2022年3月6日日曜日

2022年のヨコエビギナーへ(文献紹介第八弾)

 
 今年も文献紹介をします。第八弾になります。


(第一弾)
— 富川・森野 (2009) ヨコエビ類の描画方法
— 小川 (2011) 東京湾のヨコエビガイドブック
— 石丸 (1985) ヨコエビ類の研究方法
— Chapman (2007) "Chapman Chapter" In: Carlton Light and Smith Manual (West coast of USA)
— 平山 (1995) In: 西村 海岸動物図鑑
— Barnard and Karaman (1991) World Families and Genera of Marine gammaridean Amphipoda


(第二弾)
— Lowry and Myers (2013) Phylogeny and Classification of the Senticaudata
— World Amphipod Database / Amphipod Newsletter
— 富川・森野 (2012) 日本産淡水ヨコエビ類の分類と見分け方
— Arimoto (1976) Taxonomic studies of Caprellids
— Takeuchi (1999) Checklist and bibliography of the Caprellidea
— 森野 (2015) In: 青木 日本産土壌動物
【コラム】文献情報のルール


(第三弾)
— 有山 (2016) ヨコエビとはどんな動物か
— 森野・向井 (2016) 日本のハマトビムシ類
— Tomikawa (2017) Freshwater and Terrestrial amphipod In: Species Diversity of Animals in Japan
— Bousfield (1973) Shallow-Water Gammaridean Amphipoda of New England
— Ishimaru (1994) Catalogue of gammaridean and ingolfiellidean amphipod
— 椎野 (1964) 動物系統分類学
【コラム】ヨコエビの分類にはどこから手を付けるか


(第四弾)
— Lowry and Myers (2017) Phylogeny and Classification
— Bellan-Santini (2015) Anatomy, Taxonomy, Biology
— Hirayama (1983–1988) West Kyushu
— 井上 (2012) 茨城県のヨコエビ
— 永田 (1975) 端脚類の分類
— 菊池 (1986) 分類検索, 生態, 生活史
【コラム】文献の入手


(第五弾)
— Arfianti et al. (2018) Progress in the discovery
— Ortiz and Jimeno (2001) Península Ibérica
— Miyamoto and Morino (1999) Talorchestia and Sinorchestia from Taiwan
— Miyamoto and Morino (2004) Platorchestia from Taiwan
— Morino and Miyamoto (2015) Paciforchestia and Pyatakovestia
— 笹子 (2011) 日本産ハマトビムシ科
【コラム】野良研究者


(第六弾)
— Lecroy (2000–2011) Illustrated identification guide of Florida
— Cadien (2015) Review of NE Pacific
— Copias-Ciocianua et al. (2019) The late blooming amphipods
— Bate and Westwood (1863) British sessile-eyed Crustacea
— 青木・畑中 (2019) われから
— Bousfield and Hoover (1997) Corophipodae
【コラム】ヨコエビの同定

(第七弾)
— 岡西 (2020) 新種の発見
— Conlan (1990) Revision of Jassa 
— Ariyama (1996) Four Species of Grandidierella 
— Ariyama (2004) Nine Species of Aoroides 
— Ariyama (2007) Aoridae from Osaka and Wakayama
— Ariyama (2020) Six species of Grandidierella
【コラム】ヨコエビリティの探索


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 最初に、文献ではないのですがこちらの記事をお勧めしたいと思います。

 トヨタマミコヨコエビ,ジンベイドロノミ,小笠原のメリタヨコエビ属等、近年の実際の記載論文の執筆エピソードを紹介しながら、マイナー分類群ならではの悲喜交々や、ヨコエビ研究の意義や動機が丁寧に記述されています。ヨコエビのことを全く知らない人、生物学に興味のない人も、純粋に楽しめる記事といえるのではないでしょうか。

 





Hughes, L. E.; Ahyong, S. T. 2016. Collecting and processing amphipods. Journal of Crustacean Biology, 36(4): 584–588. 

 ヨコエビ類の基礎生態情報や扱い方が驚くほどコンパクトにまとまっている良文献。特に海産種について、複雑多岐にわたる生息環境や生活様式を明快に図示しています。そしてあまり考えたことのなかった「毒」を使った方法も含めて採集法を紹介。しかも無料で読めます。

 

 


<ロシアのヨコエビ文献>

 本邦のヨコエビ相を知るためには、隣国・ロシア(あるいはソビエト)の文献を読むことが不可欠です。また、ロシアのバイカル湖は淡水ヨコエビの適応放散が進んでいて、世界的に特筆すべき多様性を誇る淡水環境です。もともと日本からの渡航にはビザが必要で、近年では世界的な公衆衛生的問題、そして何より国際情勢により、さらに遠い遠い国になりつつあります。これからの展開は気がかりですが、批判されるべきは今回の決断であって国の文化や学問ではないですし、科学の歩みを止めるわけにはいきません。とりあえず、次に挙げる文献が代表的です。

 


Буруковский, Р. Н.; Судник, С. А. 2018. Атлас-определитель амфипод (Crustacea, Amphipoda) юго-восточной Балтики и эстуариев Калининградской области [Текст] : [учебное пособие] / Р. Н. Буруковский, С. А. Судник ; рец.: Н. П. Кудикина, Е. Н. Науменко. - Калининград : [б. и.], 2018. - 104 с. : рис. - Библиогр.: с. 95-104. - ISBN 978-5-6041494-7-8 : 14.28 р. УДК    595.371(261.24)(470.26) 拙訳タイトル:バルト海南東およびカリーニングラード地域河口域における端脚類(甲殻綱,端脚目)の図解分類

 図は引用ですが、図鑑としてここまでのボリュームで出版された事例は稀で、貴重な資料です。 欧州寄りの顔ぶれが多く、後述する文献群とはまた趣が異なります。

 

 


Гурьянова, Е. Ф. 1938. Amphipoda, gammaroidea заливов Сяуху и Судухе (Японское море). Фийная Академия Наук СССР, Труды Гидробиологической Экспедиции Зинан 1934 Японское Море, 1: 241–404.  拙訳タイトル: Сяуху湾とСудухе 湾(日本海)の端脚目,ヨコエビ亜目

 この2つの湾は、日本海のラゾフスキー地区にあるようですがよくわかりません。本邦に面したエリアでの研究なので、たとえば以下のような日本でみられるものと同じとされている種が記載されており、極めて重要です。

  • フサゲヒゲナガ Ampithoe zachsi  (as Amphithoe zachsi)
  • Atylus collingi
  • ドンガメヨコエビ Pereionotus holmesi
  • アゴナガヨコエビ Pontogeneia rostrata 
  • アネンコーバヨコエビ Sunamphitoe annenkovae  (as Amphithoe annenkovae)
  • Urothoe orientalis

  また、以下の種についても掲載されています。

  • ニッポンモバヨコエビ Ampithoe lacertosa (as Amphithoe japonica)
  • タダノツノアゲソコエビ Anonyx nugax

 

 

 

Гурьянова, Е. Ф. 1951. Бокоплавы морей СССР и сопредельных вод. (Amphipoda - Gammaridea). — М.—Л.: Издательство Академии наук СССР,  — 1032 с. — (Определители по фауне СССР, издаваемые Зоологическим институтом Академии наук; № 41). 拙訳タイトル:ソビエト社会主義共和国連邦とその近海におけるヨコエビ(端脚目—ヨコエビ亜目)

 日本海を含めたロシア全体の海産ヨコエビを扱っています。体制の解説に加えて、日本でみられる以下のような種が掲載されており、有用です。もちろん、本当に本邦種と一緒にしてよいかは注意が必要ですが…。

  • ニッポンモバヨコエビ Ampithoe lacertosa (as Amphithoe japonica, Amphithoe lacertosa)
  • フサゲヒゲナガ Ampithoe zachsi  (as Amphithoe zachsi)
  • ケブカブラブラソコエビ Aoroides secunda  
  • バサルギンモクズヨコエビ Apohyale bassargini (as Hyale bassargini)
  • オオハマトビムシ Bulychevia ochotensis (as Orchestia ochotensis)
  • トゲドロクダムシ Crassicorophium crassicorne (as Corophium crassicorne)
  • ヒメハマトビムシ Demaorchestia joi (as Talorchestia crassicornis)
  • ホッカイハマトビムシ Ditmorchestia ditmari (as Orchestia ditmari)
  • トゲオヨコエビ Eogammarus kygi (as Gammarus (Marinogammarus) kygi)
  • モバソコトビムシ Ericthonius brasiliensis
  • アリアケドロクダムシ Monocorophium acherusicum (as Corophium acherusicum) 
  • Pacifoculodes crassirostris (as Monoculodes crassirostris)
  • アゴナガヨコエビ Pontogeneia rostrata 
  • Rostroculodes schneideri (as Monoculodes schneideri)
  • ミナミホソハマトビムシ Pyatakovestia pyatakovi (as Orchestia pyatakovi) 
  • アネンコーバヨコエビ Sunamphitoe annenkovae (as Amphithoe annenkovae)


 

 

Цветкова, Н. Л. 1967. К фауне и экологии бокоплавов (Amphipoda, Gammaridea) залива Посьет (Японское море). Исследования Фауны Морей, 5, 13, с. 160–195; 7 рис. 拙訳タイトル:ポシエト湾(日本海)のヨコエビ(端脚目, ヨコエビ亜目)相および生態

  こちらも日本に近接した海域での研究です。本邦普通種である ポシエットトゲオヨコエビ Eogammarus possjeticus の記載論文で、他に日本でみられる以下の種の報告を含みます。

  • ニッポンモバヨコエビ Ampithoe lacertosa (as Amphithoe japonica)
  • Ampithoe shimizuensis (as Amphithoe shimizuensis)
  • ヨツデヒゲナガ Ampithoe tarasovi (as Ampthithoe tarasovi)
  • フサゲヒゲナガ Ampithoe zachsi  (as Amphithoe zachsi)
  • トンガリキタヨコエビ Anisogammarus pugettensis 
  • バサルギンモクズヨコエビ Apohyale bassargini (as Hyale bassargini)
  • ヒメハマトビムシ Demaorchestia joi (as Talorchestia crassicornis)
  • トゲオヨコエビ Eogammarus kygi (as Anisogammarus (Eogammarus) kygi
  • カギメリタヨコエビ Melita koreana
  • フトメリタヨコエビ Melita rylovae
  • アネンコーバヨコエビ Sunamphitoe annenkovae (as Amphithoe annenkovae)
  • ヒゲナガハマトビムシ Trinorchestia trinitatis (as Orchestoidea trinitatis) 

 

 

 
Takhteev, V. V.; Berezina, N. A.; Sidorov, D. A. 2015. Checklist of the Amphipoda (Crustacea) from continental waters of Russia, with data on alien species. Arthropoda Selecta, 24(3): 335–370. (in Russian with English abstract)

 ロシア陸水域のヨコエビリストです。河口域や陸棲種も含みつつ、やはり屈指の多様性を誇るバイカル湖のヨコエビがかなり種数を稼いでいます。





コラム:野良研究者の文献収集に光明差す?

