毎年恒例の文献紹介。今年で第七弾になります。
(第一弾)
— 富川・森野 (2009) ヨコエビ類の描画方法
— 小川 (2011) 東京湾のヨコエビガイドブック
— 石丸 (1985) ヨコエビ類の研究方法
— Chapman (2007) "Chapman Chapter" In: Light and Smith Manual (West coast of USA)
— 平山 (1995) In: 西村 海岸動物図鑑
— Barnard and Karaman (1991) World Families and Genera of Marine gammaridean Amphipoda
(第二弾)
— Lowry and Myers (2013) Phylogeny and Classification of the Senticaudata
— World Amphipod Database / Amphipod Newsletter
— 富川・森野 (2012) 日本産淡水ヨコエビ類の分類と見分け方
— Arimoto (1976) Taxonomic studies of Caprellids
— Takeuchi (1999) Checklist and bibliography of the Caprellidea
— 森野 (2015) In: 青木 日本産土壌動物
【コラム】文献情報のルール
(第三弾)
— 有山 (2016) ヨコエビとはどんな動物か
— 森野・向井 (2016) 日本のハマトビムシ類
— Tomikawa (2017) Freshwater and Terrestrial amphipod In: Species Diversity of Animals in Japan
— Bousfield (1973) Shallow-Water Gammaridean Amphipoda of New England
— Ishimaru (1994) Catalogue of gammaridean and ingolfiellidean amphipod
— 椎野 (1964) 動物系統分類学
【コラム】ヨコエビの分類にはどこから手を付けるか
(第四弾)
— Lowry and Myers (2017) Phylogeny and Classification
— Bellan-Santini (2015) Anatomy, Taxonomy, Biology
— Hirayama (1983–1988) West Kyushu
— 井上 (2012) 茨城県のヨコエビ
— 永田 (1975) 端脚類の分類
— 菊池 (1986) 分類検索, 生態, 生活史
【コラム】文献の入手
(第五弾)
— Arfianti et al. (2018) Progress in the discovery
— Ortiz and Jimeno (2001) Península Ibérica
— Miyamoto and Morino (1999) Talorchestia and Sinorchestia from Taiwan
— Miyamoto and Morino (2004) Platorchestia from Taiwan
— Morino and Miyamoto (2015) Paciforchestia and Pyatakovestia
— 笹子 (2011) 日本産ハマトビムシ科
【コラム】野良研究者
(第六弾)
— Lecroy (2000–2011) Illustrated identification guide of Florida
— Cadien (2015) Review of NE Pacific
— Copias-Ciocianua et al. (2019) The late blooming amphipods
— Bate and Westwood (1863) British sessile-eyed Crustacea
— 青木・畑中 (2019) われから
— Bousfield and Hoover (1997) Corophipodae
【コラム】ヨコエビの同定
<今年のオススメ>
— 岡西政典 2020. 『新種の発見 見つけ、名づけ、系統づける動物分類学』,中公新書.264 pp. 中央公論新社,東京.ISBN978-4-12-102589-0
本書の内容はヨコエビに限ったものではありませんが、『種を記載する』以来じつに10年ぶりに「新種を科学のまな板へ載せる」過程を真っ正面から扱った本に出逢えた気がするのでご紹介します。ただ、当然のことながら一般向けの書籍です。著者の経験に基づく事例が豊富に引かれているものの、具体的なデータやハウツーを集積した資料本や教科書の類ではありません。
海産無脊椎動物の分類というジャンルがいかにヒトデ・・・人手を必要としており、どのように未知の生物と出会い、それを体系づけ、またサンプル(例えばヨコエビ)を集めた先に何が待っているのかなど、研究の概要を知ってもらうには絶好の書物かと思います。私なんか「分類学の世界の状況」が全くわからないまま「分類の割合の多い卒論」で学位を得ようとしましたから、こういった本に出会えていればまた仕事の質は違っていたような気がします。新書版で手を出しやすいのも良いです。
<カマキリヨコエビ属 Jassa の分類にオススメ>
— Conlan, K. E. 1990. Revision of the crustacean amphipod genus Jassa Leach
(Corophioidea : Ischyroceridae). Canadian Journal of Zoology, 68(10): 2031–2075.
