・・37

37.第2咬脚は掌縁と後縁がほぼ同長の亜はさみ形,底節板は浅い・・・Vemanidae科
— 第2咬脚は典型的な亜はさみ形ではない,底節板は深い・・・38

38.大顎臼歯部は円柱形・・・39
— 大顎臼歯部は薄片状または退化的,あるいは消失する・・・42

39.第2咬脚の掌縁は斜走し,後角が明瞭な鋭角をなす亜はさみ形(あるいは,微小なはさみ形)・・・Lysianassoidea フトヒゲソコエビ上科(Lysianassidae フトヒゲソコエビ科,Tryphosidae科,Uristidae科)
— 第2咬脚の掌縁は斜走しない・・・40

40.第2咬脚はParachelateで,掌縁は短く,後角に小さな前向きの突起を具える・・・Adeliellidae科
— 第2咬脚は掌縁が不明瞭な亜はさみ形・・・41

41.第2咬脚の指節は明瞭に前節の幅より長い・・・Lysianassidae フトヒゲソコエビ科(Douniaella属)
— 第2咬脚の指節は前節の幅より短い・・・Uristidae科(Caeconyx属,Uristes属,Ventiella属など)

42.大顎に臼歯部を欠く・・・Sophorosynidae科
— 大顎臼歯部は薄片状(あるいは舌状)となる・・・Uristidae科




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補遺 (15-VIII-2024)
・一部書式設定変更。