 

 ふとしたきっかけで、「Eurekamag」というサービスを知りました。

 以前から分類群名、あるいは雑誌名や文献名を検索する中でこのサイトに行きついたことはありますが、既に持っている文献だったり、本家の出版社のサイトあるいはBHLのような無料サービスから普通に入手できる文献だったりして…わざわざ怪しいサイトに課金しようと思えなかったので、無視していました。

 しかし、とある文献を探していたところ、どうしてもここからしか入手できなさそうだったので、背に腹は代えられず利用することにしました。約3,000円でした。ズータクサも1本買いするとこのくらいなので、相場といえるでしょう。

 詳しい流れをちゃんと読んでなかったのですが、どうやらこのサイトは「文献PDFデータの在庫リストを公開して発注を受けている」わけではなく、「アクセス可能な文献のリストを公開し複写依頼を受けている」ようです。つまり「学術界の出前館」といえるでしょうか。 

 正直古い文献データのウェブ販売にこの値段は高いと思っていたのですが、手間賃だと分かると逆に安い気がしてきます。何しろ一般人が海の向こうの司書さんをパシるようなものですから、格安です。

 土曜の深夜(向こうでは午後)に申し込んで、 予告通り月曜の夜(向こうでは昼前?)くらいにPDFが送られてきました。公立図書館の蔵書とのことで、週明けの午前中にネ申対応いただいたようです。これを知らなかったとは何という情弱…ッ! さっそく、イタリアの古書店に問い合わせてから4か月間放置されていた文献を発注してみたところ、20時間でスピード到着。早い。早すぎる。

 

 もう少し調べてみると、どうやら「Documents Delivered」というサイトも類似したサービスをしているようです。収集が難航しているヨコエビ文献をいくつか検索窓に突っ込んでみた感想としては、Eurekamagのほうが広い範囲をカバーできているようです。他にも類似サービスがあるかもしれません。

 

 ちなみに、前述のイタリアの古書店みたいなレスポンスの悪いストックを活用する方法としては、他の窓口を挟むことが有効というのもわかりました。その国のアカウントを取得する必要がありますが、Amazon から注文すれば、直接問い合わせでダンマリをキメていた古書店も常識的な速度でうごいてくれました。さすがに直営倉庫の商品よりは遅いですが。


 あと、文献探索に関してなかなか勢いのあるサイトを見つけました。文系を念頭に置いているようですが、翻訳サイトや古本ネットワーク等ヨコエビストにも使えるリンク集です(ところどころ切れてますが)

 この中で、日本の古書店を横断検索できるサイトはちょっと辛口の評価になっています。しかし、最近は進化したのか、私が利用した限りでは Amaz〇n なんかより遥かに安く購入できて便利だと思いました。海外の例とは逆です。まあ、このシステムをもってしても、国内にあると期待していた書籍が全て手に入ったわけではありませんが…。

 古書店にない書籍は図書館をいかにうまく活用できるかがカギになりますが、コピーには著作権法上の縛りがあります。チャプター全体の複写が謝絶される等の制約もあるため、直接足を運んで必要な部分だけコピーするというような工夫が求められます。

2022年2月23日水曜日

ヒメハマトビムシの最新動向(2022年2月度活動報告その3)

 

 ヨコエビ界の巨人・Lowry の遺稿となる論文 (Lowry and Myers 2022) が出版されました。

 ハマトビムシの亜科や属をいじったマニアックな論文ですが、日本の生き物界隈には大変な事件といえるでしょう。なぜなら、本邦で最も有名なヨコエビといえる「ヒメハマトビムシ」が、複数種どころか複数属に分かれてしまったのです。


これがいわゆる「ヒメハマトビムシ」です.
 

  掲載誌は有料ですし、これを読みこなさないと「ヒメハマトビムシ」を語れないというのもだいぶ酷だと思うので、こちらで要点をまとめておきます。

 

 

ヒメハマトビムシの歴史

 Lowry and Myers (2022) を読む前に、日本における「ヒメハマトビムシ」の歴史を軽く振り返っておきます。


 「ヒメハマトビムシ」の分類といえば、ガタガールsp.のヨコエビ回(以下、小原2016)を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

 忘れもしない2018年、冒険ありアクションありホラーあり恋愛ありギャグありで知られる、良い子のための無料漫画アプリマガジンポケットにて、突然ガチのヨコエビ分類談義が繰り広げられ、業界は一時騒然となりました(『ガタガールsp. 阿比留中生物部活動レポート』)。

 小原 (2016) では Demaorchestia joi (以下、ジョイ)なのか Platorchestia pacifica (以下、パシフィカ)なのかが端的に紹介されていました。2016年までの「ヒメハマトビムシ」にまつわる年表はこちらに載っていますが、当時すでに「沼」でした。

 

 日本にいる小さめのハマトビムシ類「ヒメハマトビムシ」は、長いこと Orchestia platensis(以下、プラテンシス)1種と考えられてきました。この「プラテンシス」というのは厳密には北大西洋の種なのですが、初めて日本の個体群に当てはめたのは Iwasa (1938) であろうと思います。

 大正時代には Orchestia属に「はまとびむし」という和名が対応されたこともありましたが (飯島 1918)、Iwasa (1938) によって詳細に形態が記述されて学名と対応されたことで、日本の浜辺やら湿地やらでピョンピョンしてるやつはプラテンシスで間違いない、という見解が広まったのであろうと思います。ただ、このプラテンシスは形態や生態の幅がかなりあることから、モリノオカトビムシ属なども内包されていた可能性があります。

 戦後、永田 (1965) はプラテンシスに対応する和名として「ひめはまとびむし」を挙げています。この頃もまだギリギリの感じでオカトビムシ類が混同されている雰囲気がありますが、影響力の大きい北隆館の図鑑に掲載されたせいか、この和名と学名のコンビネーションは、かなり多くの場面で採用されることになります。

 

 

手続き上の問題


 Bousfield の研究により、Orchestia 属が Platorchestia 属として分離独立するとOrchestia platensis という学名は、Platorchestia platensis という学名になります (Bousfield 1982)。この処遇は平山 (1995) でも紹介され、その後20年ほどにわたって有効なものとして扱われ続けました。

アジアの激震

 プラテンシスは台湾にもいると考えられてきました。しかし、調査の結果、これは本当のプラテンシスではなく別種だと分かりました。台湾の「ヒメハマトビムシ」には、Platorchestia pacifica という名前がつきました (Miyamoto and Morino 2004)。この研究では「アジアに真のプラテンシスはいない」との見解が示され、日本の「ヒメハマトビムシ」も本当はプラテンシスじゃないはず、という疑いが生まれます。

 実は、台湾からパシフィカが記載される20年ほど前、韓国の研究者が「韓国の"プラテンシス"は別種の Platorchestia crassicornis である」と発表していました。この Platorchestia crassicornis はかつて Talorchestia属 としてロシアで発見されましたが、あまり注目されてきませんでした。論文の記載図 (Державин 1937) がかなりラフで、なんとも扱いにくいものだったのが一因と思われます。その後、Гурьянова (1951) で再報告され、更に韓国でも見つかって詳細な図が載った (Jo 1988) ことから、研究が進められるようになりました。そして、日本の”ヒメハマトビムシ”=ジョイであるとされ (Jo 1988)Ishimaru (1994) もこれを受けて「ヒメハマトビムシ=Platorchestia crassicornis」として日本産「ヒメハマトビムシ」に対応する学名を改訂していたのですが、その後の研究ではどういうわけかほとんどスルーされていました。そんな折、Platorchestia crassicornis は実は Bousfield (1982) によって Talorchestia属から移動されたものと、Orchestia属から移動されたものの、2つの別種に適用されていることがわかり、ロシアで記載された方は別種として新しい名前が与えられる記載されるに至りました。
 これがジョイです。

 一方、Miyamoto and Morino (2004) の知見をもとに、日本の「ヒメハマトビムシ」にパシフィカの特徴を当てはめてみると、かなり一致しました。これまでのやり方で調べるとプラテンシスという結果になっていた標本が実はパシフィカだった、というケースが相次いだのです。笹子 (2011) や小川 (2011) でその旨が指摘されています。

  


Lowry and Myers (2022) を読む



 Lowry and Myers (2022)の主な内容は以下の通りです。

  • 新亜科の設立
  • 新属の設立
  • 新種記載
  • 新亜科に含まれる既知属のレビュー
  • 属の検索表


 詳細は省きますが、色々あって、本邦産属や種に変更があります。

 というわけで、以下、ハマトビムシ上科の本邦産種一覧です。


  Brevitalitridae科

  1.  Bousfieldia omoto Morino, 2014 ヤエヤマオカトビムシ /森林/石垣島,西表島(森野 2015)
  2.  Mizuhorchestia urospina Morino, 2014 トゲオカトビムシ /海岸林~森林/本州,四国,九州(森野 2015)  
  3.  Talitroides alluaudi (Chevreux, 1896) ミジンツメオカトビムシ /宮古島 (Takahashi et al. 2021a), 奄美大島 (Takahashi et al. 2021b)
  4.   Talitroides topitotum (Burt, 1934) ツメオカトビムシ /草地性 (Lowry and Myers 2019),林床/沖縄県・国頭郡 (森野 2015)
     