今年、かなりアツいモノグラフ (Conlan 2021; Conlan et al. 2021) が出たことで盛り上がっているカマキリヨコエビ界隈ですが、30年前に同じ著者によって書かれたのがこちら、カマキリヨコエビ属の全貌がおそろしいほどよく分かる愛蔵版ともいえる論文です。
カマキリヨコエビ属のオスには多型があり、major maleとminor
maleなどと区別されることは著名ですが、この論文では発達過程などについての知見を得ることができます。日本産種としてフトヒゲカマキリヨコエビのほか、モリノカマキリヨコエビ、ムシャカマキリヨコエビを記載しており、これらの識別には非常に有用です。しかし、ここまで大掛かりな仕事を経てもなお、本邦には未だに多くの未記載種が残されておりますので、同定に際しては慎重を心がけてください。
<ドロソコエビ属 Grandidierella の分類におすすめ>
本邦のドロソコエビ属を同定するにあたり押さえておくべき論文をご案内します。Zootaxa 以外はフリーアクセスで読みやすいのも良いです。
南米の淡水ヨコエビの決定版が出たようです。メンバーについて本邦とほぼ共通点はありませんが、淡水ヨコエビを分類するにあたって確認すべき形態的特徴をわりとしっかり解説しており、おすすめです。
— ウィンストン, ジュディス・E[馬渡峻輔・柁原宏 訳]2008.『種を記載する』新井書院,東京,653 pp.,ISBN:9784903981000
【コラム】自室からヨコエビリティを探索するには(試案)
ステイホームの政府方針に沿った行動を心がけたため、採集ができていません。そこで、越境せずにヨコエビを得るため、新たなフィールドの開拓を試みることにしました。
卒論からヨコエビ界に入門した関係もあって当方の主戦場は研究室の流れをくんで沿岸,特に干潟域に偏重しています。
干潟面そのものから得られるヨコエビは限られますが、主に漂着物や構造物からヨコエビを得てきました。また、広大な砂泥表面のどこからヨコエビを得るのか、いろいろと牙を研いできたつもりではあります。こういった勘は現場での動きだけでなく、ロケハンでも試行錯誤を繰り返してきました。遠隔地の状況を Google Map で確認し、効率の良い採集スケジュールを立てるのが(たぶん)フリーランスのアンフィポドロジストに求められるスキルであって、こうして岡山の成果が出たものと自負しています。
しかしというべきか、従ってというべきか、沿岸部以外のヨコエビについては経験がほぼ無いという弱点があります。いずれ陸域も攻めたいと思っていましたが、相当難易度が高いという認識がありました。それは「次元の違い」です。
沿岸の環境=海岸線です。線を辿っていけば、対象地域の沿岸環境を全てスキャンすることができます。しかし、完全に海側に出たり、陸側に上ったりすれば、前後左右に多様な微環境が広がります。対象地域を定めると、その中を絨毯爆撃する必要があります。また、陸棲ヨコエビについて言えば、一般的に海岸域より個体数密度が低いとされており、エンカウント率は下がります。
というわけで、難しい理由ばかりが思い浮かぶので、あらゆる困難を打破しうる方法論の開発を試みました(誰でも思いつきそうな方法ではありますが)。これは例えば、私とは逆に陸域から海域に進出しようというヨコエビストにも歓迎されるかと思います。ただ、これを編み出す過程で2回ほどフィールドに出たものの、まだこれといった成果は上がっていません。淡水域の微環境の見極めスキルが足りないようです。
1. 過去の記載論文を集める
採取したい分類群を科なり属なりに絞り、文献を集めます。できれば今世紀に入ってからの論文がよいです。
2. タイプロカリティ情報を抜く
「Material Examined」等の中に記されているタイプ標本の産地を確認し、緯度経度を抜きます。
3. いつもの Google Map
緯度経度を打ち込み、採集地の状況を特定します。緯度経度の表記には「日本測地系」と「世界測地系」がありますのでご注意下さい。
4. 国土地理院
HPに無料公開されている地図も確認して、河川の流れや植生などを把握します。
5. ふたたび Google Map
ターゲットとしている地域の中で、タイプロカリティに類似した環境がないか探します。ここまでずっとリモートオンリーでシステマティックにやってきましたが、最終段階ではどうしてもある程度の現場経験が必要になってきます。
ヨコエビはある程度護岸された水域でも採集することができますが、前提として生息基質となる水草や海藻などが必要です。見たところ、陸水域において完全にコンクリート化されたような環境では、水草が生えていてもフロマミくらいしか採れない印象があります。陸域も海域もあらかたコンクリート護岸されている今日び、コンクリート護岸が磯的環境として生物に利用されうる海域、そしてコンクリートの割れ目から石清水のような染み出し水がある陸水域が、狙い目となるのではないでしょうか。
海域では地域によりますが 石灰藻<褐藻<紅藻<緑藻 の順にヨコエビの種数が増える気がします。これは色素の種類というより、葉の硬さや形状の複雑さが重要なようです。ゆえに、根が入り組んでいたり葉状体が細かく分岐する紅藻はかなり色々な端脚類を住まわせていたりします。こういうのがある程度遠隔の写真で見れればよいのですが、Google map では限界があります。
陸水と海岸の違いとしては、季節変化があるように思えます。河川等には水の多い時期と少ない時期があり、都度水たまりが生じたり消えたりしますが、そういった短命な水面は淡水ヨコエビの生息源にはなりにくく、衛星写真を吟味する時に重要な要素です。一方、海岸線は毎月ダイナミックな変化を見せるものの、衛星写真で狙いをつけた汀線はさほどブレません。撮影時期に左右されることが少なく、毎日あるいは毎月の変化の幅を植生等から容易に推測できるからです。
こういった要素を意識しながら、検証を重ねながらまた続報をご紹介するつもりです。
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