船橋,市川,習志野,浦安に囲まれた東京湾最奥の浅海域・三番瀬。
その三番瀬には、滅多に干出せず、しかし最良の環境をもった、幻の干潟が存在すると言われている。
その名は「沖の大洲」・・・。
噂には聞いていた沖の大洲、実は行ったことありませんでした。
普段の散策会や調査では、歩いて行ける利点がある「ふなばし三番瀬海浜公園」の干潟が鉄板になりがちです。過去に行徳漁協旧潮干狩り場や貝殻島周辺の干潟に船で上陸したこともありますが、沖の大洲はかなり西側(浦安側)に位置しており、三番瀬の中の各漁港からは船でもやや距離があります。
三番瀬を拠点とするNPOでありながら調査や観察会イベントだけをやっていて、自分達の知見を増やす活動が疎かになっているのではと思うところがあり、今回は純粋な干潟遊び・散策をテーマとして、漁船をチャーターしてもらえるという幸運に恵まれ、干潟に向かいました。
最干潮がお昼ということで、2時間前の到着を目指しましたが、 全 く 引 い て い ま せ ん 。
陸からのアタックであれば汀線をうろうろして時間の潰しようがあるものの、ここは海の中。船上で待機かとドキドキしましたが、50cmくらいの場所があったのでとりあえず海中に下りてみました。
ちべたい!!!
どこも引いていないので、 海中から何かを拾い上げていく感じの散策です。
申し遅れましたがちなみに今回、あの「異色の干潟漫画」こと「ガタガール」の作者・小原ヨシツグ先生をお招きしております。
汐ちゃんと同じ道具がリュックから次々と出てきたので萌えました |
アオサや漂流アマモが目立つ中、シロボヤ礁が発見されたため引き揚げてみます。
三番瀬の干潟、特に海浜公園においてカキ礁から外れたカキ殻などの硬質基質が混じることはあるものの、このようなホヤ礁はあまり見たことがありません。シロボヤそのものは干潟との相性が良いようで、カキ礁など付着するのに都合がよさそうな環境の発達度合いに関係なくそのへんで見かけますが、だいたい単体です。
一般論として、付着生物の間にはかなりの密度でヨコエビが棲み込みを行います。
ますはヒゲナガヨコエビ科(Senticaudata亜目)。広義のモズミヨコエビAmpithoe validaと思われますが、成熟したオスは得られておらず、現場での種同定は見送りました。
そしてドロクダムシ科(Senticaudata亜目)。黒い模様が鮮明で、トンガリドロクダムシMonocorophium insidiosumに見えましたが、オスの第2触角の剛毛がほとんど発達しない個体がみられたため違うようです。アリアケドロクダムシM. acherusicumか、はたまた違う種かもしれません・・・
そして、過去の三番瀬でほとんど見たことがないカマキリヨコエビ属Jassa(Senticaudata亜目)が豊作でした。
東浜に打ち上げられたアマモ上にてフトヒゲカマキリヨコエビJassa slatteryiを採取したことがありますが、今回は別種と思われます。
シロボヤの根元には砂泥が固まっていて、Jassaもホヤの根元にへばりつくようにしていました。メスや小型の個体も多く、ここは以前のようにメインの生息地から外れた場所ではなく、世代を繰り返していると考えられます。
そしてこちらは三番瀬初(自己)です。
タテソコエビ科(Amphilochidea亜目)です。
東京湾の中では、例えばお台場の埠頭(硬質基質環境)で、ヒドロ虫の間なんかで見られますが、砂干潟とは縁の薄いヨコエビです。
あちこちに、澪筋や漁業権を示すのに使われる竿が刺さっているので、その周りを確認してみます。
ロープには大量のシロボヤ。どうやらシロボヤ礁の供給源はここのようです。
しょっちゅう干出する干潟面の竿ではこれほどシロボヤが育つことはないのでしょう。沖側の竿まわりで発達したシロボヤが剥がれて干潟面で礁を形成しているようです。
シロボヤの塊をガサるとワレカラがいっぱい |
そうしているうちに、干潟が干出してきました。
さっきまで海の真ん中だった場所に忽然と現れる地面!これはすごい! |
この写真では浦安の地先と近いように見えますが、実際はこの間に澪筋があり、とても歩いて行き来することはできません。
リップルがなかなかいい感じ。三番瀬らしい景色です。 |
周りにはツバサゴカイの棲管のペアがあちこちに見られます。
そのほか、タマシキゴカイのモンブラン、キセワタ、トゲナガクモヒトデ科、そしてマテガイの子供。
ツバサゴカイもマテガイも三番瀬を代表する干潟生物ですが、海浜公園の東浜では今やほとんど見られません。
キセワタがたくさん落ちている場所があった |
トゲナガクモヒトデ科 |
ヒガタチロリ,クモヒトデ,マテガイ,タマシキゴカイなどは干潟面に出てきており、だいぶ参っている様子でした。普段は海の底で涼んでいるということなのでしょう。
ジリジリと焦れったい風な感じの茹でタマシキ |
小魚が多いようです。
横たわっていた竹竿の裏にマハゼの子供 |
ハゼのほか、ヨウジウオ亜目と思われる稚魚。
あと、ヤガラっぽい頭の長いのがいるようでしたが、採取後に拡大した写真を拝見したところ、下顎が長く、サヨリの稚魚のようでした。
フグっぽい影が横切るのも見えました。
杭の間を歩いていると手に当たってピチピチしていたイサザアミ |
小魚が多い要因の一つは恐らくこれです。
バットで適当にすくっただけでこの密度。
三番瀬全体的にアマモの流れ藻が散見されました。
以前、台風の後に富津あたりから流されてきたと思われる大量漂着がありましたが、今回もそれと同じようなことなのか、もっと近くに未知の自生地があるのか、分かりません。
流れコアマモ おそらく三番瀬の中に生えていたもの |
今回は移植アマモの経過観察も兼ねていましたが発見できず。
良くは無いですがトライアンドエラーでまた移植の試みを続けます。
人力で輸送できる程度のボリュームのアマモのパッチができたところで単年でアマモ場が復活するとは思っておらず、生息適地の探索や消失の要因などを探りたいと考えています。
小原先生「マメコブシは縁起が良いので・・・」
小原先生 |
残念ながら、今回はマメコを見つけることができませんでした。
マテの他にはアサリ,シオフキ,アカガイ(の仲間),ホンビノスなどの二枚貝が見られ、スゴカイイソメ,アラムシロ,エイなどの貝食者も多く見つかった中でマメコブシがいないのはなぜなのか、よく分かりません。
潮干狩り場の方が二枚貝の密度が高く、マメコブシの密度も高いのかもしれません。
お わ か り い た だ け た だ ろ う か ? (ツバクロエイ) |
沖の大洲には巨大なビノスが落ちていたりして、深いところの影響はかなり大きいものと推測されました。マメコブシはもっと浅いところが好きなのかもしれません。
ヨコエビ相の記述を充実させるにあたり、棲み込みとの関係の深さが改めて浮き彫りとなりました。今回は実施していませんが、例えばこのシロボヤを裂いてみたりして、新たなヨコエビの棲み込みが確認されたりするかもしれません。夢は広がります。
ドロオニスピオ(広義)の棲管 |
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