    ハマトビムシ科 Talitridae

    Talitrinae亜科

  5.  Aokiorchestia jajima Morino, 2020 ミナミオカトビムシ /海岸林/本州日本海岸,四国,九州,トカラ(森野 2015)
  6.  Bulychevia ochotensis (Brandt, 1851) オオハマトビムシ /礫浜/北海道東部 (森野・向井 2016)
  7.  Ditmorchestia ditmari (Derzhavin, 1923) ホッカイハマトビムシ /海岸性 (Lowry and Myers 2019),海岸林/北海道東部 (森野・向井 2016)
  8.  Ezotinorchestia solifuga (Iwasa, 1939) キタオカトビムシ /草地性 (Lowry and Myers 2019),海岸林/北海道東部,福井(森野 2015)
  9.  Kokuborchestia kokuboi (Uéno, 1929) コクボオカトビムシ /草地性 (Lowry and Myers 2019),海岸林~森林;北海道南西部,東北北部 (森野 2015)
  10.  Leptorchestia biseta Morino, 2020 ホソオカトビムシ /林床 落葉下/小笠原諸島 (Morino 2020)
  11.  Lowryella wadai Morino & Miyamoto, 2016 ヨシハラハマトビムシ /湿地性 (Lowry and Myers 2019),ヨシ原/宮崎県,愛媛県 (Morino and Miyamoto 2016b)  
  12.  Pyatakovestia boninensis Morino and Miyamoto, 2015 オガサワラホソハマトビムシ /海岸~森林/母島 (森野 2015)
  13.  Pyatakovestia iwasai Morino and Miyamoto, 2015 ミナミホソハマトビムシ / 海岸林 (森野 2015),礫浜/台湾,沖縄,本州関東以南太平洋岸,福井以南日本海岸 (Morino and Miyamoto 2015b)
  14.  Pyatakovestia pyatakovi (Derzhavin, 1937) ホソハマトビムシ /海岸林 (森野 2015),礫浜/ロシア,韓国,北海道,本州日本海岸,伊豆半島以北太平洋岸(Morino and Miyamoto 2015b)
  15.  Sinorchestia nipponensis (Morino, 1972) ニホンスナハマトビムシ /砂浜性 潮上帯上部 漂着物/茨城以南~四国,九州 (森野・向井 2016)
  16.  Sinorchestia sinensis (Chilton, 1925) タイリクスナハマトビムシ /砂浜性 潮上帯上部 漂着物/台湾,沖縄,西表,四国,紀伊半島 (森野・向井 2016)
  17.  Trinorchestia longiramus Jo, 1988(和名未提唱)/韓国,日本(笹子 2011)
  18.  Trinorchestia trinitatis (Derzhavin, 1937) ヒゲナガハマトビムシ /砂浜性/韓国,北海道~九州 (森野・向井 2016)
  19.  Minamitalitrus zoltani White et al., 2013 ダイトウイワヤトビムシ /洞窟性/南大東島 星野洞 (森野 2015)


    Platorchestinae亜科

  20.  Demaorchestia hatakejima Lowry and Myers, 2022(和名未提唱) /海岸/和歌山県・畠島 (Morino 1975)
  21.  Demaorchestia joi (Stock and Biernbaum, 1994) ヒメハマトビムシ /内湾的砂浜/日本各地 (森野・向井 2016);ロシア極東部,韓国 (Jo  1988)
  22.  Demaorchestia mie Lowry and Myers, 2022(和名未提唱) /海岸/三重県・志摩半島南側? (Stephensen 1945)
  23.  Miyamotoia daitoensis Morino, 2020 ダイトウオカトビムシ /海岸草地~海岸林?/南大東島,北大東島 (Morino 2020)
  24.  Miyamotoia spinolabrum Morino, 2020 クチトゲオカトビムシ /砂浜~森林/小笠原諸島 (Morino 2020)
  25.   Morinoia chichijimaensis Morino, 2020 チチジマオカトビムシ /河岸性/父島 (Morino 2020)
  26.  Morinoia humicola (Martens, 1868) オカトビムシ /森林/本州 (森野 2015);台湾 (Miyamoto and Morino 2004)
  27.  Morinoia japonica (Tattersall, 1922) ニホンオカトビムシ /湖岸,森林/北海道~沖縄 (森野 2015);台湾 (Miyamoto and Morino 2004)
  28.  Nipponorchestia curvatus Morino and Miyamoto, 2015 ヒメオカトビムシ / 海岸~海岸林/近畿,伊豆,四国,九州,対馬 (Morino and Miyamoto 2015a)
  29.  Platorchestia pachypus (Derzharvin, 1937) ニホンヒメハマトビムシ /外湾的砂浜,砂利浜 (笹子 2011)/潮間帯~潮上帯/北海道~九州 (森野・向井 2016);韓国 (Jo 1988)
  30.  Platorchestia pacifica Miyamoto and Morino, 2004 (和名未提唱)/内湾的砂浜,砂利浜,岩礁上部 (笹子 2011);礫浜 (小川 未発表)/台湾 (Miyamoto and Morino 2004);日本各地,韓国 (笹子 2011)
  31.  Yamatorchestia nudiramus (Morino and Miyamoto, 2015) トゲナシオカトビムシ /海岸林~森林/近畿,東海 (Morino and Miyamoto 2015a)

※ハマトビムシ上科の成立についてはこちらで、2019年の大改編についてはこちらで解説しています。

※ヒゲナガハマトビムシ属の2種については、それぞれの原記載を含めた既往研究で記述されている形態的特徴に不審があるものの、種の適格性がないものと結論するには至っていないため、従来の記録をそのまま掲載しています



 さて、上記の内、まあまあの数の種が過去に「ヒメハマトビムシ(あるいはプラテンシス)」として報告された経緯があったりしますが、現在はそれぞれ別の学名・和名が与えられています。国内で記録がありつつ和名が確立していないという意味で現在進行形で「ヒメハマトビムシ」に含まれうる種は、4種です。

 中でも特に鬼門なのは、Lowry and Myers (2022) において新属新種かつそれぞれ単一の文献記録に基づいた armchair taxonomy(安楽椅子分類学:自ら標本を収集・検討して分類に必要な一次情報を得ることはせず、出版済の文献およびそれに付随した私信を拠り所として行われる分類学研究:たった今思いついた言葉です)によって記載されている D. mieD. hatakejima の2種なわけですが、どちらについてもタイプ産地から30km圏内で得られた標本が偶然手元にあったので、軽く見てみます。ちなみに、いずれもオス第2咬脚前節下縁の棘状剛毛列が無いことと、第7胸脚腕節が太いこと等によって、パシフィカと同定していました。

 

 Lowry and Myers (2022) によると、D. mie は各腹節板の後縁が鋸歯状になるとのことです。


 

鋸歯状となる腹側板後縁(松坂市産オス).

 まあ確かに腹側板がギザギザ尖ってはいますね…。第6底節板後葉前縁下方は、微かに歯状突起を具えるものの基本的に直角のようです。

 

 また、Lowry and Myers (2022) によると、D. hatakejima は第6胸脚底節板前縁下方に突出部を欠き、丸みを帯びることで同属他種と識別可能なようです。「第6胸脚底節板前縁下方」が具体的にどこを指すのかよく分かりませんが、図を見る限りは前後で2葉に分かれる底節板の、後葉の部分に適用するもののようです。

 

第6底節板後葉前縁下方および第2腹側板後縁(白浜産オス).
右側は生時の色彩.

 まあ確かに第6底節板後葉前縁下方の角が丸いですね…。あと、腹側板も心なしか鋸歯が尖らず丸みを帯びて波打っている感じがしますね。言語化を試みるとすれば、第2腹側板において、D. hatakejima は「後縁に連なる鋸歯×2≧後角の歯状突起」なのに対して、D. mie は「後縁に連なる鋸歯×2<後角の歯状突起」というサイズ感です。

 

 

 いちおう他の産地の標本も見てみましょう。 


腹側板後縁の鋸歯は発達しない;
第6底節板後葉前縁下部は直角で歯状突起を具える(岡山県産オス).

  タイプ産地の標本ではないですが、第6底節板後葉前縁下方に突起があり、腹側板後縁のギザギザは穏やかに見え、Jo (1988) に記述された韓国産個体の特徴とよく一致します。



腹側板後縁の鋸歯は発達しない;
第6底節板後葉前縁下部は直角で下方へやや膨らむ(三番瀬産オス).

 これもタイプ産地の標本ではありませんが、腹側板の鋸歯は心なしか穏やかで、第6底節板後葉前縁下方は直角です。ただ、台湾産個体の原記載 (Miyamoto and Morino 2004) では鋸歯は全くないように見え、第6底節板後縁に歯状突起があるという点では気になります。


 これらをまとめるとこうなります。

「ヒメハマトビムシ」4種の形態的特徴.
オス第1咬脚指節上縁:段差のみ/突起あり.
第6底節板後葉前縁下方:歯状突起を具える/丸みを帯びる/尖る.
腹側板後縁の鋸歯:小さい/明瞭.

 

 D. hatakejimaD. mie は、記載に既往研究の線画のみを使用し、種を分ける根拠となる形態形質は定量性に欠け、分子的裏付けも皆無ではありますが、いちおう現場で得られる個体群の形態的特徴とは矛盾しません。たまたま手元にあった標本を見ただけなので個体差は分かりませんが、少なくとも過去の図の書き間違いやその時しかいなかった個体として簡単に片づけられる代物ではないと思います。したがって、これら2種がまさしく種として独立しているかの判断には至らなかったものの、「それぞれのタイプ産地に健在な個体群」という前提で調査する価値はあると思います。

 個人的に気になるのは、岡山でジョイを得た時に体表の質感や模様がだいぶパシフィカと違って見えたものの、和歌山で cf. D. hatakejima を採った時には体表の様子はパシフィカと全く違わないように見えた点です。これらは別属となっていますから、 D. hatakejima がジョイよりパシフィカに似てるのは道理に反しているように思えます。もちろん、ぱっと見の模様で同定できるほどヨコエビは甘くありませんが、正直なところ特定の形態形質を属の違いとして推してくる根拠について、論文から読み取ることが難しいです。分子でも流して距離を測るのが一番良い気がします。




<参考文献>

— Bousfield, E. L. 1982. The amphipod superfamily Talitroidea in the northeastern  Pacific region. 1. Family Talitridae; systematics and distributional ecology. National Museum of Canada, Publications in Biological Oceanography, 11: i–vii, 1–72.

Державин, А. Н. 1937. Talitridae Советского побережья Яапонского моря. Исследования морей СССР, 23: 87–99.

Гурьянова, Е. Ф. 1951. Бокоплавы морей СССР и сопредельных вод. (Amphipoda - Gammaridea). — М.—Л.: Издательство Академии наук СССР,  — 1032 с. — (Определители по фауне СССР, издаваемые Зоологическим институтом Академии наук; № 41).

— 平山明 1995. 端脚類. In: 西村三郎(ed.)『原色検索日本海岸動物図鑑[II]』. 保育社, 東京.

