2016年8月18日木曜日

古代湖のヨコエビ/伊勢のヨコエビ (8月度活動報告その2)


 夏休とれましたので、今一番ヨコエビがアツい念願のあの場所へ。
 誰も止められやしない弾丸のようなツアーです。


〈琵琶湖博物館編〉

Amphipods in Lake Biwa and Lake Baikal


JR草津駅西口正面の2番乗り場からバスに乗り、30分ほどで着きます。

 琵琶湖の生物の紹介でしっかりとヨコエビが



 
Fresh water amphipods from Biwako (Lake Biwa)
 おお…

 琵琶湖はヨコエビ分類学の権威・森野浩博士が長年フィールドとしてきたエリアで、森野博士はバイカルの調査にも関わっています。

 

 ナリタヨコエビJesogammarus naritaiは1985年に森野博士によって記載されたヨコエビで、淡水ヨコエビの代表的なグループであるヨコエビ上科キタヨコエビ科エゾヨコエビ属に分類されます。展示では琵琶湖固有種とされていますが、諏訪湖に生息するスワヨコエビJ. suwaensisをシノニム(同物意名)とする説があり、その場合はわりと離れた地域に分布する種といえます(富川・森野, 2012)。

 


 ニホンオカトビムシPlatorchestia japonica は海水から離れた内陸に生息するハマトビムシ科(オカトビムシ, Land hopper )で、琵琶湖畔から恐らく森林にかけて普通にみられるものと思われます。この種を含むPlatorchestia属の6種を比較した論文(Miyamoto & Morino, 2004)は、日本の主要なオカトビムシ類とハマトビムシ類の資料として非常に重要です。




 ビワカマカKamaka biwaeは淡水域に進出した珍しいドロクダムシ下目の1群カマカヨコエビ科に属します。カマカヨコエビ類はこのほかに国内で2種(北海道:1種,本州:1種)が報告されています(富川・森野, 2012)。属名の由来は東太平洋の小島の名前らしいす。


 でかいアナンデールヨコエビの模型、これが噂の…!

 アナンデールヨコエビJesogammarus annandaleiはナリタヨコエビと同じキタヨコエビ科エゾヨコエビ属に分類される琵琶湖固有種で、近似種が幾つか知られています。本種はリニューアル前の2014年にびわはくで生体展示を行ったことでも話題となりました。  


 少し違和感があったのでよく見てみると、第3,4胸脚が第4底節板から出ていて、第1底節板からは顎脚が生えています。基節と底節とが対応していませんね。また、尾肢が完全に尾節の裏側から出ていて、段差すらあります。 たぶん気にする人なんてほとんどいないってことなんだと思いますが…


琵琶湖の魚類を支えてるのはアナンデールヨコエビなんだぞどうだすごいだろ!Oncorhynchus masou rhodurus eat many Jesogammarus annandalei


 そしてとうとう・・・

Gammarids from Lake Baikal
 

 バイカルも古代湖ということで、そのつながりでの研究らしいす。
 湖の形もどことなく似てる…


アカントガンマルスヴィクトリィAcanthogammarus victorii
 2匹いました。

アカントガンマルスレイヘルティことBrachyuropus reichertii
6匹いました

①|②
― ―
③|④
Acanthogammarus victorii
Acanthogammarus lappaceus
Eulimnogammarus verrucosus
④??

 不勉強で申し訳ありませんが、展示の写真の分類はこんな感じと思われました。

 バイカル湖のヨコエビは276種で、ロシア陸水域のヨコエビ(26科110属581種)の60%を占めます(Takhteev et al., 2015)。しかも全て1つの上科(ヨコエビ上科)に含まれるというから驚きの爆発的進化です。
 海産淡水陸生全て含めた日本のヨコエビの既知種数は400程度ですから、バイカル湖のヨコエビ相の厚さがうかがえるかと思います。


