関東圏を廻って採集しています。
銚子のヨコエビリティを追求する中で、銚子に連なる太平洋岸の状況も見ておきたいと思い、千葉県某所にやってきました。チーバ君で言うとお尻のあたりです。
この辺りは、久保島1989で調査されたポイントとしては、千葉県内では唯一のサイトです。Ampithoe shimizuensisが記録されたりしていて、これは今日の裏テーマです。水深2mのワカメから見つかっているのでちょっと不安でありますが…
岩礁と砂浜が並んだ、良い感じの環境です。
岩の表面には石灰藻が多く、大型藻類は褐藻がほとんどを占めており、紅藻や緑藻が見あたりません。場所により褐藻の表面にも石灰藻が侵食していて、ピンクになっていたりします。紅藻が多い銚子の海岸とは少し異なります。
となると、ベニヒバにいる赤いあいつの分布地域ではない、と考えられるわけです。
ウミウチワ多め |
石灰藻が多いといえば、横須賀のあの感じですが、それを考えると、モクズとアゴナガを基本として、テングヨコエビ,フサゲヒゲナガっぽいヒゲナガヨコエビや、JassaやEricthoniusあたりが期待できそうです。一方、泥質やデトリタスの滞留が見られず、淡水の流入も少なそうなので、ドロクダムシなどはあまりいないかもしれません。
さて、風向きが悪いのかなかなか引かない感じもしつつ、波当たりが相当穏やかな砂浜からエントリーして褐藻をガサります。
何やら丸い甲殻類がいます。等脚ではなさげです。
Pereionotus カメノコヨコエビ属? |
Phliantidae ミノガサヨコエビ科やんけ。
とりあえず自己初科となります。
生息基質から離れるとボールになるのは何となく想像つきましたが、もういいかな、となったら、シャキーンと脚を開いて基質にくっつくんですね。カッコよすぎか。モーションがカッコよすぎか。
ミノウミウシ的な |
Pleustidae テングヨコエビ科も採れました。
左:巻貝,右:ヨコエビ |
「私は(巻)貝になりたい」を地で行くテングヨコエビには脱帽です。
こちらはタテソコエビ科とかモクズヨコエビ科とか。アゴナガヨコエビ科,イソヨコエビ属も採れましたが、銚子の有象無象のサンプルがまだあるので積極的には拾っていません。
やたらメタリックなモクズとか、やたら模様が細かいモクズもいました。
Hyalidae モクズヨコエビ科 |
安定の触角が取れやすい Podocerus ドロノミ属。
もう何が何だか分からないかと思いますが採取時は確かにドロノミ sp.(♀)でした。 |
銚子のような巨大なヘラムシはいなかったのですが、カニが多い気がします。
あと、いろいろな魚が多いです。
こぶし大のフグはヨコエビを食べたりはしないと思いますが、ハゼ系はまさしくヨコエビの捕食者でしょう。
かわいい。 |
沖の方の流れに揉まれているやつより、岸に近いところに意外とヨコエビが多いことに気付き始めました。胴長を水没させてまで深場を攻めた意味があまり・・・
そしてまた変なのが・・・
Iphiplateia ミノガサヨコエビ属 |
今度は Iphiplateia ミノガサヨコエビ属ですね。
一度は会ってみたかった、会わねばならぬと思っていたヨコエビです。
もう完全に横向きにならない生き方を選択したヨコエビです。
カメノコヨコエビと比べると、遥かに平べったいのと、全体的に将棋の駒に似て末広がりというか、ホームベースみたいな形状をしています。カメノコヨコエビはアーモンド形というか、木の葉というか、両細の形をしています。
とにかく薄い。平面ガエルすら立体的に思えます。
この透けるほどの薄さが擬態の効果を高めていますね。海藻表面で見つかりにくい、の次元ではなく、全く分かりません。ヨコエビがいるのに分からないという体験は初めてです。悔しい。
泳いでいると、海藻の表面の層が剥がれて漂っているようにしか見えません。
やや身体を反らせて、背中の方向へ引っ張られるように弧を描いて泳ぐ様子は、やはり反った薄片が流されているようにしか見えません。そして脚が重なったり取れたりした個体は簡単にシンメトリが崩れるので、もう分かりませんね。
大して泳げないはずなのですが、現在の分類上ではあまり種分化していない感じっす。もしかするとアレかもしれませんが、とりあえず属までということで・・・
そして、これは何だろう。
ウミウチワをガサガサしていたら、変なヒゲナガヨコエビを見つけてしまいました。
Sunamphithoe ニセヒゲナガヨコエビ属? |
第5胸脚基節がかなり円形に近く、Ampithoe ヒゲナガヨコエビ属ではないようです。ヒゲナガヨコエビ属とはだいぶ違って、細い触角を伸ばし、胸脚を開いてトレーの平面に乗っかっている様子はアゴナガヨコエビ感すらあります。
当時 Peramphithoe であった S. orientalis のサンプルを同定したことはありますが、この属の生きている個体は初めてですね。