飯島魁  1918. 『動物学提要』. 大日本図書, 東京.

— Ishimaru S. 1994. A catalogue of gammaridean and ingolfiellidean Amphipoda recorded from the vicinity of Japan. Report of the Sado Marine Biological Station, Niigata University, 24: 29–86.  

Iwasa M. 1939. Japanese Talitridae. Journal of The Faculty of Science Hokkaido Imperial University, Series VI. Zoology, 6(4): Plates IX–XXII, 255–296.

Jo Y. W. 1988. Talitridae (Crustacea — Amphipoda) of the Korean coasts.   Beaufortia, 38(7): 153–179.  

Lowry, J. K.; Myers, A. A. 2019. New genera of Talitridae in the revised Superfamily Talitroidea Bulycheva 1957 (Crustacea, Amphipoda, Senticaudata). Zootaxa, 4553(1). 

Lowry, J. K.; Myers, A. A. 2022. Platorchestiinae subfam. nov. (Amphipoda, Senticaudata, Talitridae) with the description of three new genera and four new species. Zootaxa, 5100(1): 1–53.

Miyamoto H.; Morino H. 2004. Taxonomic studies on the Talitridae (Crustacea, Amphipoda) from Taiwan, II. The genus Platorchestia. Publications of the Seto Marine Biological Laboratory, 40: 67–96. 

— Morino H. 1975. Studies on the Talitridae (Amphipoda, Crustacea) in Japan II.taxonomy of sea-shore Orchestia with notes on the habitats of Japanese sea-shore talitrids. Publications of the Seto Marine Biological Laboratory, 22(1–4): 171–193.

— 森野浩 1991. ヨコエビ目. In: 青木淳一(ed.) 『日本産土壌動物検索図説』. fig.203–219.  東海大学出版会, 東京. [ISBN: 978-4-486-01156-9]

— 森野浩 1999. ヨコエビ目. In: 青木淳一(ed.) 『日本産土壌動物 -分類のための図解検索』. pp.626–644. 東海大学出版会, 東京. [ISBN:978-4-486-01443-0]

Morino H. 2014a. A New Land-hopper Genus, Mizuhorchestia, from Japan (Crustacea, Amphipoda, Talitridae). Bulletin of the National Museum of Nature and Science, A, 40(3): 117–127. 

Morino H. 2014b. A new Land-hopper species of Bousfieldia Chou and Lee, 1996, from Okinawa, Japan (Crustacea, Amphipoda, Talitridae). Bulletin of the National Museum of Nature and Science, Series A, Zoology, 40(4):201–205.

— 森野浩 2015. ヨコエビ目. In: 青木淳一(ed.) 『日本産土壌動物 第二版-分類のための図解検索』[1]. pp.1069–1089. 東海大学出版会, 東京. [ISBN978-4-486-01945-9]

Morino H. 2020a. The description of two new genera and four new species of the terrestrial Talitridae (Crustacea, Amphipoda) from the Ogasawara and Daito Islands, Southern Japan. Bulletin of the National Museum of Nature and Science, Series A, Zoology, 46(1): 1–23. 

— Morino H. 2020b. Description of Aokiorchestia jajima, A new genus and species from coastal forests in Southern Japan (Crustacea: Amphipoda: Talitridae). The Montenegrin Academy of Sciences And Arts Proceedings of The Section of Natural Sciences, 23: 191–208.

 — Morino H.; Miyamoto H. 2015a. A new Land-hopper genus, Nipponorchestia, with two new species from Japan (Crustacea, Amphipoda, Talitridae). Bulletin of the National Museum of Nature and Science, Ser. A, Zoology, 41(1): 1–13.

 — Morino H.; Miyamoto H. 2015b. Redefinition of Paciforchestia Bousfield, 1982 and description of Pyatakovestia gen. nov. (Crustacea, Amphipoda,Talitridae). Bulletin of the National Museum of Natural Sciences, Ser. A, Zoology, 41: 105–121.

Morino H.; Miyamoto H. 2016b. A new talitrid genus and species, Lowryella wadai, from estuarine reed marshes of Western Japan (Crustacea: Amphipoda: Talitridae). Species Diversity, 21(2): 143–149.

森野浩・向井宏 2016. 砂浜フィールド図鑑 (1) 日本のハマトビムシ類. 海の生き物を守る会, 京都市. 

— 永田樹三 1965. 端脚目 (AMPHIPODA) 概説. In: 岡田要 (ed.) 『新日本動物圖鑑』. 北隆館, 東京.

小川洋 2011. 東京湾のヨコエビガイドブック. open edition ver.1.3. web publication. 140p.

— 小原ヨシツグ 2016. 『ガタガール①』. 講談社. 174p.

笹子由希夫 2011. 日本産ハマトビムシ科端脚類の分布と分子系統解析. 三重大学修士論文.  

— Stephensen, K. 1945. Some Japanese amphipods. Videnskabelige Meddelelser fra Dansk Naturhistorisk Forening I Kobenhavn, 108: 25–88, 33 figs. 

Takahashi T.; Morino H.; Tomikawa K.; Lai Y.-T.; Nakano T. 2020. Molecular phylogenetic position of Minamitalitrus zoltani elucidates a further troglobisation pattern in cave-dwelling terrestrial amphipods (Crustacea: Talitridae). Molecular Phylogenetics and Evolution, 154: 106984.

Takahashi T.; Sawada N.; Nakano T. 2021a. First record of the terrestrial amphipod, Talitroides alluaudi (Chevreux, 1896) (Crustacea, Amphipoda, Brevitalitridae), from Japan. Check List, 17(2): 359–363. 

— Takahashi T.; Sawada N.; Nakano T. 2021b. Occurrence of the terrestrial amphipod Talitroides alluaudi (Crustacea: Amphipoda: Brevitalitridae) on Amami- oshima Island, Japan. Edaphologia, 109: 33–34.


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【補遺】27-II-2022

  • ジョイの顛末に関する記述を適切な表記に修正 
  • Державин (1937) の引用漏れを修正
  • Takahashi et al. (2020) の文献情報および知見を追加 

 

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【補遺2】10-IV-2022

  • 新亜科名のスペルミスを修正


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【補遺3】 (15-VIII-2024)
  • 一部書式設定変更。





続・タイプ標本の値段(2月度活動報告その2)

 

 前回大好評を頂いた?「タイプ標本の値段」の続編です。

 というのも、実際のところ今回寄贈する機関では標本の単価を設定せず管理するのが通例とのことで公文書への金額記載は免れたものの、肝心のタイプ標本が輸送中に紛失するという事態が発生し、改めて評価額の算出が必要となったわけです。

 エクセルファイルを引っ張り出し、 わかりやすいかたちに改変しました。これを某運送会社に提出したわけですが、せっかく作ったので皆さんにも見てもらおうと思います。

 まず、採集したサンプルのリストを以下のような形式にあてはめます。

※以下、数値は全て架空のものです。

 

 日ごとに種の標本数をまとめます.

 

 記載の対象となる種だけ抜き出すか、あるいはその時に他に得られている成果があればそれを含めて表にするか、目的によりルールを決めるとよいでしょう。

  複数種を含める場合、この表を元に種ごとの割合を求めて重みづけします。

 

種の割合=種ごと標本数/全種合計標本数


 次に、採集にかかった実費を計算します。自分で採ったりしている場合は人件費を求めるのが難しいため、今回は採集日ごとに該当する地域および期間の労務単価をもとに手間賃を算出してみます。そして、採集にかかった諸経費(交通費、宿泊費、消耗品費、許可申請費用など)を加算します。これで理屈上は、「ただの自然由来の動植物」である標本を1日ごとに金額化できます。この金額に種の割合を掛け合わせれば、種ごとの経費が出ます。

 

労務単価+交通費+宿泊費+消耗品費


採集の諸経費×種の割合


 次に研究費です。

 とりあえず、年ごとの研究者の平均賃金を調べ、分類にかかった時間を掛けて、種ごとに加算します。これが同定(分類作業)後の標本の総額です。

 これに、標本種別の重みづけを行い、パラタイプの値段を求めます。このへんは全くコンセンサスが得られていないためアレですが、例えば「ホロタイプ70%」「パラタイプ20%」「その他10%」などはいかがでしょうか。

分類(記載)に使用した標本数と、
このうちタイプ標本に選んだ点数


 このパラタイプの合計金額を、論文に使用するパラタイプの点数で割り、これに標本そのもののに付随する実費(瓶、保存液、ラベル等)を足してみます。ちなみに当方がラベルに用いている耐水紙は1枚20円くらいで30平方センチでやっと1円のようです。

 

 こんな感じです。

採集実費+研究費,
タイプ標本の合計金額(9割掛け),
タイプ標本単価,
標本に付随する経費(100円)を足したもの.

 

 

 

2022年2月11日金曜日

ピアレビューが過ぎて・文献紹介『科学を育む査読の技法』(2月度活動報告)

 

 例の記事の後、21年内に納品は完了しています。諸々気がかりなことはありますが、無事出版されることを祈るばかりです。

 後で知ったのですが、どうやら9月後半(20日~24日)「ピアレビュー・ウィーク2021」で、査読について考える時期だったようです。こちらの「エディテージ・インサイト」というサイトでは研究者の活動に役立つコンテンツが提供されていますが、ピアレビューウィークに絡んで査読について考えを深める良い記事がいろいろ読めます。リアルタイムでこの波には乗れませんでしたが、もう少し査読について自分なりに考えてみようと思います。

 

 とりあえず、今回わたしが受けた査読の流れを改めて細かく整理してみます。あくまで「今回の実績」です。

  1. エディターから査読依頼着弾
  2. 規定・ガイドラインの確認
  3. 引用箇所の確認
  4. 関連文献の収集 
  5. 本文の論理性・構造の妥当性・ルールへの適合性の確認
  6. 用語・表現・図表・体裁など細部の確認 
  7. 引用箇所の再確認
  8. シート記入
  9. エディターへ流す

 

 「分類学は文献学」などという言葉を耳にすることもありますが、今回はかなり基本に忠実に文献情報の取り扱いまで確認しました。大枠のロジックに突っ込み所がなかったから細部に取りついた、というわけでもなく、単純に原稿をパッと見た時におかしい点が散見されたのと、今回の被査読論文と同じ著者が携わった過去の仕事で残念な点がいろいろ見受けられていたからです。もちろん、新しく設立されたタクソンの妥当性を補強するよう求めるなど、大枠に関わる部分も疎かにしたわけではありません。そんな感じで取り組みました。