エサとしてアミのようなものが撒かれていました


プランクトンのコーナー。神々しいノロ様。
This Leptodora kindtii is made from Metal

琵琶湖とかほぼ海


〈鳥羽市海岸採集編〉

Amphipods in rocky and sandy coast of Toba shi, Mie ken


 伊勢のヨコエビはイセエビではありません。
 紀伊半島を横断、三重にやって参りました。通過したことはあったはずですが、目的をもって訪れたのは初めてです。

 今回の旅の重要ポイントとなっているのがこの潮です。 海保によると鳥羽の最干潮は12:34の19㎝。 これに遅れてはいけません

 まず駅に近い港の周りを探しますて堤防の先に岩場があります。 見ると小石の多い浜に黒くなったアマモが漂着、風情ある(?)海岸環境を醸しています。

 若干のヨコエビリティを感じてガサるも…空振り…だと…?  どうやら私のヨコエビリティセンサーはフォッサマグナを越えると調整が必要なようです。
 岩の表面にはアオサ類らしき肉厚の緑藻が這うように固着しており、目を凝らすと… モクズヨコエビ類が見えてきました。


 まあまあ大型の不明属がいますが、1種のようです。
 しかしガサれども代わり映えはせず、フナムシLigia exoticaがひたすら大行進する中、時間だけが過ぎていきます。あたりに紅藻などはほとんどなく、これがヨコエビリティの低さの一因のようです。


モクズヨコエビ科Hyalidae

指節が小さいほうのグループに属するモクズヨコエビ類

ドロクダムシ科Corophiidae
Monocorophium属の一種 トンガリドロクダムシかもしれない

  10:30、最干潮まで2時間しかないため、場所を移動。



 別の港の船だまりを覗いてみます。
 港内にアオサUlva sp or spp.は浮いているしかし、深くてまだ行けません。落ちているブロックをひっくり返してもイソガニとフナムシしかいません。これはやばい。



 遠くを見ると、ビーチが見えます。
 これは行くしか・・・

カイ・・・ガン・・・
1km from Toba Station




 ビーチの地先に岩場があります。沖に向けてわりと浅い地形の砂地が広く続いているようです。

アマモZostera marinaたくさん漂着している

 打ち上がったアマモの下にはハマトビムシ種群の一種。
 
ハマトビムシ科Talitridae
オスの第2咬脚を見る限りは東京湾と同種のPlatorchestia pasificaのようです

 三重大学でハマトビムシを研究して修論とした笹子(2011)によると津,志摩で採れているのもP. pasificaとのことで、三重のヒメハマトビムシ種群はP. pasificaが優占していると推測されます。



浅場にアマモが自生していてとてもよい

 砂地には細かな管があります。

Sandy tube of Phyllodocids
   バットに採ってみると、スピオではなくサシバPhyllodocidae gen. sp.の巣のようです。こうした巣があるところ、三番瀬ではよくアリアケドロクダムシが一緒にいますが、全くのノーヒット。コペはいますが、ヨコエビなし。


 石をめくると、ここにはメリタ。
岩の表面は汀線付近まで細かな巣穴の痕跡のある泥が付着していました


メリタヨコエビ科Melitidae
Melita属の一種


 それではとアオサUlva sp. or spp.をかき集めてみると、幾つか見知った顔ぶれです。

全体にアオサ類が浮遊,ところどころにミルや紅藻がくっついていました

ヒゲナガヨコエビ科Amphithoidae
モズミヨコエビAmpithoe valida
第5底節板後縁に毛がないのでたぶんvalida

ユンボソコエビ科Aoridae
Aoroides属の一種

カマキリヨコエビ科Ischroceridae
Jassa属の一種

 バッ トの水面に小さなヨコエビみたいのが浮かんでいて、ヒゲナガヨコエビあたりの子供かと思ってよくみると、細長い繊維のようなものを引っ掻けているものが多数。これ を集めていて違和感がありました。どいつもこいつも長いのをつけてやがる… そしてバットの底にいるものは、長い糸のようなものを振りながら低速で這い回っています… もしかして激レアヨコエビのMaxillipiidae か・・・?
 さてその正体とは・・・

ムンナ科Munnidaeぽい等脚類でした・・・
 
不詳。現場ではアゴナガヨコエビ科Pontogeneiidaeに見えたのだが・・・?