ヒゲナガヨコエビ属と比べてかなり触角が細いです。懸濁物食よりグレーザーに寄っているのでしょうか。
ぱっと見、腹肢の発達度合いは分かりませんが、第5~7胸脚はヒゲナガヨコエビ属と比べると幅広く、指節は短いです。より遊泳性なのではないでしょうか。
ニセヒゲナガヨコエビ属のオスは、第2咬脚の掌縁が前節下縁の大部分を占めるような、特徴的な亜はさみ形となったりしますが、あまり咬脚の発達した個体は出ませんでした。
最大干潮でギリギリ干出しないような浅い砂地には、デトリタスがこびりついた海藻がありました。
これより沖側では、海藻はだいたい岩に付いていて、わりとサッパリしていました。ある程度の水深から、状況が極端に変わるようです。
Ericthonius pugnax イソホソヨコエビ |
ホソヨコエビの類は海藻の根元とか分かれ目とかそういうところに筒状の巣を作っている様子をよく見かけます。E. pugnax イソホソヨコエビは、オスの第2咬脚底節板が前方へ伸長せずに縦横がほぼ等しい台形をなし、第5胸脚基節後縁が下垂することで、E. brasiliensis モバソコトビムシと区別できます。
かなりいるかと踏んでいましたが、Jassaはほぼいませんでした。
そしてまた何らかのヒゲナガヨコエビ。
Ampithoe cf. koreanaメスは野外ではより緑色部に赤みを帯びて見え、 そこに白い斑紋が浮き上がって、かなり強烈なデザインです。 |
A. zachsi フサゲヒゲナガっぽいヒゲナガヨコエビですが、咬脚の形状がだいぶ違います。恐らくA. koreanaです。
メスの方は特徴が分かりにくいですが、オスはかなり特徴が出ています。他に触角がモサモサする種には、少し狙っていたA. shimizuensisもメスがこの系統ですが、全体のプロポーションや咬脚の形状が異なるようです。
ただ、一緒に採れたからといってこれらの個体が同種かどうかは確定が難しいのと、解剖をしていないので、後程改めて検討したいと思います。
海岸漂着物は期待を遥かに上回る仕上がりで、少しめくっただけで、発育の良いごろっとしたハマトビがたくさん飛び上がってきました。
ヒメハマかと思いきや、全て Sinorchestia nipponensis ニホンスナハマトビムシでした。期待を上回る収穫です。
Sinorchestia nipponensis ニホンスナハマトビムシ |
海水浴場のはずなので、ここの海岸はシーズンになると相当清掃されてしまうのではと思われます。しかし、これだけスナハマトビムシが生息しているということは、近接の生息地から供給されるのでしょう。このように生息基質の攪乱や喪失が多い環境では、ヒメハマのほうが拡散・定着しやすいかと思っていましたが、スナハマトビムシにもかなりのポテンシャルがあるようです。
あるいは、これだけレジャー利用が進んでいても、少しだけ草地があるので、スナハマトビムシの逃げ場があるのかもしれません。
スナハマトビムシはどうやらチーバくんのおしりから後頭部くらいまで分布していて、耳の先まで来ると見つからないようです。
銚子のスナハマトビリティに見切りをつけるのはまだ早いかもしれませんが、グーグルマップのロケハンでは分からなかった実態を知ることができました。
何らかのカモメ |
(参考文献)
- Ariyama, H. 2009. Species of the genus Ericthonius (Crustacea: Amphipoda: Ischyroceridae) from western Japan with description of a new species. Bulletin of the National Science Museum, suppl.3: 15-36.
- Gurjanova, E.F. 1938. Amphipoda, Gammaroidea of Siaukhu Bay and Sudzhukhe Bay (Japan Sea). Reports of the Japan Sea Hydrobiological Expedition of the Zoological Institute of the Academy of Sciences USSR in 1934, 1: 241-404.
- Kim, H.S., C.B. Kim 1988. Marine Gammaridean Amphipoda (Crustacea) of the Family Ampithoidae from Korea. The Korean Journal of Systematic Zoology, Special Issue (2): 107-134.
- 久保島康子 1989. 日本におけるAmpithoe属(Ampithoidae)の分類学的研究. 茨城大学大学院理学研究科修士論文.
0 件のコメント:
コメントを投稿