 さて、これもまたエディターへの納品を済ませた後の話ですが、Amazonが『科学を育む査読の技法』(以下、水島 2021)を提案してきました。どうやら Google で「査読」「Peer review」などと検索しまくった影響が多少のタイムラグで反映されてきたようです。遅いよ。 とりあえず読みます。

 

 

水島 (2021) を読む 


 本書は三部構成になっていて、「実験医学」の連載を元に再構成された第一部と、それを踏まえた4人の現役研究者の座談会の様子が記された第二部、および具体的なシチュエーションごとに査読の例文がまとめられた第三部からなります。ここでは主に第一部を読んだ雑感を述べます。

 のっけから 

”通常,査読者は2~4名と少数である.「あなたの動物実験はn数が少ないのでもっと増やすように」などと査読者は指摘してくるが,その一方で査読者のn数は明らかに少ない” 

 などとぶちかます、とんでもない本です。他にも1ページごとに2,3個の至言が転がっていて、読み進めるごとに背筋が伸びる思いがします。

 基本的には大学所属の研究者を読み手に想定しているようですが、コンパクトかつシンプルな文章で非常に読みやすいです。わたしは本書に頻出する「PI」という語すらよく知らないド素人ですが(主任研究員の意とのこと)、豊富な経験に裏打ちされた査読に対する姿勢、ひいては科学者としての物腰に大きな共感と尊敬の念を感じざるを得ませんでした。

 

  査読にあたっての心構えから細かな作業上の工夫まで、階層の異なる様々な事柄が網羅的に論じられています。査読初心者にとっては全てが新鮮なのですが、特に「付けてはいけないコメント」が挙げられているのを読む中で、理解して実施していたこともあれば、おっかなびっくりでやっていて実は良くなかった点も多々ありました。反省。そして同時に、翻ってエディターや査読者にやさしい論文づくりについても知見を深めることができました。

 

 既存の査読システムが多くの問題を抱えていることが、部をまたいで繰り返し指摘されています。そして、それに対する新しいシステムの中身や良い点悪い点が簡潔に紹介されています。生命科学そのものの命運に関わる重たい問題提起ではありますが、感情論や綺麗事が介入してこない、科学者特有のドライな語り口が非常に読みやすいです。折しも「Talor & Francis」が出版までの納期を選べる新しいサービスを立ち上げたとのニュースも耳にして(これはシステムの見直しというより力業のようですが)、様々な問題意識に対してジャーナルが試行錯誤をしている時代の空気が肌で感じられたりもしました。


 全体を通じて、筆者・エディター・査読者の責任分担の重要性と、査読システムの不完全さによってそれぞれが浪費する時間を嘆くメッセージが強く感じられます。そして何といっても第三部の例文の充実度合い。じつは全3部の中で一番ページ数が多いのです。初心者の教科書というよりアンチョコと評するのが適当な気がします。


 

 水島 (2021) を通読して、今回の仕事で査読者として職責を全うできたのか、最後まで答えが出ませんでした。

 特にかなりの時間を割いた引用漏れや表記の適正さの確認は、単純に著者の責任だったのでは、という気がしてきました。「間違いが多いから探して直しといて」ぐらいのコメントで事足りたのかもしれません。

 ただ、わたし自身が件の記載論文で、引用文献の漏れや誤字脱字の類などわざわざエディターや査読者の手を煩わすまでもないくだらないミスに自力で気づけず、査読者から山ほど指摘を貰った身としては、「そんなもん完全に仕上げてきて当然だろ」というように偉そうなことは言えない立場です。特に、標本の体サイズ表記の誤記など、セルフチェックでしか見つけられないミスもあり、冷や汗が出ました。せいぜい「お互い気を付けましょう」みたいなセリフが関の山です。

 そういう意味では著者の責任は極めて重く、査読者は論文の根幹部分に対する新規性・論理性などの確認のみに専念して、ケアレスミスは必要以上に掘り起こさず掲載して恥を晒すスタンスも潔い気がします。ただ、論文が出版されればその著作権は出版社に帰属するため、恥も出版社に帰属する恐れがあります。エディターとは事前に役割分担の意思疎通をしておくべき、ということでしょう。


 そして、自らの文献収集力の低さ。

 これまでも、見かけた論文のリファレンスから読みたいと思ったもの、ブログを書くために集めようとしたもの、そういった時に文献が手に入らないことはありました。そして今回も、1割くらいの文献は入手できませんでした。野良研究者としてやっていく上でこういった不具合は織り込み済でしたが、結果としてムラのあるレビューをエディターへ提出することになりました。今回は論理の根幹には必ずしも関わらない部分でしたが、手に入る文献に制限があるということは、職責を果たせない場面も起こり得るということです。

 そんな中、また時すでに遅しなのですが、ヨーロッパの図書館にしか無いようなレア文献を、現地の人にスキャンしてもらえるというネ申サービスがあることを後から知りました。今回間に合わなかった文献もこのサービスで手に入ることがわかりました。詳細は来月の記事にてご案内する予定です。

 


 

 

<参考文献>

— 水島昇 2021. 『科学を育む査読の技法 +リアルな例文765』. 羊土社, 東京. 164pp.

 

2022年1月4日火曜日

タイプ標本の値段(1月度活動報告)

 

 記載論文をまた書いているわけですが、寄贈先から思わぬ依頼が。

「寄贈するコレクションの評価額を記入してください」

 

 ”世界に一つだけ”のホロタイプは言わずもがな、同じ記載論文で指定されたパラタイプ標本も基本的には替えが利かないもの=pricelessという認識だったので、それは晴天の霹靂ともいえるものでした。

 いやでもよく考えたら、博物館同士で標本をやりとりする時の保険とかの関係で、そういう書類がやりとりされてる様子は見たことありました。

 

 というわけで、何となく決めるのも気持ち悪いので、専門外ながらいろいろと調べてみました。

※数時間で書いた突貫記事です

※実際の標本に関わる数値はあえて不明確に表現しています

 

 

 

地衣類のタイプ標本(ホロタイプ?)

¥172(税別:2017年3月当時の為替レート)

 Scienceに詳しいようだが、読めていない。

 

 

甲虫のパラタイプ標本

¥70,000(税別)

 本種の記載論文 (Zhang & Barclay 2021) においてアクロニムNo.がない標本が2つあるだけに、妙な信憑性がある。この所在不明の1♀1♂は実際のところは小林一秀氏の手元にあると推測されるが、そこから市場に流れたか、あるいは別ルートで出回ったか、当方に確認の術はない。ともかく「パラタイプ標本」を謳う動物の死体にこれだけの値段がついたという事実だけを参考としたい。


 

甲虫のトポタイプ標本

 数千円(ヤフオク)

 数十円で投げ売りされてるのもあり。産地の信憑性もよくわからない。


 

鉱石のトポタイプ標本

¥495,000(税込)/129x96x70 mm, 1,931 g

 動物の標本については基本的に重さを考えないためこれは貴重な情報。

 

 

哺乳類のホロタイプ標本(レプリカ)

 ¥2,800(税別)

 

 

 

ヨコエビのレジン封入標本

 ¥2,000(税別)

 

 

ワレカラのレジン封入標本

  • トゲワレカラ (海鷹祭オンラインストア)

 ¥800(税別)

 

 

ヨコエビの透明化標本

¥3,600(税別)

 

 

ヨコエビの乾燥標本

 ~¥13,000(税別)

 

 

  今回の標本群は足掛けで複数年(実日数にしても数十日)かけて得られた4桁オーダーの個体からなります。共著者が根気強く採集してくれたものですが、もともと自然界にあったものなので、実質的な金銭的価値は手間賃と考えられます。

 厳密な作業時間はこの際勘案しないとして、例えば採集作業への従事者を1人の「軽作業員」とみなし、該当期間の公共事業労務単価表からタイプ産地における人件費を拾いました。

 これらの数値をもとに全ての標本を集めるのにかかった人件費を求めて単純に標本の個体数で割り、送料やら薬品代やら瓶の値段やらを加えて丸めると、1個体あたり¥1,000程度でした。海外採取のアカントガンマルスは比較対象にならないとして、国内採取の鳥羽水族館と比較してもお安い。採集方法や処理方法が異なる点、またこの算出方法では標本の個体数により単価が大きく変動することを考慮すると、数千円という幅で概ね一致したものと考えてよさそうです。

 

 問題は、これがタイプ標本だった場合です。ヨコエビにおいてタイプシリーズに値段がついた例を私は知りません。

 今回軽くググった中では、ヤフオクで売られていた Psalidocoptus satori が唯一参考になりそうな例です。これは記載されたばかりという話題性もさることながら、前胸の鋭い棘や大きく盛り上がった前翅に走る力強い溝など、造形的にもマニア受けすること請け合いである。ヤフオクで他の海外産のビジュアル系カミキリムシを探してみると、だいたい数千円~5万円程度でした。このことから、「目新しい新種のパラタイプ」であるという付加価値に相当する掛け率は1.5~25倍の幅の中に存在すると考えます。

  ただし、今回の記載論文におけるパラタイプ標本を得るには前述の多量の標本からの厳選という過程が不可欠だったので、そのレアリティも考慮する必要があります。というわけで、論文に使用したパラタイプの点数で前述の人件費を割ると、だいたい¥10,000になりました。

 加えて、パラタイプ標本を指定する論文にも手間がかかっています。前作では牛歩の如く足掛け4年かかっているので記載論文にかけた時間を正確に算出するのは難しいですが、体感として自分以外に原稿のチェックをしてもらう時間も含めて1種につき半月ぐらいかかっているので、雇用統計から「研究者」の時給を拾って加え、1種あたりのパラタイプ標本の点数で割り、前述の備品の費用を加えると、やはりだいたい¥10,000になりました。


 

 結論。

 どんぶり勘定にどんぶり勘定を重ねた結果、 今回のパラタイプ標本の値段は1点あたり20,000円と算出されました。カミキリムシを参考に算出した掛け率の幅には一応収まります。タイプシリーズに含まれない標本や論文そのものの経済的な価値が重複して計上されてはいますが…

  本来は送料や交通費などもかかるはずで、実際に公文書に記載する数値は上記とは異なります。あくまで思考実験とお考え下さい。

 

 

 

 (参考文献)

Matsubara, S. Miyawaki, R.; Hirokawa, K. 2003. Niigataite, CaSrAl3(Si2O7)(SiO4)O(OH): Sr-analogue of clinozoisite, a new member of the epidote group from the Itoigawa-Ohmi district, Niigata Prefecture, central Japan. Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 98: 118129.