 ミルCodium fragileも洗ってみましたが、こちらのほうもなかなか。

ドロノミ科Podoceridae
第2咬脚に毛が多いのでPodocerus brasiliensisかもしれない
 さて、こうしているうち最干潮を迎えました。これを合図に、本日のもう1つの目的地へと向かいます。




〈鳥羽水族館編〉

Toba Aquarium


 飼育種数日本一を誇る大型水族館です。鳥羽駅からは、さきほどの砂浜とは逆方向に10分ほど歩くと着きます。鳥羽-名古屋間はJR快速みえで2時間、近鉄伊勢志摩ライナーで1時間半と、アクセスにも恵まれ、夏休み中とはいえ金曜である今日もかなりの数の親子連れで賑わっていました

撮影者が写り込んでいます。決してこの画像のコントラストをいじらないでください。

 へんな生き物研究所(通称へん研)はダイオウグソクムシBathynomus giganteus とオオグソクムシB. doederleiniiの生体展示を行っており、グソフリ(グソクフリーク,意:グソクムシ類を愛する人達のこと,今適当に作った言葉)には堪らない構成です。
"Laboratory of Strange Creatures"

へん研のパイプウニの表面にスンナリヨコエビ類Maeridae sp.がいるのはすんなり見つかりました


 世界的にも飼育例の少ない海棲動物の展示数と飼育実績の豊かさは言うまでもなく、生体のみならず標本においてもかなりキテます。


 というのも、何を隠そう鳥羽水族館は世界一高価な貝の落札記録を、米ドルと日本円でそれぞれ保持しているという何ともセレブな水族館で、そういう貴重な貝がどこに置いてあるかといえば、場末のケースの中に、簡単な解説を添えただけという、もう本当にこれがその貝なのという状況なのであります。リュウグウオキナエビスEntemnotrochus rumphiiは1969年に$10,000-で購入したそうな。当時は固定相場だったので360万円になります。(今やオンラインショップにて19万で買えるってよ)
この貝は池澤夏樹の『南の島のティオ』にも登場して、どんな貝なのかと想いを巡らせたりしたこともありましたが、ここには他にも立派なエビス貝や写真でみたことしかない貝も多 く、かなり霞んでしまいました。


成果はのちほど

画になりますなぁ

〈グッズ編〉

びわはく: バイカル湖クリアファイル,バイカル湖Tシャツグッズバイカル湖ヨコエビ置物,身近な生き物図鑑
鳥羽水族館: ガチャ(鳥羽水族館3)

 バイカルのヨコエビ関係でこれほどグッズ化されているとは思っておりませんでした。
 Tシャツに描かれたAcanthogammarus victoriiは第3,4胸脚の指節が二又となっていたり、第2触角が第1底節板から生えているように描画されていて各節がかなり細かったりして、正確とはいえませんが、ディテールの書き込みは大したものです

いろんな生き物が載っているしイラストも解説もとても分かりやすい、しかしこのヨコエビ愛の無さに泣く (Grandidierella japonica
(中西崇雄・横山悦子 2016. 『自然が好きになる たのしい 生きもの図鑑』 NPO法人地域と自然, 名張. ISBN978-4-9903086-1-2) スマホ版もあるってよ


A. victoriiの背面のトゲが見事に表現されています
付属肢を再現しようと試みた形跡が確認されます

  これ\3,456-もするのであまり数は出てないんだと思いますが、それだけ手間がかかってるということだと思います。ヨコエビだもの。こういうので普通は作らないもの。



最近は欲しいガチャを念じるだけで1発で引ける能力を身につけました(ニシキエビPanulirus ornatus



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(参考文献)


-Miyamoto, H. & H. Morino 2004. Taxonomic studies on the Talitridae (Crustacea, Amphipoda) from Taiwan. -II. The genus Platorchestia. Publications of The Seto Marine BiologicalLaboratory, 40(1-2): 67-96.



-Takhteev, V.V., N.A. Berezina, D.A. Sidorov 2015. Checklist of the Amphipoda (Crustacea) from continental waters of Russia, with data on alien species. Arthropoda Selecta, 24(3): 335–370. (In Russian with English abstract)



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