  Zhang Y. ; Barclay M. V. L., 2021. A remarkable new species of Prioninae (Coleoptera: Cerambycidae) from Guadalcanal, Solomon Islands. Faunitaxys, 9(22): 1–5.

 

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補遺 (15-VIII-2024)
・一部書式設定変更。

 

2021年12月27日月曜日

2021年新種ヨコエビを振り返って(12月度活動報告)

 

 今年も新種を振り返ります。 
 
 
※2017年実績
※2018年実績 
※2019年実績
※2020年実績
 

 記載者については、基本的に論文中あるいは私信で明言のある場合につけています。今年は千葉県沖の深海底からワレカラの新種等もありましたが、本稿では旧ヨコエビ亜目に含まれる分類群のみを対象としております。


New Species of
Gammaridean Amphipods
Described in 2021

(Temporary list)

 

 

January


Hadjab et al. (2021)

Echinogammarus monodi

 アルジェリアから Echinogammarus 属の新種を記載。2020年12月に公開されましたが論文の巻号が21年であったため今年としました。無料で読めます。

 

 

Lee and Min (2021)

Pseudocrangonyx deureunensis

Pseudocrangonyx kwangcheonseonensis

Pseudocrangonyx hwanseonensis

 韓国の鍾乳洞からメクラヨコエビ属の3新種を記載。形態と分子の手法を併用しています。18種の系統樹を描くとともに、韓国に産する13種の検索表を提供。本文は無料。

 

 

Bargrizaneh, Fišer and Esmaeili-Rineh (2020)

Niphargus yasujenis

Niphargus nasrullahi

 イランの地下水系から Niphargus属 の2新種を記載。分子と形態をともに検討しています。3月時点では無料で読めることを確認。



February

 

Heo and Kim (2021)

Opisa parvimana

  韓国から Opisidae科 フトヒゲソコエビ類 の1新種を記載するとともに、本邦で記載されていた Opisa takafuminakanoi の新産地を報告。本文までタダで読めます。

 

 

Tomikawa, Watanabe, Tanaka and Ohara (2021)

Princaxelia marianaensis

  マリアナ海溝から Pardaliscidae科 の1新種を記載。昨年記載されそうでされなかった種です。この属は肉食性で、他の深海ヨコエビを捕食する様子が Nスぺ で紹介され、お茶の間に届けられたこともあります。科以下の和名は未提唱のようです。本文までタダで読めます。

 

 

Shimomura and Fujita (2021)

Seborgia cavernicola ドウクツミジンヨコエビ

 沖縄の海中洞窟からセバヨコエビ科の1新種を記載。Seborgia属9種の検索表を提供。本文は有料。



Alves, Lowry, Neves and Johnsson (2021)

Panamapisa guaymii

 パナマから センドウヨコエビ科 の1新属新種を記載。パナマ地峡からセンドウヨコエビ科が出たのは初めてとのこと。第3尾肢が長いことで有名な本科ですが、この属は特にその特徴が発達しています(カラー写真)。アブストにまあまあ詳しい他属との識別点を掲載。



Bichang'a, Kioko, Liu, Li and Hou (2021)

Floresorchestia mkomani Bichang’a and Hou in Bichang'a, Kioko, Liu, Li and Hou, 2021

 ケニアから ハマトビムシ Talitridae 科 Floresorchestiinae亜科 の1新種を記載(カラー写真)。加えて、同じ亜科の Gazia gazi Lowry & Springthorpe, 2019 を再記載。



Conlan, Desiderato and Beermann (2021)

Jassa laurieae 

Jassa kimi

 とんでもない大論文が出ました。世界中の博物館からカマキリヨコエビ属を集めて分子系統解析を行うとともに、形態分類における新たな知見を紹介しています。膨大な標本から導き出される結論の説得力に圧倒されます。



Wei, Dong, Huang, Du, Hegna, Lian and Audo (2021)

Gammaroidorum yooling

 中国から新第三紀のヨコエビが記載されました。




March


Ogawa, Takada and Sakuma (2021)

Haustorioides furotai Ogawa in Ogawa, Takada and Sakuma, 2021 ウスゲナミノリソコエビ

  東京湾から ナミノリソコエビ科 Dogielinotidae の1新種を記載。分子解析の結果に基づき、WoRMS(2021年3月22日閲覧)等で適格とされていた Eohaustorioides属 を新参シノニムとして抹消するとともに、この属ありきで定義されていた Parhaustorioides属 も抹消。これによって、ナミノリソコエビ科は 9属 となりましたが、いまだに十分な検討が済んでいないと思います。ナミノリソコエビ Haustorioides属 10種の検索表を提供。SDなので本文は無料で読めます(そのためにSDに投稿しました)。論文の背景等についてはこちらに。

 

 

Ariyama (2021a)

Mucrocalliope ryukyuensis リュウキュウトゲゲンコツヨコエビ

 沖縄から ゲンコツヨコエビ科 トゲゲンコツヨコエビ属 の1種を記載。メリケンサックのような和名がついていますが、”拳骨”部分ではなく背中にトゲが生えているグループです。また、昨年新産地が報告された (司村 2020) ことで話題になっている シオカワヨコエビ Paracalliope dichotomus についても線画付きで報告しています。

 

 

 April

 

Suklom, Danaisawadi and Wongkamhaeng (2021)

Floresorchestia kongsemae

 タイのカセサート大学構内から ハマトビムシ科 Floresorchestiinae亜科 の1新種を記載。人工的に造成された池の周辺で採取されたとのこと。タイ国内においてこの属は F. boonyanusithii Wongkamhaeng et al., 2016 と F. buraphana Wongkamhaeng et al., 2016 に次いで3種目とされています。さすがpensoft、本文は無料です。

 

 

 Gibson, Hutchins, Krejca, Diaz and Sprouse (2021)

Stygobromus bakeri

  テキサスの地下水系・トリニティ帯水層およびエドワーズ帯水層から暗居性ヨコエビの1新種。

 

 

Lörz and Horton (2021)

Amathillopsis inkenae

 大西洋の新海域から リュウコツヨコエビ Amathillopsidae科・リュウコツヨコエビ Amathillopsis属 の1新種を記載。Cleonardopsis属を含む近縁16種のリストと、リュウコツヨコエビ属14種の形態マトリクスを掲載。また、既往研究におけるリュウコツヨコエビ属の写真記録について緯度経度や水深を整理し、考察を試みています。本文は無料です。

 

 

Marin, Krylenko, Palatov, (2021a)

Niphargus bzhidik 

 ロシア南部のゲレンジーク—トゥアプセ地方から Niphargus属の1新種を記載。本文は有料ですが、アブストにわりと形態の特徴が記されています。



Iwasa-Arai, Siqueira, Segadilha and Leite (2021)

Ampithoe thaix Siqueira and Iwasa-Arai in Iwasa-Arai, Siqueira, Segadilha and Leite, 2021
Elasmopus gabrieli
Siqueira and Iwasa-Arai
in Iwasa-Arai, Siqueira, Segadilha and Leite, 2021
Eusiroides lucai
Siqueira and Iwasa-Arai in Iwasa-Arai, Siqueira, Segadilha and Leite, 2021

  南大西洋の火山島・トリンダデ島周辺海域のアミジグサ属から 4科6属9種 のヨコエビおよび 2種 のタナイスを報告。このうちヨコエビについては 3種 を新種として記載しています。トリンダデ島はブラジル沖 1,160km に位置し、より大陸に近いアブロルホス島よりヨコエビの種数は少ないものの固有種の割合が高いことが示されたとのことです。7種の落射光写真を掲載。本文まで無料で読めます。

 

 

May

 
Talhaferro, Bueno, Pires, Stenert, Maltchik and Kotzian (2021)

Hyalella minuana

Hyalella lagoana

Hyalella sambaqui 

 Hyalella属 の3新種を記載。これで Hyalella属 は、ブラジルからは33種、アメリカ大陸から83種になったとのことです。主に形態の情報を使っているようです。本文は有料。

 

 

Weston, Espinosa-Leal, Wainwright, Stewart, González, Linley, Reid, Hidalgo, Oliva,  Ulloa, Wenzhöfer, Glud, Escribano and Jamieson (2021)

Eurythenes atacamensis 

 ペルー:チリ海溝の深海域からオキソコエビ類の1新種を記載。成長段階によって深度を棲み分けているようです。本文は無料で読めます。

 

 

Alther, Bongni, Borko, Fišer and Altermatt (2021)

Niphargus arolaensis

  スイスにおいて、井戸水の組み上げ施設で市民が収集したサンプルの中から1新種を記載。本文は無料で読めます。


 

Walters, Cannizzaro, Trujillo and Berg (2021)

Gammarus langi

Gammarus percalacustris

Gammarus colei

Gammarus malpaisensis

  チワワ砂漠北部より Gammarus lacustris 種群の隠蔽種4種を記載。出版は2020年11月のようですが、6月発行の雑誌に掲載されたため今年分でカウントしています。本文は有料。

 

 

Labay (2021)

Hendrycksopleustes neimanii
Neopleustes boecki pacifica
Neopleustes pulchellus asiaticus

 サハリンのテングヨコエビ科亜科のをレビューするとともに、新属 Hendrycksopleustes を設立。この新属に含まれる1新種と、別の属に含まれる種に対して2亜種を記載。ここ20年の論文で亜種を使っているのはほぼ Labay だけのような気がします。この亜科に含まれる全属の検索表と、 Neopleustes属 および Shoemakeroides属 の種までの検索表を提供。本文は有料。

 

 

 

 June

 

Kodama and Kawamura (2021)

Carinocleonardopsis seisuiae セイスイミノヨコエビ

 熊野灘の水深190–195 mから、1新属1新種の記載。Carinocleonardopsis ミノヨコエビ属の設立とともに、Amathillopsidae科に「リュウコツヨコエビ」との和名を提唱しています。Cleonardopsinae亜科全体についてもレビューを実施。本文は今のところ無料で読めるようです。

 

 

Tong, Hao, Liu, Li and Hou (2021)

Floresorchestia xueli

 中国雲南省からハマトビムシの1新種。本文は有料ですが、アブストにわりと詳しく形態の記述があります。

 

 

Tomikawa and Kimura (2021)

Jesogammarus (Jesogammarus) acalceolus シツコヨコエビ

 弘前の清水(シツコ)から キタヨコエビ科 Anisogammaridae の1新種を記載。喪失リスクが高い冷涼な湧水中に生息することから、絶滅の危機に瀕していることが強調されています。また、本種は本属で唯一触角にカルセオライを欠くとのことで、進化上も極めて重要な種といえます。本文は無料で読めます。

 

 

Limberger, da Silva Castiglioni and Graichen (2021)

Hyalella longipropodus

 ブラジル南部から Hyalella属の1新種を記載。




Marin & Palatov (2021a)

Lyurella mikhailovi 

Lyurella fanagorica 

Lyurella fontinalis 

Lyurella asheensis 

 2種のみが知られていたマミズヨコエビ科 Lyurella属に、一気に4新種を追加。本文は有料。

 

 

Azman (2021)

Nuuanu othmani 

 マレイシアから Nuuau属 の1新種を記載。本文は有料ですがアブストに詳細な形態記述があります。

 



July


Yanrong, Zhu, Sha and Ren (2021)

Liuomelita mollipalma

 沖縄トラフからメリタヨコエビ科の1新属新種を記載。

 

 

Esmaeili-Rineh and Mirghaffari (2021)

Niphargus hegmatanensis 

 イランから Niphargus属  の1新種を記載。イラン産全種の同属種との遺伝的差異を検討しています。本文まで無料で読めます。

 

Marin and Palatov (2021b)

Echinogammarus mazestiensis 

 コーカサスから Echinogammarus 属の1新種を記載。本文は有料。

 


September

 

Marin, Krylenko and Palatov (2021b)

Niphargus utrishensis Marin and Palatov in Marin, Krylenko and Palatov, 2021

Niphargus novorossicus Marin and Palatov
in Marin, Krylenko and Palatov, 2021

Niphargus alisae Marin, Krylenko and Palatov in Marin, Krylenko and Palatov, 2021

Niphargus ashamba Marin, Krylenko and Palatov in Marin, Krylenko and Palatov, 2021

Niphargus malakhovi Marin and Palatov in Marin, Krylenko and Palatov, 2021

Niphargus dederkoyi Marin and Palatov in Marin, Krylenko and Palatov, 2021

 ルーマニア,クリミア,コーカサス山麓南西部の黒海北岸地域から Niphargus属の6新種を記載。美しい黒バックの全身写真に加え、プレパラートの透過光写真のみで付属肢の形態を表現し、背面の棘状剛毛についてはSEM写真を使うなど、線画を使わない姿勢が貫かれています。オス第3尾肢が伸長する N. “tauricus” 種群の検索表を提供。隠蔽種の整理に留まらず、種分化の時期や分布を進化学的に考察。本文は無料で読めます。



November


Ariyama (2021b)

Metodius cyanomaculatus  ルリホシスベヨコエビ

Metodius leucomaculatus  シラホシスベヨコエビ

Postodius albifacies シロガオスベヨコエビ

Postodius sanguineus チゴケスベヨコエビ

 カワリスベヨコエビ属 Metodius を設立するとともに2新種を記載。さらに ヒメスベヨコエビ属 Postodius の2新種を記載。チゴケスベヨコエビの「チゴケ」とは付着基質の チゴケムシ属(血苔虫)Watersipora に由来するとのことで(有山私信)、擬態しているのか模様も似ています。本種は4歳児が採取したタイプ標本に基づいて記載されたとのことで、そのご褒美を巡って「バズった分だけ◯◯する」方式を採ったところ、Twitter民の悪ノリ便乗が相次ぎ大いにバズりハフポスに取り上げられ、挙句に Yahoo! News のトップを飾りました。結局「新種採集のご褒美」は46.2万円になったとのことです。ここまで Twitter を沸かせたヨコエビというのも珍しいです。

 日本人研究者が責任著者となった記載論文で Lowry and Myers (2017) の亜目体制が採用されたのは初めてっぽいです。狭義のスベヨコエビ科6属と、改めてヒメスベヨコエビ属6種の検索表を提供。あと面白いところといえば、体長の計測方法が独特です。本文は有料ですが、「ややこしい和名を変えろ」だの「発見者に献名しろ」だの好き勝手言ってる Twitter民の果たして何%が課金して原典に当たったのかは分かりません。

 

 

Green, Appadoo, Lowry and Myers (2021)

Mauritiorchestia fayetta

 モーリシャスからハマトビムシ科の新属新種を記載。本文は有料。

 

 

Mamos, Jażdżewski, Čiamporová‑Zaťovičová, Čiampor Jr. and Grabowski (2021)

Gammarus stasiuki Jażdżewski, Mamos and Grabowski, 2021

 ポーランド山間の渓流からヨコエビ属の1新種を記載。ポーランド出身の作家アンジェイ・スタシュクに献名されています。



Cummings, Araujo, Andrade and Senna (2021)

Dulichiella brunoi

  ブラジルからメリタヨコエビ科 Melitidae ウチデノコヅチ属の1新種を記載。既知全種の検索表を提供。本文は有料ですが、アブストに詳細な形態の記述があります。ウェブ版の公開は2022年ですが、出版は2021年11月1日になるようです。

 



December

 

Andrade, Alves-Júnior, Bertrand & Senna (2021)

Cyphocaris boecki

 ブラジルからネコゼヨコエビ属の1新種を記載。本文まで無料で読めます。

 

 

Shin and Coleman (2021)

Ampithoe changbaensis

 韓国からヒゲナガヨコエビ属の1新種を記載するとともに、モスクワに保存されていた Ampithoe tarasovi ヨツデヒゲナガのホロタイプ標本を再記載しています。Zookeys なので本文まで無料で読めます。

  この Ampithoe changbaensis という種は Shin et al. (2010) で”ヨツデヒゲナガ”として報告されていたもので、全身の色素斑が描画されるなど、Bulycheva (1952) による原記載では読み取れない部分を参照するのに有用でした。しかし、どうやら原記載とは異なるように思える部分もありました。日本でも”Bulycheva のヨツデヒゲナガ"”と”Shin のヨツデヒゲナガ”それぞれに似ている個体が見つかっていたことから、別種ではないかと囁かれていました。私はこれらの種を千葉と岡山で少数ながら得ていて、ヨツデヒゲナガは緑藻が優占する甘めで湾奥的な砂泥底環境、A. changbaensis は紅藻や褐藻が優占する岩礁で得られる印象があります。

 本論文では A. changbaensis の所見でヨツデヒゲナガとの識別点が示され、それに続いてヨツデヒゲナガの再記載も行われているため、両者の同定が可能です。しかし個人的に、採用されている形質には不満があります。手元のサンプルを同定する際には、識別形質として示されている全ての特徴を確認して、慎重に判断する必要があると思います。

 ちなみに、岡山県野生生物目録(坂本ほか 2020)で”ヨツデヒゲナガ”としているのは Bulycheva の原記載を参照して同定した個体で、本論文を受けての学名変更はありません。

 


Zhang, Wang, Ge and Zhou (2021) 

Gammarus zhouqiongi

 新疆ウイグルの淡水からヨコエビ属の1新種を記載。形態での記載とともに、CO1,16S,28S, EF1α領域を解析し、7種の系統樹を描いています。9種の検索表を提供。本文は無料で読めます。

 


Esmaeili-Rineh and Shabani (2021)

Gammarus ilamensis 

 イランからヨコエビ属の1新種を記載。本文は無料。



 というわけで、2021年のヨコエビの新種は 56 60 61 62 63 種(2亜種)となりました。

 当方も積み新種を処理中ですのでお待ちください。

 

 

(特記事項)

  • Winfield and Herrera-Dorantes (2021) は 、メキシコ湾の大陸棚と深部からカマキリヨコエビ属 Jassa 数種を報告。うちモリノカマキリヨコエビ J. morinoi についてはメキシコ湾から初記録、そして新種として J. mendozai を記載しました。しかしこの種は Conlan et al. (2021) において、J. valida のシノニムとされてしまいました。
  • Rogers et al. (2021) という文献で「Hyalella n. sp.」との文言が見つかりましたが、”We will describe this new species after we collect more material” などと述べており、飛ばしのようです。記載行為を含まない文献中で n. sp. という表記が成立する理屈については、全く理解できませんでした。
  • クチバシソコエビ科の4新種の記載について情報が流れていますが、巻号が2022年分なので今回は採り上げていません。

 

 

 

<2021年記載論文>

Alther, R.; Bongni, N.; Borko, Š.; Fišer, C.; Altermatt, F. 2021. Citizen science approach reveals groundwater fauna in Switzerland and a new species of Niphargus (Amphipoda, Niphargidae). Subterranean Biology, 39: 1–31.

Alves, J.; Lowry, J. K.; Neves, E. G.; Johnsson, R. 2021. A new genus and species, Panamapisa guaymii gen. nov. sp. nov., the first record of the family Eriopisidae Lowry & Myers, 2013 from Central America. Zootaxa, 4927(2). 

Andrade, L.F.; Alves-Júnior, F.A.; Bertrand, A.; Senna, A.R. 2021. A New
Species of Cyphocaris Boeck, 1871 (Amphipoda: Lysianassoidea: Cyphocarididae): Found off the Rocas Atoll, Northeastern Brazil. Taxonomy, 1: 360–373.

Ariyama H. 2021a. Two Species of Paracalliopiidae from the Ryukyu Archipelago in Japan, with the Description of a New Species (Crustacea: Amphipoda). Species Diversity, 26(1): 7991.

Ariyama H. 2021b. Five species of the family Odiidae (Crustacea: Amphipoda) collected from Japan, with descriptions of a new genus and four new species. Zootaxa, 5067(4): 485–516.

Azman, B. A. R. 2021. Description of Nuuanu othmani sp. nov. (Amphipoda, Nuuanuidae) from the Strait of Malacca (Malaysia) with identification keys to females of Nuuanu species. Crustaceana, 94: 731741.

 Bargrizaneh, Z.; Fišer, C.; Esmaeili-Rineh, S. 2021. Groundwater amphipods of the genus Niphargus Schiødte, 1834 in Boyer-Ahmad region (Iran) with description of two new species. Zoosystema, 43(7): 127144.

Bichang'a, J.S.; Kioko, E. N.; Liu, H.; Li, S.; Hou, Z. 2021. Two species of Talitridae (Crustacea, Amphipoda) from Kenya. Zootaxa, 4927(3).

Conlan, K. E.; Desiderato, A.; Beermann, J. 2021. Jassa (Crustacea: Amphipoda): a new morphological and molecular assessment of the genus. Zootaxa, 4939(1).

— Cummings, C. M.; Araujo, F. V.; Andrade, L. F.; Senna, A. R. 2022. A new species of Dulichiella Stout, 1912 (Amphipoda: Melitidae) from Guanabara Bay, Rio de Janeiro, Brazil. Journal of Natural History, 55: 33–34. 

Esmaeili-Rineh, S.; Mirghaffari, S. A. 2021. Niphargus hegmatanensis sp. nov. (Crustacea, Amphipoda, Niphargidae), a new species from subterranean freshwaters of western Iran. Iranian Journal of Fisheries Science, 20(4): 10491063. 

— Esmaeili-Rineh, S.; Shabani, S. 2021. A new species of freshwater amphipod of the genus Gammarus from Iran. North-western Journal of Zoology, 17 (2): 170-179.

 —  Gibson, R.; Hutchins, B. T.; Krejca, J. K.; Diaz, P. H.; Sprouse, P. S. 2021. Stygobromus bakeri, a new species of groundwater amphipod (Amphipoda, Crangonyctidae) associated with the Trinity and Edwards aquifers of central Texas, USA. Subterranean Biology, 38: 1945.

Green, A.; Appadoo, C.; Lowry, J. K.; Myers, A. A. 2021. A new genus and species of sand-hopper, Mauritiorchestia fayetta gen. nov., sp. nov. (Amphipoda, Talitridae) from Mauritius. Zootaxa, 5068(2): 295–300.

Hadjab, R.; Ayati, K.; Piscart, C. 2021. A new species of freshwater amphipods Echinogammarus (Amphipoda, Gammaridae) from Algeria. Taxonomy, 1: 36–47.

Heo, J.-H.; Kim, Y.-H. 2021. A new species of the genus Opisa Boeck, 1876 (Crustacea, Amphipoda, Opisidae) and a new record for Opisa takafuminakanoi from the East Sea, South Korea. ZooKeys, 1015: 99-113.

Iwasa-Arai, T.; Siqueira, S. G. L.; Segadilha, J. L.; Leite, F. P. P. 2021. The Unique Amphipoda and Tanaidacea (Crustacea: Peracarida) Associated with the Brown Algae Dictyota sp. From the Oceanic Trindade Island, Southwestern Atlantic, With Biogeographic and Phylogenetic Insights. Frontiers of Marine Science, 8:641236.

Kodama M.; Kawamura T. 2021. Review of the subfamily Cleonardopsinae Lowry, 2006 (Crustacea: Amphipoda: Amathillopsidae) with description of a new genus and species from Japan. Journal of the Marine Biological Association of the United Kingdom, 1–11.

Labay, V. S. 2021. Review of amphipods of the family Pleustidae Buchholz, 1874 (Crustacea: Amphipoda) from the coastal waters of Sakhalin Island (Far East of Russia). I. Subfamily Neopleustinae Bousfield & Hendrycks, 1994. Zootaxa, 4974(2).

Lee C.; Min G. 2021. Three new species of subterranean amphipods (Pseudocrangonyctidae: Pseudocrangonyx) from limestone caves in South Korea. PeerJ, 9:e10786 

Limberger, M.; Da Silva Castiglioni, D.; Graichen, D. Â. S. 2021. A new species of freshwater amphipod (Crustacea, Peracarida, Hyalellidae) from Southern Brazil. Zootaxa, 5026 (2): 182–200.

Lörz, A.-N.; Horton, T. 2021. Investigation of the Amathillopsidae (Amphipoda, Crustacea), including the description of a new species, reveals a clinging lifestyle in the deep sea worldwide. ZooKeys, 1031: 1939.

Mamos, T.; Jażdżewski, K.; Čiamporová‑Zaťovičová, Z.; Čiampor Jr., F.; Grabowski, M. 2021. Fuzzy species borders of glacial survivalists in the Carpathian biodiversity hotspot revealed using a multimarker approach. Scientific Reports, 11: 21629.

Marin, I.; Krylenko, S.; Palatov, D. 2021a. The Caucasian relicts: a new species of the genus Niphargus (Crustacea: Amphipoda: Niphargidae) from the Gelendzhik–Tuapse area of the Russian southwestern Caucasus. Zootaxa, 4963(3).

— Marin, I. N.; Krylenko, S. V.; Palatov, D. M. 2021b. Euxinian relict amphipods of the Eastern Paratethys in the subterranean fauna of coastal habitats of the Northern Black Sea region. Invertebrate Zoology, 18(3): 247–320.

Marin, I. N.; Palatov, D. M. 2021a. The hidden diversity of the genus Lyurella Derzhavin, 1939 (Crustacea: Amphipoda: Crangonyctidae): four new species from the subterranean habitats of the northwestern Caucasus, Russia. Zootaxa, 5006(1): 127–168.

Marin, I.; Palatov, D. 2021b. New and non-alien: Echinogammarus mazestiensis sp.n. from the southwestern Caucasus. Zoology in the Middle East, 67: 309320.

Ogawa H.; Takada Y.; Sakuma K. 2021. A new species of the sand-burrowing Dogielinotidae, Haustorioides furotai, from Tokyo Bay, Japan (Crustacea: Amphipoda). Species Diversity, 26: 65–78. 

Shimomura M.; Fujita Y. 2021. Seborgia cavernicola sp. nov. from a submarine cave on Okinawa Island, Ryukyu Islands, southwestern Japan (Crustacea, Amphipoda, Seborgiidae). Zootaxa, 4927(1).

Shin M.-.H; Coleman, C. O. 2021. A new species of Ampithoe (Amphipoda, Ampithoidae) from Korea, with a redescription of A. tarasovi. ZooKeys, 1079: 129–143.

 — Suklom, A.; Danaisawadi, P.; Wongkamhaeng, K. 2021. Floresorchestia kongsemae sp. n. a new species (Crustacea: Amphipoda: Talitridae) from Kasetsart University, Bangkok, Thailand. Biodiversity Data Journal, 9: e63197.

Talhaferro, J. T.; Bueno, A. A. P.; Pires, M. M.; Stenert, C.; Maltchik, L.; Kotzian, C. B. 2021. Three new species of Hyalella (Crustacea: Amphipoda: Hyalellidae) from the Southern Brazilian Coastal Plain. Zootaxa, 4970(2).

Tomikawa K.; Kimura N. 2021. On the Brink of Extinction: A new freshwater amphipod Jesogammarus acalceolus (Anisogammaridae) from Japan. Research Square.

— Tomikawa K.; Watanabe H. K,; Tanaka K.; Ohara Y. 2021. A new species of Princaxelia from Shinkai Seep Field, Mariana Trench (Crustacea, Amphipoda, Pardaliscidae). ZooKeys, 1015: 115-127.

Tong Y.: Hao J.: Liu H.: Li S.: Hou Z. 2021. Floresorchestia xueli, a new terrestrial crustacean (Amphipoda, Talitridae) from Yunnan, China. Zootaxa, 4991(2): 318–330.

Walters, A. D.; Cannizzaro, A. G.; Trujillo, D. A.; Berg, D. J. 2021. Addressing the Linnean shortfall in a cryptic species complex. Zoological Journal of the Linnean Society, 192(2)277–305.

— Wei, Y.-F.; Dong, A.-G.; Huang, D.-Y.; Du, Y.-W.; Hegna, T. A.; Lian, X.-N.; Audo, D. 2021. Amphipoda from the Late Neogene of Shanxi, China. Palaeoentomology, 4(1).

Weston, J. N. J.; Espinosa-Leal, L.; Wainwright, J. A.; Stewart, E. C. D.; González, C.a E.; Linley, T. D.; Reid, W. D. K.; Hidalgo, P.; Oliva, M. E.; Ulloa, O.; Wenzhöfer, F.; Glud, R. N.; Escribano, R.; Jamieson, A. J. 2021. Eurythenes atacamensis sp. nov. (Crustacea: Amphipoda) exhibits ontogenetic vertical stratification across abyssal and hadal depths in the Atacama Trench, eastern South Pacific Ocean. Marine Biodiversity, 51: 51. 

Yanrong, W.; Zhu, C.; Sha, Z.; Ren, X. 2021. Liuomelita mollipalma, a new genus and species of Melitidae (Amphipoda: Hadzioidea) from hydrothermal vents of the Okinawa Trough, North-West Pacific. Journal of Natural History, 55(19–20): 1299–1310.

— Zhang K.; Wang J.; Ge Y.; Zhou Q. 2021. A new Gammarus species from Xinjiang Uygur Autonomous Region (China) with a key to Xinjiang freshwater gammarids (Crustacea, Amphipoda, Gammaridae). ARPHA Preprints

 

 

<その他参考文献>

—Bulycheva, A. I. 1952. Novue vidy bokoplavov (Amphipoda, Gammaridea) iz Japonskogo Morja. Akademii︠a︡ nauk SSSR, Trudy Zoologicheskogo instituta, 12: 195−250.

—  Lowry, J. K.; Myers, A. A. 2017. A phylogeny and classification of the Amphipoda with the establishment of the new order Ingolfiellida (Crustacea: Peracarida). Zootaxa, 4265(1): 1–89.

Rogers, D. C.; Cruz-Rivera, E. 2021. A preliminary survey of the inland aquatic macroinvertebrate biodiversity of St. Thomas, US Virgin Islands, Journal of Natural History, 55: 13–14, 799-850.

— 坂本明弘・中田和義・福田宏 2020. 12 汎甲殻類. In: 岡山県自然環境課 (編) 岡山県野生生物目録2019. Ver1-2.

— 司村宜祥 2020. 久米島からシオカワヨコエビを記録. 兵庫陸水生物, 71: 69−70.

Shin M.-H.; Hong J. S.; Kim W. 2010. Redescriptions of two ampithoid amphipods, Ampithoe lacertosa and A. tarasovi (Crustacea: Amphipoda), from Korea. The Korean Journal of Systematic Zoology, 26: 295–305.

Winfield, I.; Herrera-Dorantes, M. T. 2021. Distribution of genus Jassa (Amphipoda, Ischyroceridae) in the Bay of Campeche, SW Gulf of Mexico, with a description of a new deepwater species. Bulletin of Marine Science, 97(1): 219–236. 

— Wongkamhaeng, K.; Dumrongrojwattana, P.; Pattaratumrong, M. S. 2016. Two new species of Floresorchestia (Crustacea, Amphipoda, Talitridae) in Thailand. ZooKeys, 635: 31–51.